2303329 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

山本藤光の文庫で読む500+α

山本藤光の文庫で読む500+α

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

バックナンバー

2024年06月
2024年05月
2024年04月
2024年03月
2024年02月

カテゴリ

空白

(216)

妙に知(明日)の日記

(1580)

新・知だらけの学習塾

(564)

新・営業リーダーのための「めんどうかい」

(358)

完全版シナリオ「ビリーの挑戦」

(261)

知育タンスの引き出し

(317)

営業の「質を測るものさし」あります

(104)

のほほんのほんの本

(386)

乱知タイム

(71)

国内「あ」の著者

(24)

国内「い」の著者

(28)

国内「う」の著者

(11)

国内「え」の著者

(5)

国内「お」の著者

(21)

国内「か」の著者

(21)

国内「き」の著者

(9)

国内「く・け」の著者

(14)

国内「こ」の著者

(18)

国内「さ」の著者

(17)

国内「し」の著者

(27)

国内「すせそ」の著者

(8)

国内「た」の著者

(23)

国内「ち・つ」の著者

(10)

国内「て・と」の著者

(14)

国内「な」の著者

(16)

国内「にぬね」の著者

(5)

国内「の」の著者

(6)

国内「は」の著者B

(13)

国内「ひ」の著者B

(12)

国内「ふ・へ」の著者A

(10)

国内「ほ」の著者A

(7)

国内「ま」の著者A

(16)

国内「み」の著者

(22)

国内「む」の著者

(15)

国内「め・も」の著者

(10)

国内「や」の著者

(14)

国内「ゆ」の著者

(3)

国内「よ」の著者

(10)

国内「ら・わ」行の著者

(4)

海外「ア」行の著者

(28)

海外「カ」行の著者

(28)

サ行の著作者(海外)の書評

(23)

タ行の著作者(海外)の書評

(25)

ナ行の著作者(海外)の書評

(1)

ハ行の著作者(海外)の書評

(27)

マ行の著作者(海外)の書評

(12)

ヤ行の著作者(海外)の書評

(1)

ラ・ワ行の著作者(海外)の書評

(10)

営業マン必読小説:どん底塾の3人

(56)

笑話の時代

(19)

「ビリーの挑戦」第2部・伝説のSSTプロジェクトに挑む

(124)

知だらけの学習塾

(105)

銀塾・知だらけの学習塾

(116)

雑文倉庫

(44)

プロフィール

フジミツ

フジミツ

フリーページ

キーワードサーチ

▼キーワード検索

コメント新着

 ガーゴイル@ どこのドイツ 高半旅館は北方庁の高半島の高半温泉であ…
 リンク@ Re:■過・渦・蝸・禍・鍋の「つくり」の意味は?(08/18) 参考URLには小ちゃいミスがあります。 co…
 creesxuny@ erukzlyuujbn &lt;a href=&quot; <small> <a href="http…

サイド自由欄

設定されていません。
2016年04月18日
XML
カテゴリ:国内「し」の著者
お願いだから私を壊して、帰れないところまで連れていって見捨てて、あなたにはそうする義務がある―大学二年の春、母校の演劇部顧問で、思いを寄せていた葉山先生から電話がかかってきた。泉はときめきと同時に、卒業前のある出来事を思い出す。後輩たちの舞台に客演を頼まれた彼女は、先生への思いを再認識する。そして彼の中にも、消せない炎がまぎれもなくあることを知った泉は―。早熟の天才少女小説家、若き日の絶唱ともいえる恋愛文学。(「BOOK」データベースより)

島本理生『ナラタージュ』(角川文庫)
しま島本理生・ナラタージュ.jpg

◎現状での推薦作

 島本理生(しまもと・りお)はすでに芥川賞を受賞した、綿谷りさや金原ひとみと同年代です。島本理生と金原ひとみはともに1983年生まれですし、綿谷りさは1984年の生まれです。金原ひとみと綿谷りさは、候補であった島本理生に先駆けて、芥川賞を同時に受賞しています。受賞作は金原ひとみ『蛇にピアス』(集英社文庫、推薦予定)、綿谷りさ『蹴りたい背中』(河出文庫、推薦作)でした。

 私はそのとき、島本理生の芥川賞受賞を信じていました。非常に残念でしたが、若手3人の女流作家の切磋琢磨は今後もつづくと思います。暖かく見守ることにします。しかし最近では島本理生の名前が、直木賞候補にあがるようになりました。

 島本理生は早熟の作家です。15歳のときに発表した「ヨル」は、「鳩よ」の年間MVPに選ばれています。そして都立高校在学中に『シルエット』(講談社文庫、初出2001年、18歳)で、群像新人文学賞を受賞します。その後『リトル・バイ・リトル』(講談社文庫、初出2003年)で、野間文芸新人賞を最年少受賞します。母子家庭で育った自らの体験をつづった本作は、おおいに話題になりました

 島本理生の代表作は、現状では『ナラタージュ』(角川文庫)に決まりです。幼さの残った硬質の文章が、一変していたのに驚かされました。本書は「本の雑誌」などで、第1位に評価された恋愛小説です。

『ナラタージュ』を読みながら、川上弘美『センセイの鞄』(文春文庫、「山本藤光の文庫で読む500+α」推薦作)と重なってしまいました。しかし本書には切なさがあります。幾重にもなっている心のヒダを、1つずつていねいに描き出す筆力があります。早熟の作家・島本理生が、新たな世界を構築した記念碑的な作品が『ナラタージュ』なのです。川上弘美、角田光代と併走する日が近そうだと期待がふくらみました。

 島本理生は佐藤友哉(推薦作『デンデラ』新潮文庫)と結婚、離婚、再婚をして現在は母親になっています。母子家庭の体験が作品にあらわれたように、この経験は今後の作品に姿をみせることでしょう。それゆえ『ナラタージュ』は、現状での推薦作と書かせていただきました。大ヒットは近いと思います。

◎近寄る、離れる。

 主人公の工藤泉は大学1年生です。アパートで1人暮らしをはじめます。そんなところへ、高校時代の憧れの葉山先生から電話があります。後輩の卒業公演に、参加してもらいたいとの要望でした。泉は古巣の演劇部へ出かけ、葉山先生と再会します。

 葉山先生は奥さんと別居しています。泉は葉山先生が憧れから、恋愛の対象にかわっていくのを感じます。いっぽう泉は大学生になった男友達の小野くんとも再会します。小野くんは泉を熱愛しますが、泉の気持ちを引き寄せることができません。

 年の離れた2人の男は、NとS極という異なる磁石のように描かれます。猛烈にせまる若い磁石と、近づけば遠ざかる年配の磁石です。葉山先生とは、離れ離れになっていた気持ちが、磁石のように寄り添います。寄り添った瞬間に、1つの磁石が裏返しになります。急速に気持ちが離れてゆきます。物語はその繰り返しで進みます。ありきたりの表現を借りれば、付かず離れずの状態が継続するわけです。

 これまで読んできた恋愛小説は、激しく乱高下するジェットコースターのような作品ばかりでした。しかし島本理生が描く恋愛小説は、ゆっくりと回転する観覧車です。そして川上弘美のほんわりとした恋愛小説に、切なさを加えたような味わいがあります。『ナラタージュ』は、川上弘美『センセイの鞄』(文春文庫)と並ぶ恋愛小説の傑作です。

 泉を取り巻く世界は、観覧車から見える風景のように、ゆっくりと動きます。読者は葉山先生や小野くんの狭間でゆれる、泉の切ない心情とつきあいつづけなければなりません。おそらく観覧車ののんびりとした動きに、いらいらしながらページをくくることになります。 

 切ない恋の話です。最後の章を読み終えたとき、今度は安部公房『砂の女』(新潮文庫、「山本藤光の文庫で読む500+α」推薦作)が浮かび上がってきました。なんと、メビウスの帯になっていたのです。細い紙片をひとひねりして貼り合わせると、はじまりもおわりもない世界がになります。つまり観覧車は終点からふたたび、はじまりへと動き始めるのです。

 近寄る、離れる。観覧車が一回りするまでの時間を、『ナラタージュ』はていねいに描いてみせます。次なるレースがはじまっています。綿谷りさ、金原ひとみとともに、今後の活躍を期待したいと思います。川上弘美や角田光代と肩を並べている姿が、見え隠れしています。
(山本藤光:2005.04.27初稿、2016.04.16改稿)





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2017年10月10日 08時13分15秒
コメント(0) | コメントを書く
[国内「し」の著者] カテゴリの最新記事



© Rakuten Group, Inc.