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カテゴリ:国内「は」の著者B
ダム建設現場で働く男がセメント樽の中から見つけたのは、セメント会社で働いているという女工からの手紙だった。そこに書かれていた悲痛な叫びとは…。かつて教科書にも登場した伝説的な衝撃の表題作「セメント樽の中の手紙」をはじめ、『蟹工船』の小林多喜二を驚嘆させ大きな影響を与えた「淫売婦」など、昭和初期、多喜二と共にプロレタリア文学を主導した葉山嘉樹の作品計8編を収録。ワーキングプア文学の原点がここにある。(「BOOK」データベースより)
葉山嘉樹『セメント樽の中の手紙』(角川文庫) ◎小林多喜二らに大きな影響 葉山嘉樹『セメント樽の中の手紙』(角川文庫)は、2008年に角川文庫から復刊されました。葉山嘉樹作品のほとんどは、「青空文庫」でダウンロードして読んでいました。今回「山本藤光の文庫で読む500+α」で紹介したくて、文庫本を購入してきました。 葉山嘉樹は小林多喜二らに大きな影響を与えた、プロレタリア文学作家です。現在書店で入手可能なのは、『セメント樽の中の手紙』(角川文庫)『海に生くる人々』(岩波文庫)『淫売婦/移動する村落』(岩波文庫)の3冊です。『淫売婦/移動する村落』のなかには「セメント樽の中の手紙」が所収されています。 角川文庫『セメント樽の中の手紙』には、処女作「牢獄の半日」(1924年発表)や「淫売婦」などの短篇8作品が所収されています。 葉山嘉樹は早稲田大学高等予科に進学し、学費未納で除籍されています。その後貨物船の船員、セメント工場作業員などを経て、労働争議に関心を示すようになります。1923年名古屋共産党事件で検挙、投獄されます。獄中で書いたのが「淫売婦」や「海に生くる人々」でした。 『海に生くる人々』に影響を受けて、小林多喜二は『蟹工船』を執筆しています。プロレタリア文学の新時代を築いたとされるこの作品は、『蟹工船』の読者なら読んでいただきたいと思います。 日本のプロレタリア文学は、青野季吉や蔵原惟人を先達としてあげられています。葉山嘉樹『海に生くる人々』は、2人の思想を具現化した作品としても高い評価をうけています。 プロレタリア文学とは、大正末期から昭和初期に隆盛した。簡単にいえば階級闘争の手段として、マルクス主義を文学作品で表現しようという運動です。辞書的な解説によると、つぎのようになります。 ――階級的、政治的立場に立ち、社会主義ないし共産主義に基づいて現実を描く文学、および運動をいう。(中略)代表的作家に、葉山嘉樹、黒島伝治、小林多喜二、徳永直、平林たい子らがいる。(「ブリタニカ国際大百科事典」より) ◎恋人はセメントになりました 「セメント樽の中の手紙」は、文庫本でわずか6ページの短篇です。ものがたりを紹介しようにも、短すぎて全文を書き写してしまいかねません。セメント樽をあける仕事をしている労働者が、樽のなかから1通の手紙を発見します。それだけではタイトルそのままをなぞっているだけではないか、と叱られそうです。でもそれだけの話なのです。 セメント樽のなかに入っていた手紙は、セメント工場で働く女工が書いたものでした。手紙の全文は写せませんが、おおよそこんな内容です。 ――私の恋人はセメントになりました。私はその次の日、この手紙を書いて此(この)樽の中へ、そうっと仕舞い込みました。/あなたは労働者ですか、あなたが労働者だったら、私を可哀相だと思って、お返事下さい。/此樽の中のセメントは何に使われましたでしょうか、私はそれが知りとう御座います。(本文P10より) こんな手紙を読んだあなたなら、どのような対応をするでしょうか。主人公の松戸与三は、毎日ヘトヘトになるまで働いています。唯一の楽しみは、仕事のあとの一杯です。家には6人のこどもがいて、7人めが妻のお腹のなかにいます。 手紙をもち帰った松戸与三の反応に、注目してもらいたいと思います。本書に関する文壇での位置づけを確認しておきます。 ――大正15(1926)年発表の葉山嘉樹『海に生くる人々』は、労働文学の総仕上げで同時に次のプロレタリア文学の最初の輝かしい記念碑であった。(「新潮日本文学小辞典」より) 私は「プロレタリア文学」が好きです。ただし前記のように文学作品を、階級闘争の手段に用いられた時代があります。「大正期の文学は私小説や心境小説が主体であり、人間認識・社会認識に立ったプロレタリア文学は異彩を放っていた」(松原新一・磯田光一・秋山駿『戦後日本文学史・年表』講談社)とあるように、人間臭いところが好きなのだと思います。 葉山嘉樹『海に生くる人々』(岩波文庫)については、いずれ「+α」でとりあげたいと思います。青空文庫で無料ダウンロードも可能です。ぜひ読んでください。 (山本藤光:2010.05.21初稿、2015.10.24改稿) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2017年11月28日 12時50分17秒
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