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2017年12月23日
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カテゴリ:国内「い」の著者
井上尚登『T.R.Y.』(角川文庫)



1911年、上海。服役中の刑務所で暗殺者に命を狙われた日本人詐欺師・伊沢修は、同房の中国人・関(グアン)に助けられる。その夜、伊沢は革命家である関からある計画への協力を要請された。それは、革命のための武器の調達。それも、騙し、奪い取る。そのターゲットは日本陸軍参謀次長――。暗殺者から身を守ることを交換条件としてこの企てに加担した伊沢は、刑務所を抜け出し、執拗な暗殺者の追走を受けつつ、関たちとともに壮大な計画を進めていく。騙し騙されるサスペンスフルなコン・ゲームとスピード感、全選考委員の大絶賛を受けて第19回横溝正史賞を受賞した超大作!(内容紹介より)

◎1999年のそろい踏み

もうすぐ2000年を迎えようとしたとき、ミステリー界に4人の新人作家が登場しました。当時の連載誌「ブックチェイス」(PHPメルマガ)に、私は彼らのデビュー作をとりあげました。4人を並べてみます。

・大石直紀(1958年生まれ)『パレスチナから来た少女』(光文社文庫、初出1999年、日本ミステリー文学大賞新人賞)

・横山秀夫(1957年生まれ)『陰の季節』(文春文庫、初出1998年、松本清張賞)

・高嶋哲夫(1949年生まれ)『イントゥルーダー』(文春文庫、初出1999年、サントリーミステリー大賞、読者賞とのダブル受賞)

・井上尚登(1959年生まれ)『T.R.Y.』(角川文庫、初出1999年、横溝正史賞)

大石直紀と高嶋哲夫は、デビュー作を「500+α」で紹介済みです。横山秀夫は『クライマーズ・ハイ』(文春文庫)に軍配を上げましたので、『陰の季節』は紹介作リストから外しています。そして今回は、井上尚登のデビュー作を紹介させていただきます。

◎おまえに復讐する

井上尚登『T.R.Y.』(角川文庫)は、新人とは思えないスケールの大きな作品でした。横溝正史賞受賞時は、井上もんた『化して荒波』というペンネームとタイトルでした。単行本化にあたって2つとも改めたのです。志水辰夫のようなタイトルは、捨てがたいものだったにちがいありません。。

 脚本家だけあって、ウイットに富んだ会話は心地よいものでした。また流れるような文章と展開は、異世界へと読者を引きずりこむ迫力があります。
さらに歴史上の実在人物と虚構の登場人物をみごとに融合させる技術は、職人芸を思わせるものでした。

 主人公の伊沢修は詐欺師です。彼は刑務所生活を送りながら、上海での強制労働に明け暮れます。時は西暦1911年3月、明治44年であたります。中国流にいえば辛亥の年となります。そこへ一人の男が面会に訪れます。

 男は伊沢に恨みをもっています。男の最愛の娘・麗華(リファ)が、清国政府摂生王の暗殺を企てて殺されたのです。男は娘が伊沢に騙されて、革命に走ったと詰め寄ります。そして赤眉という組織を使って、伊沢への復讐を敢行すると告げます。退屈極まりない刑務所生活に、緊張が走ります。

◎国境線があいまいな時代

 刑務所を出てから、赤眉のキムは伊沢を執拗に追いかけます。一方、詐欺師としての腕を見こんだ中国革命同盟会(代表・孫文)が、伊沢を取りこみます。
彼らは日本の陸軍参謀次長・東正信を騙して、武器を奪い取ろうとしています。
 伊沢修を中心に、大がかりな詐欺を企てる一団。騙された振りをして、騙し返そうとする一団。この作品には、多くの国の人が登場します。また明治44年の日本の野心を、随所で垣間見ることができます。
 
――「あんたたちはどのくらい武器が必要なんだ?」伊沢が訊いた。/「そうだな、あればあるほどいいが、最低でも銃を二千に短銃を五百挺、弾がそれぞれ五万と二万か……」関が答えた。/大した量だ。大陸へ運ぶ船の手配は陳がおこなうことになっている。(本文より)

 引用文に登場する関は、関虎飛(グァンブフェイ)という中国革命同盟会の大物です。陳は陳思平(チェンスビン)という上海の小悪党。国境を越えた詐欺グループが、日本の陸軍を手玉に取ろうというのですから、スケールの大きな話です。
 
この作品を活き活きとさせている背景には、登場人物のユニークさがあります。そしてなんといっても、時代考証の巧みさが光ります。
大陸の人々が日本を見る目。陸軍が大陸を見る目。国境線があいまいな時代の様子が、活写されていて興味深く読みました。
 騙した側が騙されている、疑心暗鬼の世相。追う人と追われる人の緊張感。思いがけない結末まで、一気に読ませる井上尚登の筆力に脱帽しました。
(山本藤光1999.08.23初稿、2017.12.22改稿)





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最終更新日  2017年12月23日 07時11分55秒
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