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2015年09月27日
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魯迅が中国社会の救い難い病根と感じたもの、それは儒教を媒介とする封建社会であった。狂人の異常心理を通してその力を描く「狂人日記」。阿Qはその病根を作りまたその中で殺される人間である。こうしたやりきれない暗さの自覚から中国の新しい歩みは始まった。(「BOOK」データベースより)
魯迅『阿Q正伝・狂人日記』(岩波文庫、竹内好訳)
ロジ魯迅・阿Q正伝.jpg

◎物語の背景に辛亥革命

魯迅『阿Q正伝』は高校国語の教科書に、載っていました。「阿Q」という風変わりなタイトルを知って、T(禎)子、U(裕)子、K(啓)子などと書いて、楽しんだ記憶があります。また著者の魯迅は中国人で、医学を学ぶために日本に留学していたことも覚えています。

今回、魯迅『阿Q正伝・狂人日記』(岩波文庫、竹内好訳)を再読してみて、物語の背景に辛亥革命があることを知りました。高校時代は、不思議な主人公の小説、という印象しかありませんでした。

――阿Qには、家がなく、未荘の土地廟に住んでいた。決まった職もなく。日傭いとして、やれ麦を刈れ、やれ米をつけ、やれ船をこげ、と言われるとおりの仕事をした。(本文P105)

物語の冒頭を引用しましたが、革命が背景にある割には、何とも頼りない主人公のお出ましです。辛亥革命と明治維新を並べて、高橋和巳は著作の中でユニークな見解を述べています。

――日本の明治維新が西郷隆盛、坂本龍馬、高杉晋作や久坂玄端、吉田松陰や勝海舟、敵味方ともに、英雄豪傑を通じて語られ考察されるように、そういう視点を採用することもできたし、その方があるいは小説としては波乱万丈、より面白くなったかもしれない。(『高橋和巳作品集8』(河出書房新社P371)

ところが魯迅はあえて、一風変わった庶民を主人公に仕立てました。『阿Q正伝』は、魯迅の意欲的な挑戦作です。魯迅がなぜひ弱な主人公を選んだかについては、阿部昭は魯迅のエッセイ(『どうして私は小説を書くようになったか』)から、次のような考察をしています。

――何のために小説を書くのかといえば、必ず「人生のため」、しかもこの人生を改良するためでなければならぬ。そこで、自分はなるべく病んだ社会の不幸な人々を題材にしたかったからだ。(阿部昭『短編小説礼賛』岩波新書P191)

◎阿Qの精神的勝利法

『阿Q正伝』が誕生した、時代背景をおさえておきたいと思います。
――阿Qの生きた清朝末期から民国初期の革命時期は、中国では価値観が大きく転換する激動期でした。昨日までの社会の秩序を維持していたと考えられた規範や伝統文化などが、一転して足枷とされて否定されてゆく。(津野田興一『世界史読書案内』岩波ジュニア新書P49)

そして津野田興一は、つぎのように結びます。
――魯迅は文学作品という「武器」を手に、中国人が自分自身の姿を見ることができるような鏡を提示したのです。(津野田興一『世界史読書案内』岩波ジュニア新書P49)

このように魯迅は、中国の民衆に向けて、時代を映す鏡を提供しました。

阿Qは自尊心が強く、いつも周囲から馬鹿にされていました。しかし阿Qには、独特な精神的勝利法がありました。それは自分に都合のよい解釈をして、怒りを鎮める技術でした。

――ところが阿Qはものの十秒とたたずに、やはり満足して意気揚々と引きあげる。われこそ自分を軽蔑できる第一人者なりとかれは考えるのだ。(本文P108)

以前に『阿Q正伝』をベースに、「自己抑制」というテーマで文章を書いたことがあります。

阿Qはケンカをしても、常に負けます。賭博をして有り金をすべて巻き上げられます。そんなときに阿Qは、ささいなことだと笑いとばす気持ちに切りかえます。

私が書いたコラムは、不愉快なときに「不愉快だ」を10回唱えれば、やがて「愉快だ」といっている自分に出会う、という類の文章です。不愉快を引きずらない自己抑制については、阿Qの精神的勝利法がヒントとなりました。

時代が生んだ滑稽な男の物語

そんな阿Qに女性がらみの、屈辱的な事件が連続します。通りがかりの尼さんの頬をつねって、大騒ぎとなります。趙旦那に雇われた阿Qは、そこの女中に言いよって問題となります。阿Qは村から追放されます。

城内に追放された阿Qは盗人の片棒をかつぎ、大金を手にして村に戻ってきます。それまで阿Qをないがしろにしていた村人たちは、手のひらを返したように接します。自尊心がむくむくと頭をもたげてきます。

ある夜、趙家が略奪にあいます。阿Qは事件の関連で逮捕されます。役人の尋問を受けた阿Qは、弁明することはないといいます。翌日、役人が筆と紙をもってきて、署名しろといいます。阿Qは筆をもったことがありませんでした。

――このときの阿Qの驚きは、文字どおり「魂が消えた」に等しかった。なにしろかれの手が筆と関係をもつのは、これが最初だったから。どう握ったものやら、わからないでいると、男は紙の一カ所を指して、署名しろと言った。

阿Qは渾身の力をこめて、マルを書きます。

この先のストーリーにはふれません。抑圧された時代を生きる阿Qのしたたかさや智恵は、魯迅が庶民に発したメッセージでした。魯迅『阿Q正伝・狂人日記』(岩波文庫、竹内好訳)は時代が生んだ、滑稽な一人の男の物語です。
(標茶六三:2011.08.07初稿、2015.09.25改稿)






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最終更新日  2015年11月02日 06時20分33秒
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