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山本藤光の文庫で読む500+α

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2015年08月11日
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性の問題をはなはだ不気味な粘液的なものとして描いて、実存主義文学の出発点に位する表題作、スペイン内乱を舞台に実存哲学のいわゆる限界状況を捉えた『壁』、実存を真正面から眺めようとしない人々の悲喜劇をテーマにした『部屋』、犯罪による人間的条件の拒否を扱った『エロストラート』、無限の可能性を秘めて生れた人間の宿命を描いた『一指導者の幼年時代』を収録。(「BOOK」データベースより)

サルトル『水いらず』(新潮文庫、伊吹武彦訳)
サルトル・水いらず.jpg

◎サルトルは難しくない

「実存主義」などといわれると、なんだなんだと思ってしまいます。私もそうでした。大学時代に背伸びをして、哲学者の本を読みました。『嘔吐』(人文書院)も『存在と無』(全3巻、ちくま学芸文庫)も、ちんぷんかんぷんでした。サルトル『水いらず』(新潮文庫)を読む前に、大学時代の読書の記憶を呼び覚ましてみました。なにも思いだせませんでした。

偉そうに「山本藤光の文庫で読む500+α」を執筆している手前、サルトルを除外することはできません。再読する前に、「実存主義」を勉強しておこうと思いました。図書館へ行って、分厚い本をめくりました。図書館の書棚で仮死状態になっていた、『存在と無』をたたきおこしました。活字を追っても、理解中枢まで届いてきません。
 
そんなときに手にしたのが、白鳥春彦『図解でスッキリ!超入門・哲学は図でわかる』(青春出版社新書)でした。頭のなかで、右往左往していた、もやもやが氷解しました。この本は、お薦めです。マルクスもニーチェもフロイトも、わかりやすく紹介してくれています。
 
わかったつもりになって、『水いらず』に挑みました。難しくはありませんでした。読みながら私は、江國香織『きらきらひかる』(新潮文庫)を思い出したほどです。この作品に登場する夫婦は夫がホモで、妻とベッドをともにしていません。私は江國香織を、「実存主義」作品として読んではいません。同じようなものがたりなのだ、と吹っきれました。
 
◎フムフムという感じで読んで

主人公のリュリュ(妻)は、アンリーと結婚しています。アンリーは性的不能者で、夫婦に夜の営みはありません。リュリュは、全裸で寝るのを好みます。そのことを夫のアンリーは抗議するのですが、リュリュはいうことをききません。
 
通常なら肉体的なつながりがないのですから、作家は精神的な密着(離反)を描くことになります。ところが「実存主義」というやつは、そうはなりません。私には説明が難しいので、開高健の文章に頼りたいと思います。
 
――人が解体してゼロになれば、そして他者との関係という関係が一切断たれてしまえば、事物だけがのこされる。しかし、人が事物を使うという関係も消えれば、事物はそれ自体の生となって呼吸をはじめることになる。人がドアのノブをにぎってひねってドアをあけるのではなく、ノブが人にそれをにぎらせ、ひねらせるように強制したかと感じられることになる。(開高健「嘔吐」:朝日新聞学芸部編『読みなおす一冊』朝日選書所収)

リュリュは、「ぐったりとした人のそばに溌剌を感じるのは楽しい」と思っています。リュリュには、肉体関係を持っている男・ピエールがいます。おせっかいな女ともだち・リレットも、身近に存在しています。
 
『水いらず』には、年齢、性、社会的な地位などの細かな描写は一切でてきません。私は単純なものがたりとしてこの作品を読み、好感をもちました。リュリュは一度はアンリーを捨て、ピエールとの生活を決心します。

しかし最後には、不能の夫のところに戻ります。これだけの話のどこから、実存主義の匂いを嗅ぎとれるのでしょうか。私は速射砲のようにくりだされるリュリュの妄想を、巧いなと思いながら読みました。

力不足のようです。松岡正剛のように、流れる筆致でサルトルは語れません。私は実存主義作品を、選んだのではありません。本当は『嘔吐』をリストアップしていました。でも文庫化されていないので、見送ることにしました。
 
◎ちょっと寄り道

坂口安吾がサルトルについて、語っている文章を紹介したいと思います。「青空文庫」作品ファイルから、「坂口安吾全集04」(筑摩書房、1998年)に掲載されたものです。私はこの文章で、すべてのもやもやが氷解しました。
 
――織田作之助君なども、明確に思考する肉体自体といふことを狙つてゐるやうに思はれる。だから、そこにはモラルがない。一見、知性がない。モラルといふものは、この後に来なければならないのだから、それ自体にモラルがないのは当然で、背徳だの、悪徳だのといふ自意識もいらない。思考する肉体自体に、さういふものはないからだ。一見知性的でないといふことほど、この場合、知的な意味はない。知性の後のものだから。(上記資料から抜粋引用させてもらいました)

安部公房は「サルトルによれば」という前提で、つぎのように語っています。

――技術者のアンガージェ※と、インテリゲンチャのアンガージェの問題とは、次元の違う問題になるわけだろう。(安部公房・大江健三郎・白井浩司の対談「サルトルの知識人論」より。『安部公房全集020』に所収)

※アンガージュマン
(約束・契約・関与の意)第2次大戦後、サルトルにより政治的態度表明に基づく社会的参加の意として使われ、現在一般的に意志的実践的参加を指す。(「広辞苑」より)

前記の『哲学は図でよくわかる』の例では、つぎのように解説しています。たとえば戦争がおきます。状況の変化にたいして、いかにかかわるかを選択することになります。「積極的に参加する」「戦争から逃避する」のいずれを選びますか。

いま思いだしました。チャタレー夫人の夫・クリフォードも性的不能者でした。調べてみました。ロレンス『チャタレー夫人の恋人』(新潮文庫)は1928年、サルトル『水いらず』は1938年の執筆でした。まあ無関係でしょうが、こんな邪推をするのも読書の楽しみなのです。
(山本藤光:2009.07.31初稿、2015.08.11改稿)





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最終更新日  2017年10月19日 15時04分57秒
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