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2015年11月10日
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朝鮮戦争勃発にともない雪崩のように入ってくる電文を翻訳するため、木垣はある新聞社で数日前から働いている。そこには「北朝鮮軍」を<敵>と訳して何の疑いを持たぬ者がいる一方、良心に基づき反対の側に立とうとする者もいた。ある夜、彼は旧オーストリー貴族と再会し、別れた後ポケットに大金を発見する。この金は一体何か。歴史の大きな転換期にたたずむ知識人の苦悩と決断。日本の敗戦前後の上海を描く「漢奸」併収。(「BOOK」データベースより)

堀田善衛『広場の孤独』(集英社文庫)
ほつ堀田善衛・広場の孤独.jpg

◎異色の第2次戦後派

 堀田善衛の人物像に迫った、笑ってしまう文章から紹介させていただきます。堀田善衛には学者のイメージがあったのですが、得心できました。

――堀田善衛はお喋りのなかに英語をまじえ、それをまた丁寧にもいちいち日本語で言い直すという癖がある。まず英語で発音し、つぎにそれを日本語に翻訳してみせるというこの操作をはたから見ていると、がらんとした教室の講壇の傍らに立った背丈のひょろ長い先生が一人か二人しか出席していない学生の前で世界語としての英語が地球上のここかしこに散らばった植民地を通じ、いかに訛ったかというまことに多面的な発音変遷史でも講義しているようで……。(埴谷雄高『戦後の文学者たち』構想社P238)

――堀田さんが上海で生活したということは堀田さんの文学に大きな働きをしていると思います。堀田さんに私がある近さを感ずるのは私が満州で育ったせいかも知れませんが、違いは祖国をもっていないことだと思います。(『安部公房全集』第3巻、新潮社P182)

 堀田善衛の文壇での位置を明確にするために、少しだけ文学史的な整理をしておきます。堀田善衛は「第2次戦後派」と位置づけられています。(『座談会昭和文学史6』集英社を参考にしました)

・第1次戦後派:野間宏、梅崎春生、埴谷雄高、椎名麟三、武田泰淳
・第2次戦後派:大岡昇平、中村真一郎、三島由紀夫、安部公房、堀田善衛

 ただし堀田善衛は、これらのくくりからはみだした作家です。堀田善衛の著作では、『橋上幻像』(集英社文庫)と『広場の孤独』(集英社文庫)が秀逸です。第2次戦後派のなかで堀田は、学者肌の作家として異彩を放っていました。

◎孤独感にさいなまれる

 堀田善衛は1951年(33歳)のときに発表した、実質的な処女小説『広場の孤独』(集英社文庫)で芥川賞を受賞しました。時代は朝鮮戦争の勃発とレッドパージで揺れる1950年です。舞台は新聞社です。主人公の木垣幸二はいちど新聞社を辞めて、翻訳の仕事をしていました。そんなときに朝鮮戦争の戦況を伝える記事の、翻訳の仕事を新聞社から依頼されます。

 日本は朝鮮戦争の余波で揺れています。新聞社内でも、北朝鮮を敵とするのか否かで、意見が対立しています。そんななかで木垣の立ち位置も定まらず、彼は孤独感にさいなまれます。妻の京子は、南米への脱出を主張します。木垣の心は揺れ動きます。

 木垣幸二は世界中から舞いこむテレックスや電文の翻訳をしながら、これでは国家権力の肩棒をかつぐことになると思い悩みます。周囲には共産党のために死を賭けている日本人や、戦地を飛び回る中国人記者がいます。木垣はそうしたなかで、ますます孤立感を深めます。

 ある日、木垣は以前上海で世話になった、旧オーストリア貴族ティルピッツと再会します。歓談して別れた帰路、木垣はポケットに大金が入っていることに気がつきます。このお金があれば、妻の希望する南米への移住が可能になります。木垣は一瞬、そう考えます。しかしその大金には裏があったのです。

 さまざまな矛盾のなかで、孤立してゆく主人公。この点について安部公房の見解を示しておきます。

――堀田善衛は矛盾をその中心テーマにした作家である。矛盾にさいなまれた被害者を追求している作家である。たしかに、見たところはそのとおりだ。矛盾の中から自己を選択する、というのが彼の文学の一貫したテーマである。登場人物ははじめから終わりまで矛盾になやまされつづけている。(『安部公房全集』第4巻P486.)

◎比喩の達人

 堀田善衛は比喩の達人です。作品のなかに、実に巧みな比喩を挿入してみせます。次に引用する文章は、『国文学』(1978年11月臨時増刊号)で解説された箇所です。

――木垣はもう興味を失っていた。疲れてもいた。窓から外を眺めると、午後四時の太陽は、勝手気儘にあたりかまわず建てられた不調和な日本の中心部を、赫っと照らし出していた。軍艦の艦橋部のような型をしたA新聞社の上に伝書鳩が舞っていた。一羽、二羽、どうしても他の鳩たちのように陣列をつくって飛べないのがいた。ああいうのを劣等鳩というのであろう。木垣はその劣等鳩がしまいにはどうするか、と並々ならぬ気持ちで注視していた。(本文P24)

 うっかりすると単純な、窓外の風景描写と受けとられかねません。『国文学』の解説によると、

――ビルディングの乱立といわず、いきなり「不調和な日本の中心部」と意味づけが出ている。軍艦の比喩も一通りのものとは思えない。他ならぬ新聞社の活動自体の朝鮮戦争に対する「Commitment」が問題になっている矢先なのだから、比喩は二重性を持つ。鳩が平和の象徴だとすると、「劣等鳩」は心中戦争を忌避しつつ現実との対応につまずいている主人公の木垣ということになる。場景はすべて社会の縮図なのである。

 ここまでじっくり読みこむと、堀田善衛の奥深さが見えてきます。ちなみに新聞社の上を飛び交う伝書鳩については、黒岩比佐子『伝書鳩・もうひとつのIT』文春新書)をお読みください。黒岩比佐子の著作では、すでに『音のない記憶・ろうあの写真家・井上孝治』(角川ソフィア文庫)を紹介済みですが、明日「+α」として、『伝書鳩』を紹介させていただきます。
(山本藤光:2012.09.16初稿、2015.11.09改稿)





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最終更新日  2017年11月25日 12時12分39秒
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