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テーマ:本のある暮らし(3188)
カテゴリ:日々の読書(学術・教養)
「本の読み方 スローリーディングの実践」(平野啓一郎:PHP研究所)を読んだ。
私は彼の作品を読んだことはないが、平野氏は、芥川賞の作家と言うことである。この本での彼の主張は、「スローリーディング」と「速読」を2項対立的に論じ、速読よりは、スローリーディングが優れていると言うことである。速読に対してスローリーディングと言うとなんとなく響きが良くなるが、日本語の対比としては、これは「遅読」であろう。このあたりは、さすが作家というところであろうか。 しかし、スローリーディングと速読は、2項対立的に論じなければならない問題なのだろうか。こんなものは、時と場合によって使い分ければよいのである。 彼は、「速読」で得られた理解率70%とスローリーディングで得られた理解率70%は、まったく意味が違う(スローリーディングの方が優れている)と主張する。この彼の主張には、まったく根拠がないと言わなければならない。ゆっくり読みすぎると、かえって、前の部分を忘れてしまって、全体像が見えなくなるのである。全体像をつかんだ70%と細部にこだわった70%とどちらが読書の質が良いというのであろうか。 この本タイトルは、「本の読み方」とすべきではなかった。むしろ、「小説の味わい方」とすべきであったろう。小説の味わい方として読めば、彼の説には、納得のできる部分も多い。ただ、小説にしても、楽しみ方は一通りに決まったものではない。必ずしも、細かな表現を楽しむより、ストーリーの流れを楽しむというのも小説を読む楽しみの一つである。これは、完全に個人の好みであり、ゆっくり読んで細部にこだわりなさいというのは大きなお世話であろう。また、始めからゆっくり読むより、全体をざっと読んで概要をつかみ、面白ければ最初に戻ってじっくり読むという方法もある。その方が、面白くも無い本に時間をかけるような愚挙をおかして時間の浪費を招くこともないし、内容の理解もより深まるのではないだろうか。 ただ、後半の有名作家の文章を示して読み方を解説している部分については、作家とは、こんな細かい部分にまで気を配って文章を書いているのかということが分かり、大いに参考にはなるのであるが。 ○応援クリックお願いします。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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