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蛇のように舌を二つに割るスプリットタンに魅せられたルイは舌ピアスを入れ身体改造にのめり込む。恋人アマとサディスティックな刺青師シバさんとの間で揺れる心はやがて…。第27回すばる文学賞、第130回芥川賞W受賞作。(内容紹介より)
金原ひとみ『蛇にピアス』(集英社文庫) ◎瀬戸内寂聴が絶賛 金原ひとみ『蛇にピアス』(集英社文庫)は、すばる文学賞と芥川賞のダブル受賞で話題になりました。金原ひとみは1983年生まれなので、受賞時は20歳になっていませんでした。 私は10年前に、本書の書評をPHPのメルマガ「ブックチェイス」に書いています。私はサディスティックな小説は好みませんので、辛辣なことを書いたのだと思います。当然、山本藤光の文庫で読む500+αには、リストアップしていませんでした。 最近読んだ平野啓一郎『本の読み方・スロー・リーディングの実践』(PHP新書)に『蛇にピアス』が取り上げられていました。こんな文章がありました。 ――『蛇にピアス』は文芸誌『すばる』に掲載されたとき、それをいち早く読んだ瀬戸内寂聴さんが、「あれを読んだら、谷崎潤一郎の『刺青』も霞んで見える」と感想を述べられたことが印象的だった。年期の入った谷崎ファンの瀬戸内さんとしては、これは最大級の賛辞だろう。(同書P192) この一文を読んで、再読してみようという気になりました。谷崎の『刺青』は、私の好きな作品だったのです。『蛇にピアス』に対して私は、ゆがんだ読み方をしていたのかもしれません。文庫版で平野の勧める、スロー・リーディングをしてみました。 ◎19歳の異質な世界 主人公のルイ19歳は、健全なところに身を置きたくないと考えています。あるバーでアマという若い男にナンパされます。そして同棲することになります。アマはスプリットタンといって、舌を二つに割る身体改造をしています。腕から背中には龍の刺青があり目尻や鼻にもピアスがあります。ルイはそんなアマのように、自分も身体改造をしてみたいと思います。 以前読んだときは、ルイの「身体改造」への欲求が理解できませんでした。ところが再読してみて、「身体改造」はきれいになりたいという欲求と、同質であることに気づきました。ここを抑えておくと、それ以降の痛そうな場面が理解できます。 ルイはアマの身体改造をした、シバという男を紹介されます。ルイはシバに舌ピアスと刺青をしてもらいます。ルイは次第にシバとの関係を深めていきます。身体改造についてルイは、シバにこんな質問をしています。 ――「シバさんはスプリットタン、どう思います?」/シバさんは、ん? と言って首をひねった。/「ピアスや刺青と違って、形を変えるもんだからね。おもしろい発想だとは思うけど、俺はやりたいとは思わないね。俺は、人の形を変えるのは、神だけに与えられた特権だと思ってるから」/シバさんの言葉は、何故かすごく説得力があって、私は大きく頷いていた。(本文P14) この文章により、身体改造としてひとくくりにしていた、ピアスと刺青は別物だと分かりました。ルイは酒を飲み、セックスをし、舌ピアスをし、刺青までします。しかし望んでいた「身体改造」という神だけに許される領域には達していないのです。ここを読み落とすと、次のような書評になってしまいます。 ――金原ひとみ『蛇にピアス』は舌ピアスや刺青等の身体改造を軸にしながら、恋人との距離感を測りかねている少女が主人公。(斎藤美奈子『本の本』ちくま文庫P215) ルイは少しずつ、舌ピアスの穴を広げます。幼児性のあるアマを愛し、サディスティックなシバをも愛します。そしてある日、アマは残忍な死体となって発見されます。ルイはシバが殺したのだと思います。 金原ひとみは硬質な文章で、ルイの心の変化をたどってみせます。ここに転記しても、絶対にブログの倫理規定に触れる描写が続きます。試してみます。シバとのからみの場面です。 ――私の腰を高く上げるとマ*コに唾を吐き、また指で中をグチャッとかき混ぜるとやっとチ*コを入れた。初めからガンガン奥まで突かれ、私の喘ぎ声は泣き声のように響いた。(本文P40) (註:原文のままではやはり掲載が拒否されました。「ン」の字を伏せ字にしてあります) 19歳の女性が描いた、異質な世界。こんな小説は体験者にしか書けません。瀬戸内が絶賛したのは、20歳にも満たない新人作家が描いた点にあったようです。 (山本藤光:2016.08.24) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2017年11月21日 03時47分27秒
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