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山本藤光の文庫で読む500+α

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2015年07月13日
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カテゴリ:国内「よ」の著者
新宿でオカマの「閻魔」ちゃんと同棲して、時々はガールフレンドとも会いながら、気楽なモラトリアムの日々を過ごす「ぼく」のビデオ日記に残された映像とは…。第84回文学界新人賞を受賞した表題作の他に、長崎の高校水泳部員たちを爽やかに描いた「Water」、「破片」も収録。爽快感200%、とってもキュートな青春小説。(「BOOK」データベースより)

吉田修一『最後の息子』(文春文庫)
よし吉田修一・最後の息子.jpg

◎『最後の息子』はいまだに代表作

 たびたび「衣替え」をしています。「山本藤光の文庫で読む500+α」は4つのジャンルから、それぞれ12500+α作品を選ぶことにしています。原則は1著者1作品としている関係で、著者が新たな優れた作品を発表した場合、当然原稿の差し替えをしなければなりません。重松清はなんと5回の差し替えをしました。これを私は「衣替え」といっています。

 吉田修一は『悪人』(上下巻、朝日文庫)で、大きな話題をふりまきました。映画にもなった作品です。読んでみました。吉田修一の推薦作である『最後の息子』(文春文庫)を、凌駕する作品ではありませんでした。

 吉田修一は1999年『最後の息子』(文学界新人賞、芥川賞候補、文春文庫)でデビューしています。その後、2000年『熱帯魚』(文春文庫)、2002年『パレード』(山本周五郎賞、幻冬舎文庫)、2002年『パーク・ライフ』(芥川賞、文春文庫)、2007年『悪人(上下)』(朝日文庫)と書きつらねてきました。

 しかし「衣替え」には、いたっていません。『最後の息子』は完成度の高い作品です。以前にPHP研究所「ブックチェイス」(1999年7月17日号)に掲載したものを、転載させていただきます。

(引用はじめ)
 まず純文学の世界に、注目すべき新人が登場したことを確認しておきたいと思います。吉田修一は24歳から小説を書きはじめました。川端康成が好きだというだけあって、文章が滑らかでわかりやすいものです。

 現在31歳の吉田修一は、表題作「最後の息子」にて文学界新人賞を受賞しました。新宿で「閻魔ちゃん」と呼ばれるオカマと同居する青年の話です。ただし「新宿」「オカマ」といった、他の作品に見られる常套的な構図にはなっていません。
 
 ある日「ぼく」と「閻魔ちゃん」のともだちである、「大統領」がホモ狩りにあって死亡します。今まで日常のなかにあったものが、忽然となくなる喪失感が作品を覆います。

 本書は、主人公「ぼく」がビデオ日記を見ながら、過去を回想する形式になっています。主人公と「閻魔ちゃん」との危うい関係が、「大統領」の死に重なります。形あるものはいつかはなくなる、という事実が主人公を突き動かします。回想が新たな回想を呼びます。吉田修一の作品は、現在から過去へと遡及するところに、絶妙な味があります。
 
「最後の息子」には、重要な2つの小道具が登場します。ビデオと修正液です。過去を塗りつぶして、現在に置き換える文具。過去の映像の上に現在を撮影できるメカ。現在から過去へと回想しつつ、醜悪な過去を修復できる2つの小道具が光ります。

 吉田修一が最初に書いたのは収載作「Water」で、文学界新人賞の最終選考まで残っています。この作品の主人公は、高校の水泳部キャプテンです。メドレーリレーで、全国大会出場を夢見ています。

 水泳部の先輩だった兄がバイク事故で亡くなり、その影響で母親が精神的におかしくなっています。家族の崩壊とひたすら全国大会にむける青春のひたむきさ。家業の酒屋を手伝いながら、仲間と目標に向かう真摯さ。

 この作品では、100メートルを泳ぎきれない後輩・省吾の存在が光ります。著者自身が高校時代に水泳部でしたし、実家も作品同様に酒屋を営んでいます。そんな環境が作品の細部を整え、思わず目頭を熱くさせます。

「破片」は東京へ出ていった兄と、地元に残って家業の酒屋を継いだ弟の話です。しかしこの作品も表向きはそうなのですが、随所に回想される過去が現在を浸食します。作品の構成を追ってみたいと思います。

 最初は穏やかな磯遊びの場面です。幼い兄弟と父親だけが描かれ、母親が他界していることを暗示しています。つぎは東京から帰省してきた兄と弟が、酒屋のトラックで語り合う場面です。そして局地的な大雨による土石流の回想。母親が土石流の巻きこまれて死亡します。磯遊びでは穏やかだった「水」が、濁流となって牙をむいてきたのです。

 このように吉田修一は、器用に現在と過去を出し入れします。吉田修一自身が原点である作品「Water」について、つぎのように語っています。それが吉田作品を表す、すべてではないかと思います。

――最初にまず、タイトルだけが浮かんだんですね。水のことを書きたい。透明で、味もなく、清潔な(「ダ・ヴィンチ」1999年8月号)

 浅田次郎の『鉄道員』(集英文庫)に涙した読者なら、吉田修一の世界を理解できます。そんな作家の誕生です。私はもろ手をあげて、新人作家の登場を喜びたいと思います。
(引用おわり)

『最後の息子』が第84回文学界新人賞を受賞したときの選評を紹介させていただきます。
・ナイーブでいてクール、狡猾でいて爽やか――そう、これは現代の「青春」そのものだ。(浅田彰)
・とても、キュートだと思いました。人の見くびり方に品のある感じ、この小説が好きな人は多いはず。(山田詠美)

◎『熱帯魚』も

『熱帯魚』(文春文庫)は、著者2冊目の作品集です。デビュー作の『最後の息子』は、著者の将来性を予感させるものでした。『熱帯魚』には表題作を含めて、3つの短編が収載されています。いずれもちょっとした事件があって、主人公の心模様が変化するたぐいの話です。

 収載作のなかでは、「熱帯魚」がいちばん印象的でした。この作品は芥川賞の候補作にもなり、村上龍だけが推していました。最終的には落選したのですが。

 主人公の大輔は大工です。子もちの真実と同棲しています。そこには熱帯魚を飼う光男も同居しています。大輔と光男は兄弟でした。大輔が11歳で光男が10歳のときに、2人の両親は離婚しています。

 光男はどんな仕事をしても、長続きしません。昼間からマンションで、怠惰な生活をしています。熱帯魚の飼育が唯一の仕事なのですが、それを放棄してマンションを出ていきます。そんなときに大輔は、真実に籍をいれようと提案します。それにたいする真実の反応が、この作品のすべてを物語っています。

――急にどうしたの? 光男くんがいなくなって心細くなった?」(本文より)

 積み木みたいな日常は、突然安定感を失います。ひとつの切片を失うと、それをカバーするために、他の切片に加重がかかります。「熱帯魚」は不思議な関係で安定していた日常に、空いた穴を描いた作品です。

「グリンピース」「突風」は、小手先だけで仕上げた退屈な作品でした。吉田修一は、階段を上り下りしています。失敗作の後ろに見え隠れしている光。つぎの作品では、大きな事件を描いてほしいと思います。
(この項はPHP研究所「ブックチェイス」2001年2月11日号掲載分に加筆修正しました)

◎デビュー作をしのぐ作品を

『悪人』には、たくさんのハテナマークが点灯しました。「偶然」バスジャック被害から免れる。「偶然」警察署のトイレの窓が開いている。パトカーよりも速く、目的地に到着する。経歴が明らかなセミナー講師が、詐欺グループとつながっている。私には不自然に思われる場面が多かったのです。

 そんなわけで、ずっと吉田修一作品を読んできましたが、まだデビュー作に勝るものに遭遇していません。だから「衣替え」なしで、むかしの原稿をご紹介することになっています。
(山本藤光:2009.12.05初稿、2015.07.12改稿)





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最終更新日  2017年10月12日 09時55分23秒
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