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2017年07月30日
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鶴田知也『コシャマイン記』(講談社文芸文庫)
つる鶴田知也・コシャマイン記.jpg

和人によるアイヌ民族迫害の歴史を、誇り高き部族長の裔・コシャマインの悲劇的な人生に象徴させ、昭和十一年、第三回芥川賞を受賞した、叙事詩的作品「コシャマイン記」を中心に、棄民されていく開拓民の群像と、そこでの苦闘に迫る「ナンマッカの大男」「ニシタッパの農夫」など、北海道を舞台とした初期作品九篇を精選。アイヌと下層農民を描くことで、民族的連帯を模索した稀有なる試み。(「BOOK」データベースより)

◎優れた叙事詩

 鶴田知也『コシャマイン記』(講談社文芸文庫)は、第3回(1936年=昭和11年)芥川賞受賞作です。鶴田知也はあまり知られていませんので、簡単に略歴を紹介させていただきます。
 鶴田知也は、1902(明治35)年福岡県で生まれています。20歳のときに北海道八雲に渡り、8ヶ月ほど暮らしました。その後、葉山嘉樹を頼って名古屋へ行っています。『コシャマイン記』は葉山嘉樹に師事し、八雲での見聞をつづった作品です。「コシャマイン記」は、本書に所収されている「ペンケル物語」とともに、鶴田知也のアイヌものの代表作です。

「コシャマイン記」は菊池寛、小島政二郎などの評価を得て、芥川賞を受賞しました。小田嶽夫『城外』(『芥川賞全集・第1巻』)と同時受賞でしたが、室生犀星の選評が評価の高さを物語っています。以下は『芥川賞全集・第1巻』(文藝春秋)からの引用です。

――この哀れな歴史のやうな物語は今どきには珍しい自然描写などもあり、何か、むくつけき抵抗しがたいものに抵抗してゐるあたり、文明と野蛮とのいみじい辛辣な批判がある。(中略)「芥川賞」作品として「文藝春秋」誌上に再録するものとすれば、且つ読ませる点に於て、この「コシャマイン記」は満点の方ならんとこれらを考慮の一端に加へ申し候。(室生犀星)

―― 一番「コシャマイン記」に感心した。(中略)古いとか新しいとか云う事を離れて、立派な文学的作品であると思った。(中略)
殆んど満場一致で入選したことは、嬉しかった。(菊池寛)

――このエピック(補:叙事詩。英雄詩。史詩のこと)と、文体とがよく一致していて、素朴愛すべき調子を出している。そこに美しさを感じた。(中略)この作品が群を抜いている。(小島政二郎)

◎和人に追われるアイヌ

「コシャマイン記」は、西蝦夷の漁場を日本人に追われたアイヌの史記です。歴史上「コシャマインの戦い」(1457年、和人に対するアイヌの武装蜂起)は存在しています。しかし本書はそれとは異なり、完全なフィクションです。

 主人公・コシャマインの父親・タケナシは、セタナ(現在の瀬棚)
の酋長(オトナ)でしたが、日本人のだまし討ちにあい殺害されます。冒頭を引いておきます。

――勇猛を以つて聞えたセタナの酋長(オトナ)タナケシが、六つの部落を率ゐて蜂起した時、日本の大将カキザキ・ヨシヒロは佯(いつわ)りの降伏によつてタナケシをその館(やかた)に招き入れ、大いに酔はしめて之(これ)を殺した。(本書P7)

 その後タナケシの後継者・ヘナウケも、日本人(シャモ)のだまし討ちにあって死亡します。

 タナケシの子・コシャマインは母親・シラリカに背負われ、部下・キロロアンに導かれてイワナイ(現在の岩内)の酋長のもとへ身を隠します。コシャマインは生まれながらにして、アイヌ民族を統合し、日本人に奪われた故郷を奪還する使命を担っています。
 イワナイに辿り着いた3人は、信義を重んずる酋長・シフクに庇護されます。しかしその死後、シラリカに恋情を寄せていた息子のトミアセが権力で彼女に迫ります。
 3人は犬ぞりでユーラップ部落へと逃げます。追手が追跡します。アイヌ民族同志の、血肉の争いが起きます。キロロアンが2人を逃がすために命を失います。

 キロロアンを失った2人は、アブタベツまで逃げ延び、サカイモクという若者と出会います。彼にはペチカという婚約者がいるのですが、本人にも告げず2人を自分の妻と子供としてかくまいます。2人は危険分子として、日本人からも追われています。
 コシャマインは、サカイモクから武術を学びます。サカイモクは指揮を学ばせるために、コシャマインをオニヒシのもとへ派遣します。

 やがてオニヒシは、アイヌ民族抗争で死亡します。サカイモクも、日本人の軍勢と闘い死亡します。コシャマインは先祖やサカイモクの恨みを晴らすために、日本人への復讐を誓います。日本人は、肥沃な土地に目をつけて侵略してきます。アイヌ民族は次第に、覇気を失ってしまいます。

◎芥川賞をもらってくれるか

 ストーリーの紹介は、ここまでにします。本書では日本人に侵略されるアイヌの悲劇に加え、衰退するアイヌ民族の姿も描かれています。木原直彦は著書のなかで、その点について次のように書いています。

――日本人の奸計に滅びゆくアイヌの運命を叙事詩ふうに描いたこの小説は、その清新簡潔なスタイルとエキゾチシズムとによって読者の心を捉えた。(木原直彦『名作の中の北海道』北海道新聞社P23)

 作品は、きわめて短いものです。母に背負われたコシャマインが白髪になるまでを、15章に分けて構成されています。

 プロレタリア文学が芥川賞受賞というのは、特別な意味がありました。芥川賞の知らせを受けたときのことを、鶴田知也は次のように語っています。

――文藝春秋社員の菅忠雄さんから電話があった。芥川賞をもらってくれるかというのであった。私が、よろこんでお受けすると返事をしたら、菅さんはそれで安心したといって笑った。というのは、私が、文藝春秋とは対立関係にあったといっていい社会主義文学集団のメンバーだったからである。(日本ジャーナリスト専門学院出版部『芥川賞の研究』みき書房P198)

 某社の2017年バスツアー企画のなかに、「鶴田知也『コシャマイン記』の旅」という案内がありました。ぜひ参加してみたいと思います。
本書は入手が難しいので、ネット検索してみてください。全文が見つかります。
(山本藤光1996.11.16初稿、2017.07.30改稿)
*初稿はPHPメルマガ「ブックチェイス」に掲載されています。





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最終更新日  2017年10月11日 03時07分08秒
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