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カテゴリ:営業マン必読小説:どん底塾の3人
■小説「どん底塾の3人」040:特製の名刺
実践研修の当日、9時になるのを待って、大河内雄太は「アポ取り」を開始する。海老原は「意欲とフットワークでがんばります」という声を残して、すでに出かけていた。亀さんが大河内に声をかける。 「おお、『アポ取り』がはじまったか。さすが、生保の営業マンだ。企業リストまで用意してある」 「まずは、企業で大口の受注を獲得します。社員用の掲示板に、メニューを張らせてもらえば、夕方までにまとまった注文がくるはずです」 加納百合子は、亀さんと同行を開始する。加納も大河内と同じように、大きな企業から攻略しようと決めている。受付に行き、総務部の担当者への面談を申し入れる。そのために、加納は特製の名刺を用意していた。 A4サイズの名刺には、自分の名前に添えて、似顔絵まで描かれている。出身地、趣味、特技に加え、「現在、営業実践研修中。営業の基本を勉強中です」とアピールまでしている。 受付に総務担当者がやってきた。 「突然の訪問で、申し訳ありません。わたしは、こういう者です。現在、営業実践の研修を受けておりまして……」 指名手配のポスターのような名刺を受け取り、総務担当者は加納を値踏みする視線で観察する。 「営業実践って?」 「毎月、ひとつの指令が与えられます。それをクリアするまでは、戻れない過激なトレーニングです。これで3回目なのですが、おかげさまで弁当の評判がよく、自信を持ってお勧めして歩いている次第です」 「きみは、北海道の出身なんだ。北海道のどこ?」 「釧路湿原の真ん中にある、標茶(しべちゃ)というところなんですけど、北海道の人でも知らないケースがあります」 「知っているよ。ぼくは釧路の出身だ」 「そうなんですか。いやあ、奇遇ですね」 商談は見事に成功した。総務担当者は、まとめて予約受注を取ってくれるという。加納百合子の特製名刺は、その後も威力を発揮した。特技の欄を見て、「テニスをはじめたばかりなのです。今度教えてください」という担当者もいた。 「いいアイデアだったな。自分のすべてをさらけ出す。それで客に安心感を与える。情報が多ければ、コミュニケーションにもつながる。どこで覚えたんだ?」 「名刺がないのってすごく不安で、どうしようかと迷いました。考えこんでいるうちに、ふと閃いたんです」 「おまえは商品を売る前に、自分自身を売り込むことに成功したんだ。すごいよ、おまえは」 「ほめていただいて、すごくうれしいです」 「おまえは、行商とご用聞きの違いがわかるか?」 「ご用聞きは裏口から、『こんちは、三河屋です』とやるやつですね。注文がなければ『まいど』って、すぐに帰ります。行商は富山の薬売りが代表格です。こっちは、家まで上がり込みます」 「あたりだ。で、違いはなんだ?」 「コミュニケーションですか」 「頭いいんだな、おまえは。それさえわかれば、行商を続けろ。おれは店へ戻る」 ※ダントツ営業の知恵 顧客に対しては、できる限り自分自身をさらけ出す。すると相手は親近感を持ってくれる。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2016年03月18日 02時27分29秒
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