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2015年05月09日
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ウォール街の証券マン、ニックは、偶然巻き込まれた事故で突如<透明>になってしまった。透明になったら無限の自由が手に入ると思っているあなた、ちょっと待って下さい。透明な人生は決して楽ではありません。食事は?買物は?生活費は?でも見えても見えなくても、人は生きていかねばなりません。透明人間の苦難と哀しみの底から、不透明な現代が浮び上がってくる秀逸な作品。(「BOOK」データベースより)

H.F.セイント『透明人間の告白』(上下巻、新潮文庫・高見浩訳)
セイント:透明人間の告白.jpg

◎それでも透明人間になりたいですか

H.F.セイント『透明人間の告白』(上下巻、新潮文庫、高見浩訳)は、単行本で1988年の後半に読んでいます。文庫化されたので、再読してみました。初出のときには重過ぎて、通勤電車にはもちこめませんでした。文庫の方は上下巻になり、サイズも小さいのでカバンにおさまります。

文庫の帯には、心躍るコピーがしたためられています。私も納得のコピーです。

――「1988年『本の雑誌』が選ぶ30年間のベスト30」
堂々の第1位! 
無限の自由が手に入ると思っていた彼。

「堂々の第1位」は、どうでもいいことです。「週刊文春」では、1988年ミステリ部門の第7位でした。私は単行本で読んでいましたので、雑誌が選ぶ順位には関心がありません。それよりも気になったのは「無限の自由が手にはいると思っていた彼」というコピーです。

だれにでも透明人間願望は、あるのかもしれません。私は現実的だったので、考えてみたこともありません。文庫での読み方は、新たな発見にウエイトをおきました。だから、急いでページをくくる必要はありません。それでもあのときの感動は、同じようによみがえってきました。この作品はおそらくベスト・ミステリー作品として、永久に語りつがれると思います。

作品は題名のとおり、透明人間になってしまった「僕」の告白手記、という体裁になっています。

――ともかく、事の発端は、僕のごく平凡な人生の中途で起きた、ある小規模ながら異常な科学的不祥事だったのだ。それが、ニュージャージーの地表のごくごく狭小な地域をまったく透明に変えてしまったのである。そして僕は、まさしくその決定的瞬間、偶然にも、その狭小な地表にいた。おかげで、すぐ周辺にあった事物もろとも、あっというまに変身してしまった。(本文P6より)

ウオール街に勤める若い証券アナリスト、ニック・ハロウエイはある日、爆発事件に巻きこまれます。かろうじて難をのがれたニックは気を失い、目覚めた翌朝、室内のすべてのものが透明になっていることを発見します。そして自分自身も、透明人間になっていたのです。

――ふるえながら手をのばして、失くなった足をさぐった。あるべきところに、ちゃんとあるような気がする。すこし身を起こして両膝に体重をかけ、身体全体をさぐってみた。なにもかもそろっている――いつものようにビジネス・スーツまで着ているのが感触でわかる。にもかかわらず、どんなに頭をよじっても、眼をこらしても、自分の体がまったく見えない。(本文P106より)

ニックはニューヨークタイムズの記者である、アンに思いをよせていました。爆発の1週間前に1夜を交わし、恋人になりそうな予感がしていました。爆発した研究施設には2人できていました。第1章では、アンについての回想がつづきます。

爆発現場は、政府機関により完全に包囲されます。彼らは苦労して、透明の猫を捕獲します。ニックにも捕獲の手がのびてきます。彼は混乱した頭で、モルモットにされてしまうと考えます。逃げのびる決断をします。この記述は初稿のものですが、重大な読み落としがありました。

――自分の姿を他人に見られないということは、それなりのメリトがあるはずだ。並みの人間には望めない自由も享受できるはずだ。(上巻本文P161より)

ニックにはモルモットにされてしまう、という恐怖感は希薄でした。私は初稿(5年前)で前記のように書きました。しかしそうではありませんでした。ニックはばりばりの証券アナリストというよりは、すこし軽薄な男だったのです。このあとにつづく記述も、私は完全に読み落としていました。

――いま現在身につけているものは、僕と同じく透明だから、そのまま着用しつづけることができる。その点でいえば、いま現在この<マイクロ・マグネティックス社>の屋内にあるものならすべて、これからも利用できるだろう。それらもやはり、僕と同じく透明だからだ。こいつはいい。そうだ、見えないこの社屋は、透明な品々の貯蔵庫と言ってもいいではないか。(上巻P161より)

透明人間になっているニックを保護しようと、秘密諜報員が必死に探索しています。ニックは恐怖のなかで、冷静にそう考えたのです。そしてニックは、透明になっているいくつかの品物をもって、現場から孤独な逃亡をはかります。

H・F・セイントは、ウェルズ『透明人間』(岩波文庫)よりも、デフォー『ロビンソン漂流記』(新潮文庫)を参考にしたと語っています。(文庫あとがきを参考にしました)孤独をいやすための道具の存在。H・F・セイントはおそらく、透明な品物をもちはこぶ場面のヒントを、『ロビンソン漂流記』から得たのでしょう。私は再読してよかったと思いました。そして注意力散漫な、自分の読書法を反省しました。

秘密諜報員の追撃で、ニックは自宅も追われます。このとき彼は自分の存在をしめす日記、手紙、写真などを燃やします。それは社会から、自分自身を消し去ることを意味します。こうしてニックは、ニューヨークの街中を逃げまどうことになります。ここからはデビット・ジャンセンの「逃亡者」を連想させられます。物語はさらに、スリリングな展開となります。

――信号が青になったので道路をわたりだしたちょうどそのとき、横の停車線で停まっていたタクシーが、突っ切っても大丈夫とみたのだろう、突然信号を無視して飛び出したのだ。よけるまもなく、僕はそのバックミラーにはじきとばされて、駐車中の車に倒れかかった。(上巻P263より)

――透明人間として白昼の街頭を歩いていくためには、じっさい、絶え間ない注意が必要なのだ。とりわけ用心が肝心なのは、ウォークマンを聞きながらローラースケートで滑っている連中だった。(上巻P381より)

恋とサスペンスに加えて、この作品の優れている点は、主人公の日常生活を克明に描いていることにあります。なにげなく暮らしていた都会が、透明人間になった瞬間から、危険きわまりないものに変貌するのです。
 
引用例のように著者は、甘い透明人間願望を、みごとに打ちくだいてみせます。ここまでディテールに固執した変身譚は、おそらくほかに例はないと思います。

◎ラブストーリーへの変化

主人公は逃亡をつづけながら、ある日顔見知りの女性と出会います。もちろん彼女の方から主人公は見えません。後をつけてゆくと、パーティ会場でした。

主人公はアリスという女性に、一目惚れします。透明人間が自ら、はじめてコンタクトをとります。アリスは驚きながらも、透明人間を受けいれます。物語はここから一変します。透明人間の孤独感と、政府機関の執拗な追跡から逃れる基調が、ラブストーリーに変わるのです。ミステリーからサスペンス。そしてラブストーリーへの展開はみごとです。

透明人間であることにたいする孤独感。自己主張できないことへの歯がゆさ。元の姿にもどれないことへの絶望感。本書を読んだ人はいちように、透明人間にはなりたくないと思うはずです。透明人間になって片思いの人の私生活をのぞいてみたい、などという邪悪な気持ちはなえてしまうことでしょう。

透明人間を題材にした作品は数多くあります。元祖のH・G・ウェルズが『透明人間』(岩波文庫)を上梓したのは、1987年でした。文庫になった翻訳本は複数あります。『透明人間の告白』と読みくらべてもらいたいと思います。

文庫本の訳者あとがきに、印象的な記述があります。
――もしあなたが透明人間になったとして、人前でなにを食べたらその体はどう見えると思いますか。/その場合、ワインとポークではどう違うのでしょうか?/それから生じる不都合を最小限に抑える方法や如何?/ウェルズ先生の『透明人間』を読んでも、そういう現実的かつ切実な問にはまったく答えてくれない。が、本書『透明人間の告白』は、アメリカの評論家がいみじくも評したように、<万一あなたが透明人間になった場合の格好の暮らしの手帳>たるべく、実に懇切丁寧に答えてくれるのである。(あとがきより)

本書をていねいに読んだので、私の場合はいつ透明人間になってもだいじょうぶです。ちなみに「標茶六三の文庫で読む400+α」のH・G・ウェルズ作品は、『タイムマシン』(ハヤカワ文庫SF)を推薦作としています。
(標茶六三:2009.06.29初稿、2015.05.08改稿)






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最終更新日  2015年11月02日 05時28分26秒
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