■小説「どん底塾の3人」013:新たなビジネス
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◎あらすじ
配置転換、リストラ、倒産で転身せざるを得なくなった3人。つぶれそうな定食屋「どん底」で店主亀さんの熱烈指導を受ける。授業料はいらない。ただし定食屋「どん底」の再建に力を貸してもらいたい。あの「世界一ワクワクする営業の本です」を、新たなものがたりにリメイクしました。(山本藤光)
◎第013話
加納百合子は、まだ迷っていた。辞表は書いたものの、それを提出する勇気がない。娘のことを考えると、簡単には結論を出せなかった。加納は出口を求めて、「どん底塾」に出席していた。
――第1回研修:新しいビジネスを考える
亀さんはホワイトボードに、文字を書き連ねてから振り返る。右肩下がりの癖の強い文字である。
「来週から実践する定食屋どん底の、新しいビジネスを考えてもらいたい。それを、来週の実践研修で実行に移す。定食屋の新ビジネスとして、何がふさわしいのか。最低限の投資で、売上を増やすことを考えてくれ。おまえたちは、共同経営者だ。おれは金を出す。おまえたちは知恵を出せ」
亀さんは、新たなビジネスといった。スタートは1週間後。そんなに簡単にできるのだろうか。若い海老原浩二は、手軽にできるビジネスをあれこれと考える。資金もなさそうだし、だいいち何の準備もなされていない。料理教室なら、簡単にオープンできそうだ。
大河内雄太は、『どん底塾』を拡大すべきだと考えている。この店なら、一度に30人は収容が可能だ。店は暇そうだし、塾ならテーブルを並べ替えるだけですむ。
加納百合子はさっきから、定食屋の延長線上を探っている。そして大河内の前職だった、仕出弁当を思い浮かべる。
よい知恵が出ないまま、3人の議論は袋小路に入ってしまう。料理教室は、準備のための時間がかかりすぎる。学習塾も、同様の理由で見送ることにした。仕出弁当は最後まで可能性の検討がなされ、時期尚早と保留にした。
来週すぐにできる新たなビジネスは、簡単には見つからなかった。サラリーマン生活にどっぷりと浸かった自分たちには、新ビジネスを考えるのは難しすぎるのかもしれない。加納は思考回路を現実に戻して、そう感じていた。
自分たちで考えたことを、自分たちで実践する。仕事とは、そうしたものだ。3人はやっとスタートラインに並んだ。うんと考えろ。与えられた仕事を、なにも考えずにこなす世界と決別するのだ。亀さんは、心のなかでエールを送る。
※ダントツ営業の智恵
考えることに、時間を惜しまない。とことん考え抜くことで、人は磨かれる。