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2016年09月06日
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カテゴリ:国内「よ」の著者
日本帝国海軍の夢と野望を賭けた不沈の戦艦「武蔵」―厖大な人命と物資をただ浪費するために、人間が狂気的なエネルギーを注いだ戦争の本質とは何か? 非論理的〈愚行〉に驀進した〈人間〉の内部にひそむ奇怪さとはどういうものか? 本書は戦争の神話的象徴である「武蔵」の極秘の建造から壮絶な終焉までを克明に綴り、壮大な劇の全貌を明らかにした記録文学の大作である。(「BOOK」データベースより)

吉村昭『戦艦武蔵』(新潮文庫)

よし吉村昭・戦艦武蔵.jpg

◎病床の友から託される

 吉村昭の著作は、紹介したいものがたくさんあります。しかしあえて1冊となると、やはり記録文学の金字塔『戦艦武蔵』(新潮文庫)となってしまいます。本書を読んだときの衝撃は、すさまじいものでした。ただただ圧倒されました。本書について最相葉月は次のように書いています。

――読み終えた時、圧倒的な事実の集積と、描き出される人間の愚かさ、戦争の残酷さに言葉もありませんでした。(『NHK・私の1冊日本の100冊・感動1冊』学研P109)

 あとがきでも触れられていますが、吉村昭は友人の山下三郎(筆名は泉三太郎)から戦艦武蔵の建造日誌を託されます。山下は病床にあり、膨大な資料の整理が困難になっていました。そのあたりについて、書かれた文章があります。

――資料を吉村に譲るから、自分に代わって戦艦「武蔵」について書いてみないか、と山下は慫慂(しょうよう)した。吉村は戦艦の記録などには関心が乏しく、ましてそれを材料に小説を書く気持ちはなかったが、病床の山下から四十冊もあるかと思える分厚な大学ノートを渡されると、義理にも手を染めない訳にはいかなくなった。(大村彦次郎『文壇挽歌物語』ちくま文庫P519)

 吉村昭は本書の「あとがき」に、次のように書いています。
――日誌から噴き出る熱っぽい空気にあの奇妙な一時期のまぎれもない姿を見いだしたような気がして、武蔵について少しずつ知識を持ちはじめるようになった。そしてようやく武蔵こそ、私の考えている戦争そのものの象徴的な存在のようにも思えてきたのだ。(著者あとがきより)

 これが引き金となって、吉村昭は『「戦艦武蔵」取材日誌』を、三菱重工業のPR誌「プロモート」に連載します。それが雑誌「新潮」の編集人の目に留まります。そして新潮の依頼により、吉村は小説『戦艦武蔵』の執筆をしました。

 私は吉村昭『戦艦武蔵ノート』 (岩波現代文庫)を、PR誌「プロモート」に連載したものだと錯覚していました。新潮社がどこに着目したのかを知りたくて、小説よりも先にこっちを読んでしまいました。本稿を書くにあたって調べてみると、『戦艦武蔵』が1966年、『戦艦武蔵ノート』は1970年執筆になっていました。つまり『戦艦武蔵ノート』は別物だったわけです。

◎建造から撃沈まで

 1934(昭和9)年、大日本帝国は、国際連盟の軍縮会議から脱退します。これは軍艦の建造を自粛する、という縛りからの離脱を意味します。そして日本海軍は巨大な軍艦の建造へとひた走ることになります。日本はすでに巨大軍艦・大和を保有していました。本書はやがて武蔵と呼ばれる、巨大二号軍艦の建造と撃沈までの模様を克明に描いた記録小説です。
 大量の棕櫚(しゅろ)が買い占められます。棕櫚は漁網を編むための繊維です。棕櫚は三菱重工業の長崎造船所へと集められます。棕櫚は建造予定の武蔵を、外部から遮蔽するためのスダレとして加工されます。吉村昭は異常なまでの機密主義の象徴として、棕櫚を物語の冒頭におきました。
 機密保持は、厳格をきわめました。造船所を見渡せる米英大使館の前に、遮蔽として巨大な倉庫を建造します。幹部には厳重な箝口令が敷かれます。作業員には一部の図面しか渡しません。厳重な図面の管理がなされます。造船所周囲は特高による監視で固められます。
 そんななかで、一枚の図面が紛失します。関係者への執拗な取り調べが行われます。様々な紆余曲折の後、武蔵は進水の日を迎えます。狭い湾へ巨艦を滑らせるには、綿密な段取りが必要となります。進水の模様を本文から引用してみます。感動的な場面です。

――東の空が、白みはじめた。前日の午後二時から十数時間が経過していた。作業員たちの顔にも漸く疲労の色が濃く、半裸の体は、汗と油でどす黒くよごれていた。声もしわがれ、血走った眼だけが、異様な光をたたえている。/潮が、少しずつ満ちはじめ艦尾のあたりに水の色がひろがってきた。/「御誕生が近いぞ、御誕生が近いぞ」/芹川進水主任が、声を嗄らして現場を走り廻っている。(本文P150)

 やがて武蔵は一号艦の大和とともに、南方の戦場へと向かいます。ところが武蔵はアメリカの航空機の爆撃で、いとも簡単に撃沈されてしまいます。日本海軍の威信をかけて建造した巨艦は、時代遅れの建造物だったのです。

『戦艦武蔵』は、負けるべきして負けた戦争の側面を、忠実に描いた作品です。吉村昭は戦争という現実から、棕櫚スダレを取り除き、戦艦武蔵を通じて読者に提供したのだと思います。
「山本藤光:2011. 05.14初稿、2016.09.05改稿」





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最終更新日  2017年10月12日 08時39分10秒
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