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カテゴリ:国内「か」の著者
小説、随筆、書評、翻訳、連句など幅広い領域で活躍し、まさに文学における「達人」であった丸谷才一。その文学世界を解読して大好評を博した連続講演(世田谷文学館 二〇一三年)を書籍化。各界の第一人者であり、かつ生前の丸谷と親交が深かった豪華講師陣が、丸谷文学の全貌を多角的に明らかにする。文芸評論、書評、和歌、フランス文学、歌舞伎…視点の異なる各論考が“丸谷才一”で一本につながり、大文学者の多彩な魅力が改めて浮かび上がる。生前の丸谷との貴重なエピソードも収録。(「BOOK」データベースより)
■菅野昭正・編『書物の達人・丸谷才一』(集英社新書) ◎人間・丸谷才一を知った 菅野昭正・編『書物の達人・丸谷才一』(集英社新書)は、丸谷才一の偉大な業績を知るうえで欠かせない一冊です。本書は2013年に「世田谷文学館」で開催された連続講演をベースに書籍化されました。本書の執筆陣は丸谷才一と親交の深かった、川本三郎、湯川豊、岡野弘彦、鹿島茂、関容子の5人です。 丸谷才一の幅広い業績については、いまさらご紹介することもないでしょう。したがって本書から新たに得た発見をまとめることにします。 【書評への関心】 丸谷才一は大学院(英文科)のときに、友人・篠田一士(推薦作『二十世紀の十大小説』新潮文庫)とともにイギリスの新聞や雑誌をとり寄せ、書評欄の充実に驚愕しています。書評の業績への萌芽はここにあったと、湯川豊(推薦作『イワナの夏』ちくま文庫)は書いています。 ――「書評といふジャーナリズムこそ社会と文学とを具体的にむすびつけるもの」という丸谷さんの持論が最初につくられたのだと思われます。(湯川豊の章P80) 【丸谷才一の文体】 ――丸谷さんの文章を読んでいると、常に対話が行われている文体なんですね。それは、エッセイでも小説でも全部そうです。対話を活かしながら話が進んでいく。常に他者がいて、その他者との会話で論点を深めながら小説なり、エッセイを進めていくのが丸谷さんのやり方です。(鹿島茂の章P142) 【丸谷才一が嫌っていたもの】 ――私小説が丸谷さんの文学的な最大の敵だったことはよく知られていますが、私小説で丸谷さんが一番嫌いだったのは、そこには対話がないということなんです。(鹿島茂の章P142) 【丸谷才一が評価していたもの】 丸谷才一が評価していた文学者の筆頭は、折口信夫と永井荷風です。前者は「官能的なもの」を追及していたからです。後者は「戦争や兵隊」嫌いが自分と似通っていたからでした。(本書を参考にしています)丸谷才一が評価していた作品の筆頭についての記述を引用させてもらいます。 ――丸谷さんは『新古今和歌集』が一番好きでした、『新古今』の特徴は、自然が歌われているようだけれども、あれは全然自然ではなく、ほかの歌からの本歌取りであって、文学から文学をつくるものです。(鹿島茂の章P144) まだまだ紹介したいことは、たくさんあります。私は丸谷才一の小説もエッセイも好きです。しかしもっとも評価しているのは、書物のナビゲーターとしての丸谷才一です。つぎの4冊は、いつも身近なところにおいてあります。なにを読もうかと迷ったら、すかさず丸谷才一が「これ読め」といってくれます。 1.快楽としての読書・日本篇(ちくま文庫、解説:湯川豊) 2.快楽としての読書・海外篇(ちくま文庫、解説:鹿島茂) 3.快楽としてのミステリー(ちくま文庫、解説:三浦雅士) 4.丸谷才一編:私の選んだ文庫ベスト3(ハヤカワ文庫) ◎丸谷才一と井上ひさし 奥行きの深い作家として、私は丸谷才一と井上ひさしを高く評価しています。2人の文字は丸みを帯びていて、流れるように走ります。似ているな、と思います。大学生のときに安部公房のサイン会に行ったことがあります。目の前で書いてくれた文字は、角ばっていて一字一字が独立していました。 2人が似ているのは、文字だけではありません。丸谷は歌舞伎、井上は舞台と軸足をのばしています。日本語や国語に関する著書は2人ともたくさんあります。小説やエッセイにちりばめられているユーモアのセンスも似ています。そしてなによりも、2人は博学だということです。 残念なことに2人とも、この世を去ってしまいました。懐の深い作家で、2人を追従できるとしたら、田辺聖子くらいしか思い浮かびません。それほど2人は文壇でも突出した人だったのです。 勝手に2人のお薦め作品を、5冊にしぼって書いてみたいと思います。 【丸谷才一】 1. 『女ざかり』(文春文庫) 2. 『思考のレッスン』(文春文庫) 3. 『文章読本』(中公文庫) 4. 『私の選んだ文庫ベスト3』(ハヤカワ文庫、丸谷才一・編) 5. ジョイス『若い芸術家の肖像』(新潮文庫、丸谷才一・訳) 【井上ひさし】 1. 『吉里吉里人』(新潮文庫) 2. 『戯曲・頭痛肩こり樋口一葉』(集英社文庫) 3. 『自家製文章読本』(新潮文庫) 4. 『完本・ベストセラーの戦後史』(文春学芸ライブラリー) 5. 『四千万歩の男』(全5巻、講談社文庫) これだけをならべただけで、圧倒されます。2人に共通していることは、幅広い読書量であることを、いまさらながら感じました。 (山本藤光標茶六三:2014.09.22初稿、2015.02.25改稿) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2017年10月09日 14時56分03秒
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