F1のテクノロジー
昨日はボディーやエンジンの技術もエアロダイナミックスが重要になってきているし、目に見えない気流の振る舞いを、見える様にアニメーション化してシミュレーションすることがキーテクノロジーではないかと言うことを書きましたが、今日からはエンジンやシャシー個々の技術について、すこし書いてみようと思います。F1とは、およそ現代のテクノロジーの粋を集めた競技であると言えるわけですが、エンジンに関しての基本的な構造は第2次世界大戦の始まるころには、ほぼ現在のF1で使われているような形式が高性能なエンジンとして固まって来ていました。それは自動車の技術ではなく、戦闘機という航空機のために進化を遂げてきたものだったのです。第二次大戦が始まるころにはドイツのダイムラーベンツは、メタノール・水混合燃料のDOHCの水冷ドライサンプ潤滑エンジンを完成させており、排気量はメッサーシュミットBf109Fに積まれたエンジンDB601では33.9リットル、倒立V型12気筒でボッシュのフーエルインジェクションを装備し、潤滑はドライサンプ、油圧無段変速機を介したクランク軸駆動のスーパーチャージャー付で、オーバーヘッドカムシャフトはべべルギアで駆動され、1シリンダーあたり4個のポペットバルブを持つ、いわゆる4バルブエンジンであったのです。さすがに戦闘機のエンジンはF1のエンジンと比べれば、巨大なもので、15倍ほども排気量があったわけです。当時も軽量化、小型高性能化が求められ、1,500馬力以上の出力を得るところまで来ていましたが、これだけ現在の最新エンジンと似通った機構を持ってはいたものの、最高回転数は3000rpm程度とかなり低く、発生する馬力も、排気量の大きさからすればかなり小さく感じられます。F1のエンジンは2.4リットルで700馬力と言ったところですが、馬力と言う単位は力積であり、回転数が増えればほぼそれに比例して大きくなっていくわけですから、私たちが使う自家用車のエンジンでも、もしニューマチックバルブを装備しF1並みの高回転を得たとすれば、理論値ではF1エンジン並みにハイパワーが出る可能性があります。つまり、2400CCで220馬力のエンジンでも、それは6500回転付近での最高出力なのであり、カムのプロフィールやオーバーラップなどを変更し、高回転に耐える部品を組み込んで、もし2万rpm程回ったとすれば、220馬力の約3倍、660馬力となって、それはほぼF1エンジンと同レベルといえるわけです。エンジンの高回転、高出力化は戦後60年の長い時間をかけて自動車産業が成し遂げてきた成果であり、けっして一筋縄でなかったことが伺われるわけですが、65年ほど前すでに、ほとんど現在と同じ機構が試され、実用下にあり、スーパーチャージングも一段ではなく二段、三段の過給で高出力を得ていたし、当然のように、アフタークラー(インタークーラー)が備えられ、過熱した空気を冷やして密度を保ってシリンダーへ導くと言う工夫もされていたわけです。排気タービンによるターボチャージャーもすでに登場し、大戦末期に大挙して日本の空を埋め尽くしたB29やP-51ムスタングなどには、ターボチャージャーが装備され、1万メートルの高空でもエンジンの出力が充分あるという優れたテクノロジーで武装されていたのです。明日はエンジンの高回転化を妨げるものと、それを可能にした技術等について、書いていこうと思います。