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カテゴリ:タ行の著作者(海外)の書評
優れた成果をあげるために、自らをいかにマネジメントすべきか。経営学の大家が自分の経験を振り返りながら具体的に説く。(内容案内より)
P.F.ドラッカー『プロフェッショナルの条件』(ダイヤモンド社、上田惇生訳) ◎明治維新という偉業 数あるビジネス書のなかで、P.F.ドラッカー『プロフェッショナルの条件』(ダイヤモンド社、上田惇生訳)は、最高に示唆に富んだ1冊です。本書を読んでいないマネージャがいたら、それは本人の不幸であり、会社の損失でもあります。 ドラッカーの優れた点は、歴史への真摯な眼差しと事象への深い洞察力にあります。ドラッカーの著作を読むと、事例として掲げられたことを勉強したくなります。本書は冒頭に、「日本の読者へ――モデルとしての日本」という文章がそえられています。ドラッカーにとって、日本は長きにわたって重要な位置をしめていたのです。その理由として、ドラッカーは次のように書いています。 ――ヒトラーの台頭を許した失政と分裂と動乱に匹敵する状況から社会を蘇生させ、固有の文化を守り抜き、政治と経済の機能を取り戻すことに成功した明治維新という七〇年前の偉業だった。 ドラッカーが賛嘆する、明治維新とは何だったのか。本書を読んでから、私はあまりよく知らない明治維新の勉強をせざるをえませんでした。万事がこんな具合で、ディドロ『百科全書』(岩波文庫)を読んだのも本書がきっかけでした。 そうした歴史認識からドラッカーは、 ――これからの社会が、資本主義社会でも、社会主義社会でもないことはたしかである。その主たる資源が、知識であることもたしかである。つまりそれは、組織が大きな役割を果たす社会たらざるをえないといくことでもある。(本文P6) と書いています。そして次のように結びます。 ――知識社会では、専門知識が、一人ひとりの人間の、そして社会活動の中心的な資源となる。(本文P31) つまり「プロフェッショナルの条件」とは、深い専門知識ということなのです。私の敬愛する野中郁次郎先生とドラッカーは、知識創造社会という分野での世界的な先達です。野中先生の著書『知識創造企業』の帯に、ドラッカーの推薦文(これは現代の名著だ!)があるくらい、2人の呼吸は合っています。 ◎人間にフォーカスをあてる ドラッカーは企業の成長のプロセスとして、3つの提唱をしています。(本文P234) 1. うまくいったことをどのように行ったかを仲間に教えること。聞き手が学ぶだけでなく、自らが学ぶ。 2. 別の組織で働くこと。そこから新たな選択の道が開かれる。 3. 一年に何度か現場で働くこと。 私は34年間、日本ロシュという外資系製薬会社に勤務しました。個々人に高度な専門性をもたせるのが、人材育成の柱でした。社員が自分の強みを理解し、そこに磨きをかけさせる。強みにふさわしい仕事をあたえる。これが適材適所の根幹であり、若い有能な人材の抜擢も日常茶飯事でした。これらはすべて『プロフェッショナルの条件』で提唱されていることです。 野中郁次郎先生が、社長に説いた組織変革プロジェクトがあります。これはドラッカーが本書で語っているものと同質の理念です。社長は営業組織を、強化したいと考えました。ドラッカー、野中理論を実践すると次のような構図になります。 1. 優秀な営業マンの暗黙知(経験知)を平均的な人に移植して組織の底上げをはかる。 2. 指導する優秀営業マンの経験知はさらに高くなるので、彼らにはプロジェクト終了後はさまざまな職種で人材育成を担ってもらう。 3. このプロジェクトで全社的な新たな風を起こす。 こうして立ち上がったのが、SSTプロジェクトでした。私は2年間このプロジェクトの事務局長を務めました。この体験は、山本藤光名義でプレジデント社から、2冊(『暗黙知の共有化が売る力を伸ばす』『ドキュメント同行指導の現場』)の本を上梓しています。すでに絶版になっていますが、興味のある方は探してお読みください。帯には野中先生の推薦文がついています。 ドラッカーは、人間にフォーカスをあてる希有なナビゲーターでもあります。そして自らの存在価値を考えなさいと説きつづけます。さらに、 ――1つの企業だけでキャリアを終えることを前提とせず、専門性の高い知識を取得し、自己の活躍の場を広げる努力が必要。 とも説きます。 古い日本の企業人には考えられないことですが、今やこれは有能な企業人の常識になっています。現に合併で消失した日本ロシュの有能なメンバーは、現在30社を超える企業の中枢で働いています。 ドラッカー『プロフェッショナルの条件』を読んだら、ぜひ野中郁次郎先生の著作に触れてください。野中先生の著書から日本の企業が、いかに知識経営と真摯に向かい合っているかがわかります。具体的に企業名とその取り組みが書かれていますので、実践書として価値あるものです。 ドラッカーは、企業よりも長生きする知識労働者と書いています。日本ロシュは企業としては弱かったのですが、プロフェッショナル人材を育てる気持ちは、きわめて強かった会社でした。久しぶりで本書を再読し、SSTメンバーとドラッカーや野中郁次郎先生の著作を、熱く語り合った日を思い出しました。 (山本藤光:2013.08.11初稿、2016.05.24改稿) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2017年11月16日 08時48分43秒
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