小説ブログ　「ＧＯ！ＧＯ！花園」

[夏の夜の怪談　呪われた館の望さんの巻] カテゴリの記事

全12件 (12件中 1-12件目)

1

• 

  （11）除霊

  Ｃ国Ｑ市に駐在する日本人駐在員の集まる駐在員団地で奥様たちが繰り広げるオムニバス物語。フツーな人がいないといわれるＧＯＧＯ団地。人の多く住まうところ、愛あり、憎しみあり、噂あり。駐妻の秘密の花園。ＧＯＧＯ花園って何？って方は、第一回のコチラからこの章をはじめから読むにはココいらっしゃいませ。私だけが待望していた？最終回、です。　○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●呪われた館の望さんの巻　（11）除霊　　　　兵頭さんの話は確かにすごく納得のいくものだった。すべてに説明がつく。霊だのお化けだの言うよりかはずっと現実的だ。しかし、自分の体ぐらいあるカスタード饅を引きずっているネズミを想像しているうちはなんとなく笑っていられるが、キッチンの家具の隙間で繁殖しているであろうゴキブリのことを考えると、お化けの話以上に身の毛がよだつ。望は、一刻も早くどうにかしなくてはいけない気持ちになった。　　　　翌日、早速花園の管理事務所の人に来てもらい、害虫除去の相談をした。やってきたのは、賃貸契約のときもお世話になった日本語の話せる王さんだ。住人の多いGOGO花園では工程部という花園の公共の施設や各家庭の設備や備品の修理とメンテナンスに当たる部門がある。工程部には随時数名が待機して、電球の付け替えから、付属の電化製品の修理にいたるまで、電話一本で駆けつけてくれる。今日も早速やってきた工程部のおじさんに、玄関先で地声の大きい王さんを間に入れて色々話していると、それを聞きつけた向かいの笹塚さんが顔を出した。笹塚さんとは顔を合わせれば挨拶をする程度の仲だ。「ごめんなさい、居間にいたら聞こえちゃったんだけれど、ゴキブリとネズミの駆除、するんだったら家も一緒にやってもらえない？困ってるのよ、私も。」　　　　やっぱり4号室の玄関先の会話は3号室に筒抜けだ、と思いながら望は王さんを見た。王さんは、工事部のおじさんとなにやら相談している。　　数分後、王さんとおじさんは、匂いが出るのでほかの住人の了解をとって事を進めなければいけないので、できるだけ早く連絡しますと言って帰っていった。残された望と笹津さんは、お互いの悩みの話でしばし盛り上がった。聞けば、笹塚家も吉田家と似たようなものらしい。ちょっとした隙にお茶菓子が消えたり、テーブルの上に飾ってあった果物に噛みあとがついていたりするし、ゴキブリとは週に2－3度は出くわすらしい。　　結局、管理事務所は工程部の人を５人使って、金曜日に６棟全部の害虫駆除をすることになった。王さんが許可を取るために各家庭に連絡を取ったら、ほとんどの家庭がぜひ我が家もと駆除を希望したのだ。　　そんなこんなで望がばたばたしていると、水曜日、兵頭さんからメールが来た。件名は「ねずみ＆ゴキブリ駆除について」。　　この間はごちそうさまでした。あの時話したねずみとゴキブリ駆除の件について。あの時はバルサンといいましたが．．．大きいスーパーにはバルサンとか日本のも売ってるらしいんだけど、私の聞いた話によると、やっぱり、こっちの害虫にはこっちの薬じゃなきゃって感じみたい。あとバルサンはゴキブリとかの虫専用で、ローカルブランドの藍槍必殺（効きそうな名前でしょ）ってやつが、ネズミも追い出してくれるそうでいいかも。ただし、青槍はほんとにおいが強烈なので、覚悟してやったほうがいいと思う。寝具とかに匂いがつかないよう工夫して、お客さんが来る予定の前の日とかにやっちゃだめよ。それではまだ。追伸）ちょっと聞いて回ってみたところ、これはオフレコだけど、霊のK物産のTさんの愛人の女、まだ生きてるらしいよ。今は某日系合弁企業の社長の愛人で、今度駐在員相手のカラオケバーをはじめるんだってよ。企業の名前はここではなんなので、この次あったときに！　　兵頭さんらしいメールに微笑みながら、望は返信ボタンを押して、今度の金曜に6号棟全部でゴキブリとネズミの駆除が行われるようになった旨、今日下準備に来た工事部の人に見せてもらった駆除用品が兵頭女史お勧めの青槍ブランドだったことを書いた。そして、PS. 例の件、今度あったときにぜひ！と付け加えた。　　金曜日、午前１０時に望をはじめ６号棟の住人はそれぞれの部屋から追い出された。午後５時までは入棟禁止。目張りをして煙を焚いてから掃除も入る。それらが終わるまで、住人はペットがいる場合はペットも連れて、家の外で駆除が終わるのを待たなければならない。望は、午前中から兵頭家にお邪魔させてもらい、お昼もご馳走になった。午後の３時からは学校から帰ってきたひかりをつれて、今度はひかりのお友達の家に寄せてもらった。その後は夕食のしたくも何もできなかったので、夕方、会社から帰ってくる夫と待ち合わせて、家族で外食をした。１０時から５時、そして夕食にも行ったので合計で９時間以上家をを空けた。Q市にきて以来、昼間一日中家を空けることなどなかったので、７時間は望にはとても長く感じられた。　　午後８時、すべてが終わった我が家に再び足を踏み入れた。「ただいま」　　思ったより臭くない。旅行に行ったわけでもないのに、なんだが久しぶりに帰ってきたような気がする。他所のお宅２件に立て続けにお邪魔したからかもしれない。「やっぱ、家が一番かも。」　　　思わずつぶやいてから、望はびっくりした。ホームスイートホーム。豪豪花園６棟４０４号室。ここがいつの間にか我が家になっている。まだ、何がなんだかわからないけれど、伝わりにくかった家族の体温が確かに少しだけこもっている。そう、確かなことは、ここだけが、私たち家族3人がただいまといって帰れる場所なのだ。少なくとも、ここしばらくは。（おわり）懲りずに参加しています。ここまで読む気力のあったあなた、応援クリックもついでに！にほんブログ村このお話は、これでおしまいです。書きながらアップしていたら思っていたよりずっと長くなってしまいました。長いことお付き合いいただきありがとうございました。．．．このブログを始めた当初は書きだめた物を少しずつアップする形をとっていたのですが、いつの間にか持ちネタがなくなり自転車操業になってしまいました。もともと、たいしたものではないのですが自転車状態になってから、クオリティがさらに落ちた気がして、今後どういう形で続けていくか現在ちょっと考え中です。読んで頂いている皆さん、コメント欄にてぜひご意見を聞かせてください。参考にします。

  2010年11月22日

  コメント(4)

• 

  （10）兵頭探偵のご名答

  Ｃ国Ｑ市に駐在する日本人駐在員の集まる駐在員団地で奥様たちが繰り広げるオムニバス物語。フツーな人がいないといわれるＧＯＧＯ団地。人の多く住まうところ、愛あり、憎しみあり、噂あり。駐妻の秘密の花園。ＧＯＧＯ花園って何？って方は、第一回のコチラからこの章をはじめから読むにはココ更新が遅れ気味でご迷惑…はかけてないか。おかけしていたらそれはそれでうれしいです。この巻、ほんとにあと二回！お付き合いください。　○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●<呪われた館の望さんの巻（10）兵頭探偵のご名答　　その週末を吉田家はめずらしく、家族水入らずで過ごした。土曜の昼にはQ市の中心街の日本食レストランに行き、握りずしのセットを食べ、日曜には家族でバトミントンをして遊んだ。引っ越して以来、忙しくしすぎていたから、これからはもっと家族との時間を持とうと思う、と浩二は言った。　　しかし、そんなやさしい夫の言葉も望の心には引っかかった。赤い紙の一件以来、夫はすっかりわたしがどうかしていると思っている。体調はどうだとか、ご近所さんとの人間関係はうまくいってるかなど、いままで言ったこともなかったようなことを聞いてくるし、時々こちらの顔を盗み見て何か変わったことがないかチェックしている。精神的に病んでいると思われているのだろうか。今日の朝、ためしにわざと大きめの声で独り言を言ってみたら、それこそ幽霊にでも出くわしたかのようなおびえるようた顔をしていた。望は、どうしていいのかわからない。悩みは一向に解決していないのに、夫には相談したら違う方向に持ってかれてしまう。水曜からはまた浩二は出張だ。不安であるが、それも口に出せない。　　考えた末、望は思い切って兵頭さんに相談した。急にお化けだの霊だのの話をして、兵頭さんにまで頭がおかしいと思われたら今後のQ市生活がめちゃめちゃになりそうで、一か八かの賭けであったのだが、今一番信頼できるのは彼女だ。そして、その予感どおり、兵頭さんはごくあっさりと問題を解決に導いてくれたのだった。「ああ、それはね。ネズミよネズミ。」「は？」「確かに刃物沙汰があったのはこのマンションかもしれないけど、お化けじゃないわよ。それはまずネズミの仕業ね。すっごく多いのよ、このマンション。６棟の向かいの一階に住んでるインド人、知ってる？」「ああ、あのすっごい大きいパラボナアンテナが庭にあるうちですか？知ってます。」「そう、あそこのうちは領事館関係の人らしいんだけど、何でもインドがものすごく恋しいらしくて、あのアンテナもインドのテレビを見るために取り付けたんだって。ここの花園全体に入ってるインドのNHKみたいなチャンネルだけじゃ物足りなくって、もっインドの民放って言うの？あそこのうちのテレビはそれまで全部映るらしいわよ。インドといえばボリウッドだっけ、あの激しい踊りの映画、あそこの奥さんまじめそうだけど、以外に家ではノリノリでああいうの踊ってるのかもね。」　　ああ、兵頭さんの話はどこに行くんだろう。普段から話好きで、悪気なく人のことをどうのこうの言うのが好きな人だけど、何でインド人の話なの？「あの、それで、それがネズミとどういう…？」　　望の不安そうな眼差しに気づいた兵頭さんは彼女なりの軌道修正をする。「ああ、ごめんごめん、で、あのアンテナの横で虫干ししてるの見たことない、チャパティ用の粉。」「チャパ…粉？」「そう、カレー屋のナンみたいなやつ。私たちにとってはインドといえばナンだけど、インドでは地方によってはなのかな、全国的になのかな、私もよく知らないんだけど、チャパティってやつのほうが一般的らしくて。なんか、チャパティは発酵させないで作るから簡単らしいのね。」「はい…。」　　話がどんどん遠くに行ってしまう。でも兵頭さんのスピーチは普通の人の２倍速だからこっちが言葉を挟む余地がない。「まあ、とにかくそれを作るのにあそこの奥さん、インドから1年分の粉を持って来たんだって。なんか、こっちで同じような粉が手に入るか不安になって引越し荷物に入れてきたらしいのよ。っていっても、小麦粉らしんだけど、やっぱりあれかしら、味が違うのかもね、こっちのとは。私たちにとってのお米みたいにさ。それに最近は、ほら、あの事件以来C国の食品の安全性って誰もが不安に思ってることだし。」　　望はもうあきらめてってうなずきながら聞くことにした。「そう、それで、この湿気で虫がわいたら大変だからって、時々晴れた日に虫干ししてるのよ。で、それにに誘われて花園中のネズミがX棟とその向かいのここに集まってきちゃうのよ。 もともとここはさあ、食べ物も豊富でねずみが多いし、大道りと運河に囲まれてるからねずみが出て行かないのよ。で、ねずみは増える一方で、増えたねずみがチャパティいに釣られてくるから、９号棟と隣の６号棟はGOGO花園のネズミの都ってわけ。」　　ネズミの都！大量のネズミが9号棟に向かって集まってくる様を想像して、望は寒気を覚えた。ネズミ、確かにキッチンでかさこそやっている音はなんとなくそんな気もする。「でも、壁を壁の面をなにかが横切るんです。黒い影みたいなものが。ネズミだってスパイダーマンじゃあるまいし、壁面は走れないでしょう？」「ああ、後はゴキブリね。ゴキも粉目当てじゃないの？この陽気だからきっと大繁殖じゃない？　一回、バルサンみたいの焚いた方がいいかもよ。それで、キッチンの家具の隙間とは、排水溝は目張りしてもう入ってこれないようにするの。」　　兵頭さんはゴキブリが苦手なのか、ネズミのときとは打って変わった様子で言葉少なに話をまとめるといかにも気味悪そうに、二の腕をさすった。名探偵と言えば…C国でも人気のこの人　（つづく…）あなたの周りに話し出したら脱線しても止らない兵頭タイプはいますか？私、酒のむとそうなるかも。にほんブログ村

  2010年11月17日

  コメント(0)

• （9）恨みと呪いの館　～後編～

  Ｃ国Ｑ市に駐在する日本人駐在員の集まる駐在員団地で奥様たちが繰り広げるオムニバス物語。フツーな人がいないといわれるＧＯＧＯ団地。人の多く住まうところ、愛あり、憎しみあり、噂あり。駐妻の秘密の花園。ＧＯＧＯ花園って何？って方は、第一回のコチラからこの章をはじめから読むにはココ久しぶりの更新で自分でもどこまでアップしたかわからなくなってしまいました。それにしても楽天が重い。　○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●呪われた館の望さんの巻　（9）恨みと呪いの館　（後編）　　その日、望の夫の吉田浩二はめずらしく早く帰宅した。予定では、出張先から夜7時にQ市の空港に戻ることになっていた。しかし、午後の会議が先方の都合でキャンセルになり、急遽振り替えて午後一番の便に乗って帰ってきた。空港に着いたのは午後３時、まっすぐ帰れば、４時前には自宅に戻れる。Q市の事務所によれば仕事はいくらでもあるので一瞬迷ったが、浩二はタクシーの運転手に運転手に自宅を行き先として告げた。ここしばらくかなり仕事がきつかったので、今日くらいゆっくりしてもいいだろう。引越し以来、忙しくてほっておいている妻と娘のことも気になる。　　しかし、早めに帰った我が家には、難題が宅に待ち構えていた。外出先から戻ったばかりの様子の妻が興奮した様子で、死人だの霊だの、わけのわからないことをまくしたてる。これでは、事務所の机に上にある無尽蔵な書類の山のほうがましだったかもしれない。「…ということで、K物産は呪われてるのよ。ここの家に前はいってた人はK物産の人だっていうじゃない、5ヶ月で出て行っちゃって。きっと後任者ってことでその女の人が霊になって出てきて、それで住めなくなったのよ。」「で、何でその人の霊が、わが家にも害を及ぼすわけ？」「だから、その愛人の霊がこの家に憑いててTって人の後任者が呪われて。わたしたちも。」「そんな、業務じゃないんだから、霊まで後任者に引き継ぐかよ。そうだとしても、ウチはK物産じゃないんだから関係ないじゃん、引き継がないよ。」「霊が…その、自縛って言うの？そおいうのになっちゃったとか。もしくは、もう日本の駐在員自体が恨めしいのかも。」「そんな、駐在員全部って、そんな大雑把な呪い方しないって。」「だから、もう恨みがすごすぎて、日本人はみんな恨めしいのかもよ。それとも、下等な霊で分けわかんなくなってるのかもしれないし。」「いくら反日デモがはやってるからって、霊まで反日になるか。まあ、饅頭盗むなんてのは確かに下等だよなあ。でも下等霊ってのは、なんかもっと動物とかそおいうの霊のことをいうんじゃないの？」　　適当に答えながら、浩二は家に帰ってきたことを後悔した。こんなことだったら、今から会社に顔出して、事務処理でもしようか。でも、妻の剣幕は収まりそうにない。仕事でくたくたになって帰ってきて、待ち構えてた妻から「下等霊」の話を蒸し返されるのは辛すぎる。それにしても、いつもはのほほのんとしている妻が今日に限ってどうしたんだろう。引越しのストレスでちょっとおかしくなってるのではないだろうか？　　そのとき、立って話す二人の横にあったガラス窓に、何かが風で吹き飛ばされてきて張り付いた。今日は風が強いので、ほこりっぽい外の空気を嫌う望は窓を開けていない。飛んできたのは、赤い紙で、どういったわけか、冊子の窓枠のどこかに挟まれたらしく、窓にくっついて離れない。　　大事な話をしているのに、夫がまじめに取り合ってくれないのでいらいらしていた望は、がさがさいいながら窓に張り付いた赤い紙を見て、眉を寄せた。それは、真っ赤な、朱色ではなく、黒味がかった赤い、質の悪いざらざらした感じの紙で、マジックで黒い文字が書かれている。赤地に黒、なんだかまがまがしい。このままでは窓枠に挟まって、ばたばた言ってうるさいので、窓を細めに開けて、紙を引っ張り込んだ。手にとって書いてある文字を見た望は悲鳴を上げた。「ひいっ」。「お、おい、どうした？」「この紙、気持ち悪い。呪いがどうのって書いてある。呪い！あの女の呪いよ！」　　望は、紙を放り出して震えている。妻の様子が、ちょっとここまで来ると尋常ではない。浩二は、けげんそうに紙切れを拾い上げると、紙切れを見つめた。C国語で何か書いてある。書きなれた感じはするが、癖のある漢字はお世辞にも上手いとは言えない。「……違うよ、これ、呪いなんかじゃないよ。」「じゃあ、なんなの。なんなのよっ。」　　望の声は完全に裏返っている。望の様子に気おされつつ、浩二はできるだけ落ち着いた口調でこたえた。「ほら、よく見ろよ。僕にも正確にはわからないけど、これ、金婚式なんかのお祝いの飾り付けじゃないの？結婚して５０年がどーのこーのって書いてあって…、ほら見てよ。これ、字が下手だけど呪いじゃ全然ないでしょ。」「…。」「ほら、しめす偏だっけ、なんだっけこのネみたいなやつ、あ、ネ偏か、これがつぶれて分けわかんなくなってるけど、これは祝うって字だろ。呪いじゃない、おめでたい何かだよ」「え…あ、ほんとだ、これ…祝う？　」 ああ。いわれてみればその通りだ。非常に癖のある字でわかりにくいけど、これは確かに「祝」だ。「そうだよ。しっかりしろよ。」「じゃあ、なんなの」「なんか、わかんないけど、どっかのC国系のうちから飛んできたんじゃないの？レストランとか」そういえば、隣の９棟の一階の家が昨日の夜パティーかかなにかをしていた。夕方、琴だか胡弓の奏者が呼ばれて演奏しているのが外まで聞こえて風流な感じだったのだが、その後、夜もふけてから爆竹を鳴らして大騒ぎになった。あれは時々の公園で見かけるおじいさんとおばあさんの金婚式のお祝いだったのかもしれない。そのときの、張り紙がそういったわけか家まで飛んできたのだ。（つづく…）風邪がはやっているのは、我が家だけですか？たいしてつらくないけど、セキがとまらず困ってしまう風邪、蔓延中。皆さんもお気をつけて！

  2010年11月04日

  コメント(0)

• 

  （8）恨みと呪いの館　～前編～

  Ｃ国Ｑ市に駐在する日本人駐在員の集まる駐在員団地で奥様たちが繰り広げるオムニバス物語。フツーな人がいないといわれるＧＯＧＯ団地。人の多く住まうところ、愛あり、憎しみあり、噂あり。駐妻の秘密の花園。ＧＯＧＯ花園って何？って方は、第一回のコチラからこの章をはじめから読むにはココこんばんは。ご訪問ありがとうございます！体調不良に苦しんでおります。でも寝込むほどではないんですよね。家でだらだらしてるのがちょうどいい感じなので、がんばって書いてみました。長くなったのでとりあえず、前編。　○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●　呪われた館の望さんの巻　（8）恨みと呪いの館　（前編）「そして、その女は、切ったところが悪く、数日後に病院で死んだ…亡くなったんだって。」　　語りだしたらとまらぬ勢いで、講談師ばりに、なんであんたがそんなこと知ってるのということまでもその場で見たかのように語った金井さんは、お茶を一口すすってから、デザートのマンゴープリンに手を伸ばした。望をのぞくほかの2人は話を聞きながらもうプリンを食べてしまった。後藤さんがみんなにお茶をついでから、片手を上げてウエイターに急須にお湯をさすように合図した。食べ終わった兵頭さんがあとを継ぐように、「そう、あの時は大騒ぎだったんだから、Tさんって人が会社にいけないように朝っぱらから乗り込んできての大騒ぎだったのよ。ウチの子幼稚園バスまで送りに行った帰りにたまたま通りかかって救急車見たわ。あれ、何号棟だっけ？9号棟かな。」　　スプーンを使う望の手がぴたりと止まった。「え、9号ってうちの…どこの部屋だったんですか？」　　玄関ドアのまん前にお向かいの家のドアがあって、リビングでの騒ぎが筒抜けになるのは４号室と６号室だ。９棟の住人にはここ２～３年花園に住んでる古顔が多い。ひょっとして、それって４階の４号室の我が家であった出来事じゃないの？　我が家で流血事件？人が死んだ？濃厚でおいしいと思っていたマンゴープリンの味が急にわからなくなった。　　望は、スプーンをテーブルにおくと、兵頭さんと金井さんを質問攻めにした。大福ビルに住んでいて、事件の直後に引っ越してきた後藤さんは黙って成り行きを見守っている。まさか、事件が望の家であったとは知らずに面白おかしく語った金井さんは、ばつが悪いのか急に口数が少なくなったが、言いだしっぺの負い目から知っている範囲で答えてくれた。詳しく聞けば聞くほど、怪しい。　　とうとう、望は、帰りのタクシーの車中で、渋る兵頭さんに頼んで、知り合いに電話を入れてもらい、事件があった部屋が今の自分たちのマンションであることを確認した。　　なんてことだ。流血事件なんて考えただけでおぞましい。自分らの住む家のどこの部分に血が流れたんだろう。それに人が死んだなんて，殺人未遂？ではないか。でも、怖い、怖すぎる。…でも同時にやっぱり、と思っている自分もいた。やっぱり、あのうちには恐ろしいいきさつがあったのだ。あの家は呪われている。愛人に捨てられて逆上して死んでいった女の情念が今もあの家に宿っているのだ。　　数ヶ月前、そういえば…あの家に越すことが決まったとき、花園のリース担当者が前に住んでいたのはK物産の赴任家族といってたような気がする。なんでも3人目の子どもができて手狭になったから、半年住んだだけでほかのマンションに移ったとか…。リース部の女性は、「前の住人は半年しかいませんでしたが、きっちりメンテいれておきました」と、自慢げに言っていたっけ。　　子どもができたから引っ越す？そんなの嘘だ。子どもが生まれるなんて半年前にはわかってる。もっと広い家がいいなら、なにも出産後の忙しいときに引越しなどせずに、始めからほかの家を探すのではないか？きっと前の人たちにも何かがあったんだ。前の人たちはあの家が不気味で越していったにちがいない。　（つづく…）あと2回で終わるのか？たぶん無理。無駄に長引いてるような気もしますが、もう少しお付き合いください。それでは皆さんよい週末を～。

  2010年10月22日

  コメント(0)

• （７）血塗られた過去～後編～

  Ｃ国Ｑ市に駐在する日本人駐在員の集まる駐在員団地で奥様たちが繰り広げるオムニバス物語。フツーな人がいないといわれるＧＯＧＯ団地。人の多く住まうところ、愛あり、憎しみあり、噂あり。駐妻の秘密の花園。ＧＯＧＯ花園って何？って方は、第一回のコチラからこの章をはじめから読むにはココこんにちは～。遅れがちな更新ですが、今回もなんとか。なんか、書いてるうちに長くなってきてしまって、この巻、今迄で一番長くなりそうです。あと3回ぐらいで終わりたいんですけど…。　○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●呪われた館の望さんの巻（７）血塗られた過去～後編～　　K物産からは数名の駐在員がQ市に派遣されているが、ある役職の前々任者、T氏にはC国人の愛人がいた。T氏は単身赴任で、Q市赴任となる前は2年間内陸部のW市で働いていた。W市は人口の規模でいえば大都市ではあるもの、まだまだ発展途上のC国内で５番手か６番手の都市。T氏が赴いた５年前にはまだまだ外国人が家族を連れて駐在する環境は十分整っていなかった。　　T氏も、子どもの教育や家族の生活を考え、2年間家族と離れて暮らした。そして、3年前Q市にスライド転勤が決まる少し前に、日本で記念受験をした子どもが私立の学校に合格してしまった。これでＴ氏の妻は、神奈川の家からテコでも動かなくなってしまい、比較的生活環境の整ったQ市に移ってからもＴ氏の単身生活は続くこととなった。そして、よくあることなのだが、T氏がW市赴任中に関係を持ったナイトクラブづとめの女の子は、彼とともにQ市にわたり、彼の私的な世話をする「愛人」になった。　　そう、これはよくある話である。駐在員は忙しくて孤独だ。本来の業務に加え、日本からの出張者のアテンド、終わりのない事務処理など、元来働き者でコミュニケーションが苦手は日本人は、本来なら現地スタッフに任せればいい仕事まで抱え込む。そして、仕事が終わってからの生活は、日本での単身赴任生活よりずっと厄介だ。仕事が終わって帰りがけに、コンビニで夕食とビールと好物のつまみを買って帰るというわけにはいかない。今現在のS市やB市ならまだしも、5年前のW市ではそんなことは夢のまた夢だった。　　そして、家に帰っても孤独が待っている。テレビといえばＮＨＫの衛星放送のみで、それも天候によって映ったり映らなかったり。冷蔵庫も空っぽで火の気のない自宅に帰るかわりに、多くの単身赴任者は日本料理屋や日本人向けカラオケバーやなどをはしごして過ごす。休みの日にも、バーで知り合った女の子を連れ、ちょっとした買い物をして、手伝ってもらった御礼に昼食をご馳走する。そうやって無聊をしのいでいるうちに、女の子が愛人になる。　　バーの女の子たちは、たいていは田舎出身の出稼ぎ者である。出稼ぎで町に出て、少しでも割りのよい仕事にとして外国人相手の水商売につき、結構器用に日本語を話す。しゃべる相手が男性ばかりなので、男言葉だが、それも愛嬌のうち。田舎に仕送りをしながら、決して高給ではない夜の仕事をこなしている姿はけなげに見える。日本への出張の帰りに、空港の免税品店でふと思いついて買った化粧品を渡せば、目を輝かせて喜んでくれる。みやげ物のリクエストとして注文書のほうがまだましなような品名だけのメールを送ってよこし、こっちが苦労して時間を見つけて買って帰ると「頼んだものと違う。」とこれ見よがしにため息をついてみせる妻とは、なんと言う違いだろう。　　そんな女の子たちを、休みの日に連れ出して聞いてみれば、バーでの仕事は時間も不規則で、深夜にわたるわりに給料はたいしたことない。そして何回も店外で会ううちに、もう仕事をやめて、自分の「専属」になれば、という話になる。日Ｃの経済格差から、仕事以外の時間を埋めてくれて身の回りの世話をしてくれる、若くて性的魅力もある女の子が格安で自分のものになるのだ。家政婦よりは金はかかるが、家政婦では手に入らないものがいろいろついてくる。女もこちらのほうが生活でが楽しいという。そう、ここにあるのは利害関係だが、情がないわけでもない。利害と愛情の比率はケースバイケースである。　　まあこんな一般的な経緯を経て、Ｔ氏の愛人は3年前のスライド転勤をきっかけに、Tさんの身の回りの世話をする専属になった。そこに愛があったかは、今となっては誰にも知る由はないが、二人の関係は特に問題なく３年続いた。　　そして、その関係は、Ｋ物産の内部辞令であっさり終わった。Ｃ国駐在4年半、ついに出た帰国の指令である。Ｔ氏が事情を話して別れ話を切り出したのが木曜日、話はあっというまにこじれにこじれた。T氏としてはこれまで自分のうちに住まわせ、いろいろ買い与えて、現金も渡していたのだから、別れ際に少し大目のお小遣いをやればすむものだと思っていた。しかし、それはまったく違った。愛人は、あなたがいなくなったら暮らしていけないと繰返す。　　木曜日の割と早い段階で問題が金だということを悟ったＴ氏は、はっきりと愛人に、最後にやろうと思っている小遣いの額を少し多めにして言って見た。これで最後だからしょうがない。これで黙るだろう。しかし、「そんなのすくなすぎる！」愛人は、吐き捨てるように行って、どこかに電話をかけだした。Ｔのまったくわからない、彼女の田舎の言葉で話している。電話を切ると、彼女は「そんなんじゃぜんぜん足りないと田舎の家族も言っている。すごく怒っている。」　　以前よりふっくらとしてきれいになったと思っていた顔には、以前はよく出た険が出ていて、さっきまでの若いかわいい女の子とは別人のようだ。Ｔ氏の頭には、Ｃ国人とつきあうと言うことは、その本人とのみかかわりを持つことでない。背後にいる親兄弟とか親戚一堂と利害全部ともつことだ、という「C国ビジネス入門」、みたいな本に書かれていた一文が浮かんだ。入門書が、帰国にあたって役に立つなんて…。だが、もう遅かった。愛人はもう何にも言わなくなってしまった。　　携帯で誰かと話してばかりで、自分がいないように振舞う愛人が不気味で、口実を作って週末は家を空けたＴ氏のもとに、月曜の朝になると愛人の「従兄」がやってきた。豪豪花園の厳重なはずの警備を住人である愛人の同伴で「従兄」はやすやす通り抜け、家上がりこんだ。月曜の出勤前である。　　会社に乗り込まれでもしたらかなわないので、しかたなく出勤前のＴ氏は彼らと話し合いをすることになった。話し合いとはっても、言葉が通じない。屈強でこわもての「従兄」が、時々携帯で誰かと連絡を取りながらポケットから出したナイフをもてあそび、Ｔ氏にらみつける。そして時々ぞっとするようなドスのきいた声で愛人の要求を呑むように言う。主に話すのは愛人だ。「あなたいなくなたら、ワタシ困るよ。ワタシの家族もみんな生活困る。仕事、もうやめたからお金はいてこない。何年もあなたのために働いたよ。」「僕もサラリーマンだからそんなに出せないよ。今まで色々買ってやったし、僕がいつか買えることだって知ってたろ。」　　辞令が出たからかえる。愛人とは別れる。これらはごく当たり前のことだった。日本にいつか帰ることは話してあったし、2時間ドラマじゃあるまいし妻と別れて君と…なんて下手な約束をした覚えなどまったくない。愛人もそれで満足なのかと思っていた。「ワタシが家族に恥ずかしくないようにちゃんとして！できないなら、このままＣ国にいればいい。ワタシと暮らしていればいい！」「だから、会社が帰って来いって言ってるんだ。だから何が何でも帰るんだよ！」　　週末からのまったく進展が見えない、話し合いに嫌気が差して、Ｔ氏は思わず強い口調になった。その瞬間、愛人の顔が怒気でゆがみ、Ｃ国語で何か言ったかと思うと立ち上がった。脅し役だったはずの「従兄」があわてて止めに入る。手からナイフが滑り落ちた。「会社が、会社がって何なの！？あなた、ワタシを頼りにしてるいったでしょ。ワタシあなたの生活の面倒見たよ。別れるの仕方ないけど、それはあなたが別れたいから。会社関係ないね。自分が別れるんだから、人のせいにしないでちゃんとお金払って！」「だからそんな金ないって！」「嘘、あなた金あるのワタシ知ってる！日本人お金もってて一杯遊びに使うよ！今さらないなんて、それ嘘！」　　愛人はそれだけ言うと、床に落ちていたナイフ拾い上げT氏に切りつけようとした。Ｔ氏は足がすくんで、動けなくなった。止めに入った「従兄」、愛人、Ｔ氏、3人がもみ合ううちに愛人はどうしたことか自分で自分を切ってしまい、あたりに血が流れた。驚いたTは、おろおろと家を飛び出し、怒鳴り声を聞きつけ、なにごとかとドアの前まで来ていた隣人の奥さんと鉢合わせた。血まみれの愛人を見た奥さんは管理センターを通して警察を呼び大騒ぎになった。（つづく…）最後まで読んでいただきありがとうございます。ところで気になる愛人の手切れ金の相場ですが、Ｃ国の都会だと100万～150万円、田舎だと50万円くらいだそうです。あなたはこれを高いと思いますか？それとも安いと思う？普通の主婦の花園夫人には、遠い世界の話で（で、あってほしい）実感が持てません。…なんかすっかり胡散臭い豆知識になってしまいましたが、また次回もよろしくお願いします！

  2010年10月19日

  コメント(0)

• 

  （６）血塗られた過去～前編

  Ｃ国Ｑ市に駐在する日本人駐在員の集まる駐在員団地で奥様たちが繰り広げるオムニバス物語。フツーな人がいないといわれるＧＯＧＯ団地。人の多く住まうところ、愛あり、憎しみあり、噂あり。駐妻の秘密の花園。ＧＯＧＯ花園って何？って方は、第一回のコチラからこの章をはじめから読むにはココいつも寄ってくださっている皆さんありがとうございます。や～っと休みが明けで、通常モードで再開です。10月10日の予定が2日遅れ。花園夫人はもう年なので旅の疲れが取れるのに思っていたより時間がかかりました。考えが甘かったようです。この章は長くなってしまったので、今回は前編だけ。次回も早々アップの予定ですのでよろしく！　○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●呪われた館の望さんの巻　（６）血塗られた過去～前編～　　望がその日でかけたのは、以前から楽しみにしていた集まりで、メンバーは兵頭さん、大吉城という豪豪花園から車で5分ほどのマンションに住む後藤さんと金井さんだ。後藤さんとはひかりを迎えに伺ったお宅で、そのお宅の下の子のの同級生ママとして紹介され、ごく短い時間だが一緒にお茶を飲んで、好印象だった。もう一人の金井さんという人は、兵頭さんいわく、さっぱりしていて面白い人らしい。そして何より、行き先のレストランがC国に来て数ヶ月、ずっと行ってみたかった本場の飲茶の専門店だ。　　たいていの奥さまランチは2人から4人ぐらいで、ホテルや駐在員の集まるレストランに予約を入れて行く。出入りの多い駐在員の送別会や、習い事の打ち上げなどではもっと規模が大きくなることも多いし、特に外国人向けでない地元の人で賑わうローカルのレストランに行くときなどは、声をかけられる人にはかけておいて、こられる人はどうぞ、という大雑把なものもある。ローカルのレストランは、たいてい一皿が大きく2人や3人では何種類もの料理を楽しめないからだ。　　C国料理のオーダーの基本は、前菜を2～～3皿に料理、肉魚、野菜、豆腐料理などを取り混ぜて人数分の皿。それにスープを入れたければ入れて、最後に〆にご飯ものか麺類をたして、果物か甘いデザートをつける。こうすれば、辛味、酸味、塩味、こってりしたものからさっぱり系までトータルで楽しめる。C国料理の醍醐味を味わうには人数が必要なのだ。　　しかし今日のランチには、大人数は必要でない。むしろ、蒸篭に入っている点心の数が4つであることから、厳密に4人でなくてはならない。5人だと一人あぶれてしまうし、3人だと1個余ったものをどうぞどうぞと押し付けあって、うまくいかない。まれにレストランによっては蒸篭の中身は基本3つのところもあるので、万事滞りない兵頭さんが、あらかじめ得意のC国語で電話を入れて確認済みだ。　　ランチは、スムーズに進んだ。新しいレストランということで金井さんなどは心配していたが、点心はどれもおいしいかった。色とりどりで、動物の形を模した物など、目にも楽しい。望には普段はいまいち良さがわからないC国茶も、後藤さんが自宅から持ってきた特別なお茶を持ち込み料を払っていれてもらったもので、香りがよく、食事がすすんだ。　　食事が終わりに差し掛かったころ、開店間もないということで、やる気満々の支配人が、望たちのテーブルに挨拶に来た。みんな既婚者でそう若くはないが、化粧をして、日本風の服装の女4人組は地元の人なかでは目に付くようだ。今後もよろしくと、恭しく名刺を差し出す黒スーツの支配人に、兵頭さんが調子よく、「このレストランが気に入ったので、これから日本人の奥様たちの会合にぜひ利用したい。人数が多いこともあるので、あとで個室を見せてくださいね。」などと言えば、5％引きになるというVIPカードをさしだしてきた。そして「いますぐ、デザートに自慢の味だというマンゴープリンをサービスではこばせますね。」という。兵頭さんよくやった。　　望は兵頭さんのいっていることが所々しかわからないかったが、その堂々とした様子ににあっけにとられた。後藤さんは話を黙ってニコニコと聞いている。ポチャリ系美人の後藤さんが鷹揚に笑っていると、堂々とした兵頭さんよりさらに格上みたいだ。そこに、C国語はあまりうまくないがやり手の金井さんが、支配人の言葉が途切れるのを待って割り込む。金井さんは、兵頭さんにのみに差し出されたVIPカードを指差しながら、望にもわかるような単刀直入な言い方で私とほかの二人にも頂戴と支配人にかけあった。　　いったん下がった支配人が、4枚のVIPカードを仰々差し出して言った後、どういった話の流れだったのか、金井さんが、ごく上機嫌にマンゴープリンを食べながら始めた話は衝撃的なものだった。2年位前にK物産の駐在者がC国人の愛人とトラブルになり、豪豪花園のマンションの一室で刃物沙汰を起こして、大騒ぎになったらしい。警察と救急車が来て、騒動は花園始まって以来のもので、結果的に死人まで出たらしい。　　望は驚いた。K物産といえば日本人なら誰でも、いや外国の人でも知っているような有名企業ではないか。現在もK物産からは駐在者が何人かいるはずで、現にひかりの仲良しのクラスメートは、K物産からの赴任家族で魅力広場で暮らしている。たしか、あちらの家族もQ市に来てせいぜい半年ぐらいのはずだ。いくら回転が速い駐在員の世界とはいえ、たかだかたかがか2年前のことなのに、まったく知らなかった。　　駐在員の世界は噂の世界である。みんながみんなのことを知っている。しかし、噂が広まるのも早いが、それは、あくまで水面下でのことである。水中では流れが渦巻いていてもあくまでも湖面はしっとり静か。大勢の人の前や親しくない人が同席の際に噂話をすると、噂好きと認定されてしまうので、少人数の仲のよいものどうしの集まりでしか本音や噂は語られないからだ。でも狭い世界なので噂はあっという間に広がっていく。引っ越してきて2ヶ月、今まで湖面に浮かんでいた望は、今やっと「水面下」を覗く機会を得たのだ。（つづく…）

  2010年10月12日

  コメント(0)

• 

  （６）闇に消えた饅頭

  Ｃ国Ｑ市に駐在する日本人駐在員の集まる駐在員団地で奥様たちが繰り広げるオムニバス物語。フツーな人がいないといわれるＧＯＧＯ団地。人の多く住まうところ、愛あり、憎しみあり、噂あり。駐妻の秘密の花園。ＧＯＧＯ花園って何？って方は、第一回のコチラからこの章をはじめから読むにはココ夏はとっくに終わったのに、続いてる夏の怪談ですが…第６話です！　　　　○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●夏の夜の怪談　呪われた館の望さんの巻（６）闇に消えた饅頭　　早寝をすると早起きになる。早起きをすると朝食がおいしい。宵っ張りの望は、朝、食欲が出てくるまでに時間がかかっていた。いつもは幼稚園に行く光の朝食の世話をしながら自分はコーヒーを飲んでフルーツをつまむみ、食べてる振りをする。朝食は家族そろって健康的に！理想はわかっているが、夫は出張で留守がちだし、自分は朝の起き抜けからもりもり食べられるタイプではない。かといってひかりを一人朝食のテーブルに着かせるのもかわいそうなので、一緒に座って、プレ朝食をとる。そして、ひかりをバスでまで送っていってから、やっと目覚めた胃袋に本格的にトーストなどを入れたりしていたのだが、ここ数日は朝早く目覚めるので、早々におなかがすく。ひかりが着替えてくるのも待ち遠しいくらいだ。実に健康的である。　　その日、望には１時の予定で兵頭さんともう一人の奥さん仲間とランチの予定があった。タクシーを乗り合わせて市の中心地に行くので12時半に家を出ればよい。ランチのあとはたいていおしゃべりで、子どもたちのスクールバスのぎりぎりの時間までお茶をするのがいつものことだったので、朝のうちに張り切って家事を済ませた。掃除をして、洗濯物を干して、11時過ぎには夕食の下ごしらえまで済んいた。準備万端だ。　　仕事が一段落すると、これから楽しみにしていたお出かけだというのに、望はため息をついた。空腹だ。早起きして、朝食のあとからいままでバリバリ働いたのだから当然かもしれない。ランチまであと２時間、このままでいるのはちょっと耐えられそうにない。望はキッチンに戻って、電子レンジで冷凍のカスタード饅を暖めた。スーパーで売っている冷凍の卵と砂糖の黄色い餡入り饅頭。ちょっと小腹がすいたときとか、子供のおやつ用に買いおいてある。夜遅く帰宅した夫の浩二も甘党なので時々深夜にチンしている。これでも食べて、ランチまでのつなぎにしよう。　　望は、凍った白い饅頭をひとつだけ取り出すとラップでくるんでレンジに入れた。本当は湯気の立つ蒸し器で１０分ほど蒸したほうがおいしいのだが、たった一つの饅頭のために蒸し器を出す気になれない。中強で2分加熱。ちょっと待てば、ふかふかの饅頭の出来上りだ。しかし、たった2分、されど2分。お腹がすいてるときはこれが長い。望はレンジの前に突っ立って待つ。まだかな、まだかな。こんなときは、自分も５歳のひかりも大差ない。　　チン！やっとできたカスタード饅をミトンをはめた手で取り出す。甘い匂いがふわっとレンジから流れ出る。しかし、ここでかぶいりついてはいけない。外の皮よりも中の餡がとくに熱くなっているため、できたてを食べるとやけど必死である。あと少し待たなくてはいけないのだが、これができずに、何度口の中をやけどしたことか…そう思いながらラップを取っていると、玄関のチャイムが鳴った。　　不意をつかれ、一瞬ぎくりとした望だったが、すぐ訪問者に心当たった。「水の配達だ。」Q市、というより、C国では水道の水は飲料に適さないので、多くの人が飲料水を購入する。水道水も、煮沸して飲めば大丈夫ということらしいが、望をはじめ一般の外国人には水道水のにおいが強くてとても飲めたものではない。たいていの日本人は、米をたくのにも、味噌汁を作るにも、購入した飲料水を使う。　　飲料水は、大きな１２リットル入りのプラスチックボトルに入ったものを配達してもらい、最近では日本のオフィスや家庭でも見かけるようなウォーターサーバーに取り付けて使う。購入先は、数多あるのだが、水とて偽物がでまわっっているらしく、信用できるところを兵頭さんに紹介してもらった。片言のC国語をででんわをかければ、その日のうちに配達してくれる。　　ドアを開けると果たして水の配送で、何度か来たことのあるおじさんが人のよさそうな笑みを浮かべて立っていた。望は手でちょっと待ってというしぐさをして、いったん玄関から十数歩の距離であるリビングに戻った。水の配達は料金前払いのチケットで制で、あらかじめ購入したチケットを配達された水のタンクの数だけ配送の人に渡せばいい。リビングテーブルのひきだしから、チケットのつづりを取り出すと、歩きながら二枚ちぎっておじさんに手渡す。おじさんは、玄関先に並べてあった空のタンクを持って、帰っていった。　　不意の配達で、時間がとられてちょうどよかった。きっとカスタード饅、ちょうどいい感じに冷めていてくれてる。「食べごろ、食べごろ…」いそいそとキッチンに戻った望は、わが目を疑った。ない！カスタード饅がない。　　小皿の上で冷ましておいたはずのカスタード饅は忽然と消えて、ピンクの小花柄の小皿だけがレンジの前におかれている。…間違ってレンジに入れっぱなしだったとか？　　レンジの中を見てもない。そもそもカスタード饅が載っていた外に出ているのだ。この皿にのっていたのに！辺りを見回しても何処にも落ちてない。水の配送の人が盗った？　　さっきまでいい人そうだと思っていたおじさんが、にわかに疑いの対象になる。たしかに、この暑いなか何キロもある水の大きなボトルを自転車にいくつも積んで配送して回る仕事はきつくてお腹もすくだろう。昼前のおなかがすいてるときに、いいにおいがしてつい魔がさした、とか？　　でも饅頭なんて盗るかなあ？それに、チケットを取りにいった30秒ぐらいの間に、たかが数メートルとはいえキッチンのなかに入って饅頭を盗って食べることなんてできる？激熱よ、口の中やけど必死。じゃあ、ポケットかどっかにしまったとか？。でも、背を向けてたとはいえ、私が数メートル先のリビングにいたのに…。　　望はとりあえず、買い置きのクラッカーを口に放り込んで、出かける支度したくを始めた。やばい、やばい、饅頭なんて探してばたばたしてるうちに、もうすぐ12時だ。まだお化粧もしていないのに。　　支度がすんで、12時25分に家を出る。兵頭さんとはタクシー乗り場で待ち合わせなので、時間ぴったりだ。玄関のドアを出て、戸口から中を振り返った望は、まだ慣れない我が家を他人の家のように覗き込んだ。なんか、へんだ。夜になるとする、なんか怪しい気配。キッチンの物音。一人になったときに感じる背後の壁面をうごめく感じ。消えた饅頭。なんだかこのうちは怪しすぎる。（つづく…）ご愛読ありがとうございます。C国は国慶節の連休です。中秋に続いて休みばっかり。私、花園夫人は、明日からJ国方面に旅行の予定です。次回の更新は旅行明け…は無理。子供たちの学校が始まった、１０月１０日くらいかな。

  2010年10月01日

  コメント(0)

• （5）真夜中の訪問者

  Ｃ国Ｑ市に駐在する日本人駐在員の集まる駐在員団地で奥様たちが繰り広げるオムニバス物語。フツーな人がいないといわれるＧＯＧＯ団地。人の多く住まうところ、愛あり、憎しみあり、噂あり。駐妻の秘密の花園。ＧＯＧＯ花園って何？って方は、第一回のコチラからこの章をはじめから読むにはココ　○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●呪われた館の望さんの巻（５）真夜中の訪問者　　望は特に、新しい家で夜をすごすのが苦手だ。夫は着任早々の先月、内陸の工場に急な欠員が出たせいで、Q市での勤務の傍らそちらのフォローにも回ることになり出張が多い。最近では週のうち半分は家を空ける。外国に引っ越してきたとたん、出張続きなんて、わたしとひかりで日本に残って単身赴任でもすればよかったんじゃないの、と思わず口に出しそうになっってしまったが内陸部での急な欠員は、夫のせいではない。望は昼間は気を張って新しい生活の集中しようとするのだが、ひとりで夜のリビングダイニングにいると、だだっ広い家に取り残された気持ちになる。小学2年生のひかりは9時ごろには寝てしまう。わりと宵っ張りな望は9時から最低でも深夜12時まで、時には午前1時か2時までがらんとした家で一人で過ごす。　　今夜は、ダイニングテーブルで夜一人で家計簿をつけていた。新生活が始まって何かと物入りのせいか、物価が安いと思っていたC国での出費は予想外に思ってたより多い。それともどこかで間違えたのだろうか？とくに食費がかかりすぎているせいなような気がするが、得意なはずの電卓をどこかで押し違えたのかと、家計簿に覆いかぶさるようになって再計算をしていると、背後で何かの気配がする。ダイニングチェアの後ろは壁だ。　　　手を止めて振り返った瞬間、何か影のようなものが壁面を通り過ぎた…ような気がした。でも壁は真っ白。蛍光灯の明かりを反射して光っている。何もない、気のせいだ。　　しかし数分後、食費の再計算を終えた瞬間、キッチンで何か物音がしたような気がした。耳をすませると、まるでのぞみの気がそっちにいくのを待っていたように、ばたんと、なにかが落ちる音がした。立ち上がり、キッチンに行ってみると、買い置きのクッキーの箱が床にあった。それ以外何も変わった様子はない。明日ひかりがお友達のうちの呼ばれているので、手土産に持っていくのを忘れないよう、あえて棚にしまわずに電子レンジの上の目に付くところにおいておいたものだ。平らなところに四角い箱。別に不安定なおき方をしたわけでもないのに、なんで落ちたんだろう。　　胸騒ぎをおぼえながらも、望はダイニングに戻って、家計簿の記入を続ける。食費の計算は間違いなし。物価が安いC国ではあるが、家族の好みと健康を考え、できるだけ日本にいたととかわらない食生活を駐在員が続けるとなると、割高な輸入品や高級食材をたくさん買うことになり、食費は結構かかるようだ。来月からちょっと注意しよう…そんなことを考えながら家計簿を閉じようとしたとき、かすかな何かが聞こえた。　　　ヒタ…　　　ヒタ…　　廊下の端から…足音？望は心臓に何かが突き刺さったような気がした。反射的に奥が暗くて何も見えない廊下のほうに目をやる。見たくないけど、目が離せない。胸の鼓動が早くなっているのが自分でもわかる。　　ヒタ……ヒタ……、ヒタ…ヒタ…、ヒタヒタヒタ！ヒタ！ヒタ！　　だんだん早くなる足音とともに望の鼓動も早くなる。そして、望の目の前に現れたのは現れたのはホラー映画で見たまんまの、長い前髪を前にたらした白いワンピースの少女……望は悲鳴にもならない声をのどから出した。「ひいっ…」　　まっすぐにこちらに向かって来るその少女は…って、自分の子どもじゃん。　　寝ぼけて起きてきたわが娘であった。白いトップス丈の長いパジャマを着た娘のひかりは、目が半開きで、のばしかけの前髪が顔にかかって人相が変わっている。絵に描いたようなホラー映画のキャラ風だ。　　しかし、タイミングが悪かったとはいえ、子供部屋の方向から足音がきこえてきたら、ひかりに決まってるではないか。広い静まりかえった家で、怖い思いをしていたからといって、何を考えているんだか。望はいまだに早鐘を打っている心臓を感じながら苦笑いする。｢ママ、おのどかわいたあ。｣｢はいはい、お水飲んで寝なさい。明日は、ゆまちゃんのおうちによばれてるんだから…｣ひかりの顔にまとわりつく髪を掻き揚げてやると、そこにはいつものぷっくらとしたほっぺがあって、眠そうな目がしょぼしょぼしている。ばかねえ、こんなかわいい幽霊いないわよ。　　数分後、ひかりを寝室まで送っていった望は、まだ11時と早かったのだが、自分もそろそろ寝ることにした。これから一人で起きていることを考えると、どういうわけか、心がまだざわざわした。「ばかねえ。」　　望は声に出して一人ごちて、不安な気持ちを無理に振り払った。自分の娘を幽霊かと思うなんてばかげてる。けれどまあ、親の自分が言うのもなんだが、ひかりは美形だから幽霊役が似合うのよ。これがおへちゃさんだったら、笑いが取れちゃうもの。でも、あの白いワンピース風パジャマはホラーな雰囲気にはまりすぎ。明日の晩は、シナモンのついたピンクのパジャマを着させよう。　　それから数日、出張から帰ってこない夫を待ちながら望は早寝早起きをしてすごした。あの晩、何もなかったといえば何もなかったのだが、なぜか夜遅くまで一人でおきていたくない。疲れたとか、目の下のクマが取りれないとか、なんだ間だと理由をつけては、早寝をして夜の静まり返った我が家で一人っきりになることを避けた。（つづく…）

  2010年09月26日

  コメント(1)

• （4）贅沢な悩み

  Ｃ国Ｑ市に駐在する日本人駐在員の集まる駐在員団地で奥様たちが繰り広げるオムニバス物語。フツーな人がいないといわれるＧＯＧＯ団地。人の多く住まうところ、愛あり、憎しみあり、噂あり。駐妻の秘密の花園。ＧＯＧＯ花園って何？って方は、第一回のコチラからこの章をはじめから読むにはココ　○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●　呪われた館の望さんの巻（４）贅沢な悩み　　しかし、自分の牙城であるはずの我が家がなぜか好きになれない。、日本にいた時は85平米だった我が家が急に160平米になって、初めこそ無邪気に喜んでいた望であったが、６月半ばになって日本からの船便がつき、引越しごたごたが再燃しだすとため息をつき出した。今度の家は広くて、掃除や片づけが大変で、何をどこにしまったのかすぐわからなくなる。　　山積みのダンボールを少しでも早く片付けようとはりきって、大急ぎで家中のものをしまったのが裏目に出た。片づけが終わって数日後から、ああ、あればダンボールから出してどこかにしまったけど果たしてどこだったろうか、と探し物が始まった。最近毎日何かしら探し物をしている。もう一週間にわたって、見つからないものさえある。　　とにかくこの家は、広いだけで、というか広いだけにというべきか、収納などが機能的に作られているわけではない。キッチンの戸棚も寝室のクローゼットも以外に物が入らない。今まで日本の家で一箇所に収まっていたものを二箇所に分けてしまう羽目になったりして、余計にわけがわからない。　　さらに家のつくりが問題だ。上下に反転させたL字型を二つ組み合わせたような複雑な形で、部屋の展開が入り組んでいる。玄関を開けてすぐ家中が見渡せないところは好きではあるのだが、、空間に連続性がなくて、気配が伝わらない。面積自体が望にとっては確かに広いのだが、この家はなんというか、自分のリーチの届かない範囲がとっても大きい。この感覚は何だ？ひげを切られた猫とか、触角の折れてしまったゴキブリ？「ママ、何処にいるの？」「ここよ。」「ここってどこ？」ひかりがよく声をはりあげて探している。　　ひとりになると、望はこれまでに住んでいた家を思い出す。浩二と結婚してから住まいを3度替えた。結婚してすぐに入った北区の社宅、結婚の翌年生まれたひかりが3歳まで過ごした。その後、練馬の分譲マンションに移って4年…。　　ああ、越してくるまで住んでいた練馬のマンションが懐かしい。迷いに迷った末、浩二の両親の頭金を出してもっらってローンを組んで買ったマンション。望にとって我が家とは、あの北東京のマンションだ。委託会社に頼んで賃貸に出すつもりだが、借り手がつくのだろうか？。収入が増えるので借り手がついてほしいとなどと思っていたけど、花園４０４号室にまったく我が家という気持ちがもてない今となっては、あの我が家には他人に使われないままでいてほしい。　　練馬の前の住まいの前の、北区の社宅は狭かった狭くて古かった。そのころの夫は長期の出張に行っていて、赤ん坊だったひかりと、望はその家でいつも二人きりだった。築30年の社宅のマンションは、収納といえば押入れと台所の戸棚くらいしかなくて、リフォームでも隠せない古臭さがあった。でも、台所にたっていても、洗濯物を干していても、あちこちに這いずり回ってはいたずらするひかりにいつでも目が届いた。週7日、24時間親子二人だけの生活をすっぽり包んだ38平米。あれはあれで快適な住まいであった。　　それにしても、広くて不便だ、などというのは、自分の口から出たとは考えられないくらい我侭な意見だ。そんなことぐらい望にもはわかっている。望みだって広いか狭いかどっちがいいかといわれれば広いほうを選ぶ。いつも相談に乗ってくれる姉は、エリート広告マンの義兄の都会志向から、マンション選びはあくまで立地にこだわって、便利はいいが手狭な７０平米で三人の子供たちと暮らしている。あのエリートの義兄の収入をもってしても、東京中心ではそれが精一杯なのだ。広くて不満、なんて口が裂けても姉には言えない。　　広くて嫌だは贅沢だとしても、やっぱり練馬のあの家が懐かしい、北区の社宅も懐かしい。このうちは何かが違う。家族の温度しみこまない。（つづく…）怪談になってない？でも次回は…呪いの館についにでるか？

  2010年09月23日

  コメント(0)

• （3）新生活

  Ｃ国Ｑ市に駐在する日本人駐在員の集まる駐在員団地で奥様たちが繰り広げるオムニバス物語。フツーな人がいないといわれるＧＯＧＯ団地。人の多く住まうところ、愛あり、憎しみあり、噂あり。駐妻の秘密の花園。ＧＯＧＯ花園って何？って方は、第一回のコチラからこの章をはじめから読むにはココまた楽天パスワードを失念しまして、金曜日更新のつもりが遅くなってしまいました。…２日たっても思い出せなかったので再設定。何回も忘れて再設定を繰り返しているので、限られた想像力の中そろそろ最初のパスワードに戻ったころかも。　○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●呪われた館の望さんの巻　（３）新生活　　初日の胸が押しつぶされそうな不安感とは裏腹に、望の新生活はわりと順調に滑り出した。引越してきた翌日にひかりを公園に連れて行ったら、同じくらいの年の男の子を持つ、メイリーという台湾人のママに日本語で声をかけらた。彼女の独特なアクセントに戸惑いながらも話をしていると、知り合いだという日本人の奥さんを紹介してくれるという。「兵頭さんていうんだけど、すこく、いい人で、頭も切れるの。Q市のこといろいろ教わったらいい思う。」　　兵頭さんというその奥さんには週のうちに会うことができた。ご主人が台湾人だそうで、C国語ができるので何かあったらなんでもおっしゃってね。といってその場で携帯の番号を渡してくれた。以来、何かと望に声をかけては買い物だの、お茶だのに誘ってくれる。さばさばしててとてもいい人なのだが、メイリーの言うとおり頭の回転が速くて、その速さゆえか、ものすごい早口で、望は時々ついていかれなくなる。　　そして、ひかりが日本語幼稚園に通いだしてからは、もっと知り合いも増えた。バスストップにおずおずと現れた新参者の親子に、ほかの園ママたちはおおむね好意的で、新入りに必要な手助けやアドバイスを、恩に着せることなくしてくれる。ひかりも、幼稚園でお友達があっという間にできて楽しそうに通っている。担任の大久保先生はたよりになりそうないい先生で、連絡帳の表記も細やかでかゆいところに手が届く。みんな人の出入りに慣れているのだ。　　まあ、順調といっていいQ市での新生活が、うまくいかない面もあった。家の中でどうも落ち着けないのだ。引越しから、３週間、夫の言っていたとおりに雨季が明け、ものすごい暑さがやってきた。到着した日に空港から一歩出たとき、温室の中にいるような温度と湿気に驚いたが、雨季が終わってからは、気温が一段と上がって屋外には長いこといられない。まだ五月の末だというのに、日本の真夏以上の暑さだ。　　普段の幼稚園を中心とした生活はうまくいっているひかりであったが、GOGO花園の外に出ることをあまり好まない。初日のあの、強烈な匂いの物売りの体験以来匂いに敏感になってしまい、花園から出るたびに、街中でちょっとでも何かの匂いが鼻につくと臭い臭いと大騒ぎする。乗ったタクシーがタバコ臭かったときなど走り出したとたん、えずきだして途中下車したこともある。大人は臭いものをかいだとき反射的に，鼻呼吸を控えめにしたり、匂いから意識をはずそうとするが、子どもにはどうもそれができないようで、ひかりは臭さを思いっきり味わってしまうようだ。「臭い、臭い、と思うからもっと臭いのよ。臭いときは、何が臭いんだろうとか、何の匂いだろうとか考えずに、手で鼻をつまんで早歩きして逃げなさい。」　　望はでかけるたびに大騒ぎを始めるひかりにいらしてそう言ってしまうのだが、正直ひかりの気持ちがよくわかる。まったく、どうして、どこもかしこもこう臭いんだろう。　　初日の感銘は薄れつつあるが、豪豪花園は、きれいに整備されている問いってよい。しかし、外に一歩出てしまえば、Q市はまだまだ発展途上国の町だった。どこもかしこもは埃っぽく、街角の公共のゴミ箱は、何を捨てたら一体あんなになるんだろうと思うほど汚れがこびりついていて、猛暑の中異臭をはなつ。ごみを捨てに近づくのもいやなほどだ。バス停の横には、植え込みがあり鮮やかな色の花の咲いた花壇があるのだが、そこはバスを待つ人たちによって勝手に公共のゴミ箱化されていたりして、見るに耐えない。もちろん怪しい匂いが漂っている。結局はQ市は望の思い描いていたC国とそうは遠くないものなのだった。どうやら快適な暮らしがおくれそうなのは自宅のある花園の中限定のようだ。(つづく）

  2010年09月19日

  コメント(0)

• （２）暗雲立ち込める

  Ｃ国Ｑ市に駐在する日本人駐在員の集まる駐在員団地で奥様たちが繰り広げるオムニバス物語。フツーな人がいないといわれるＧＯＧＯ団地。人の多く住まうところ、愛あり、憎しみあり、噂あり。駐妻の秘密の花園。ＧＯＧＯ花園って何？って方は、第一回のコチラからこの章をはじめから読むにはココ　○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●（２）暗雲立ち込める　　望がQ市にはじめて着いたその日、空港から一歩出た時点ですでに空には重く雲が立ち込めていた。そして、吉田一家を乗せた車が市街にはいると、空は急に暗くなった。上空の灰色がかった雲は、車の進行方向の空によりいっそう濃く立ち込めていて、向こうに行くほど色が濃くなっている。吉田一家が花園に着いたときには、南カリフォルニア風の白亜のマンション群はすっぽりと鉛色の雲に覆われていた。　　金色の飾りのついた豪華な門と、物々しい制服を着たガードマンが敬礼で通してくれる門を通ると、写真で見たとおりの花壇の花々がある。マンションも浩二が撮ってきた写真に劣ることなく立派なものなのだが、天気のせいか、陰気な感じが漂っている。　　期待通りの退きたいどおりの立派なマンションの敷地内に入っても、望みの心は浮き立つことはなかった。旅の疲れだろうか。車の中には、さっき繁華街を通ったとき屋台で何かを揚げて売るもの売り見たさにものめずらしさに駆られて車のドアを開けたときに入ってきたものすごい異臭がまだ漂っている。超濃厚なドックフードのような匂いがしたけれど、厚揚げのように見えたあれは、いったいなんだったんだろう。あんなもの道端で売って、苦情が出ないのだろうか？　　臭い、臭いと大騒ぎして、さっきまで車内でえずいていた娘のひかりに向かって、望は口では「ここがひかりちゃんとパパとママの新しいおうちだよ～。綺麗だねえ、お花が咲いてるねえ。ほら公園もあって一杯遊べるよ。」　　などといってみるのだが、その声に覇気がないのが自分でもわかる。頭上の空は一段と暗くなってきて、望はなんだか暗雲に迎えられたような気がして急に不安な気持ちになった。　　我が家となる９号棟の４０４号室に着いても気持ちは晴れなかった。部屋番号までは夫から聞かされていなかったが、ドアにかかったルームナンバーを見て、望みは思わず眉根を寄せた。４が二つもある。縁起の悪い数字。そう言いかけたが、口をつぐんだ。娘のひかりもそばにいるし、言ったとてどうにもならない。　　家の中は暗かった。夫に聞いてみるとリビングのメインの窓は北に面しているらしい。重く垂れ下がった暗い空に、北向きの家。電気をつけても、白熱灯なので、ぱっと明るい感じがしない。まだ３時半だというのに夕方のようだ。「北向かあ、暗いわねえ。」　　今度は思わず口から出てしまった望の言葉のトーンに、失望を感じた浩二は明るい調子で答えた。「でもこれが良いそうだよ。もうすぐしたら、梅雨って言っていいのかな、こっちの雨期が終わって、ものすごく暑くなるんだって。で、晴れるとホント暑さが半端じゃないらしいから、南向きの家じゃやってらんないんだってよ。」「そうなの…。」納得のいってないトーンの望の返事にいらだったのか、夫は半ばむきになったように、会社で聞いてきた知り合いの例を挙げて説明する。「Sさんってひとの家はここの南東向きのマンションなんだけど、６月にもなるとあまりの暑さに、南向きに大きくガラス窓がある部屋のカーテンをを締め切って決してあけないんだって。で、その部屋から東向きのリビングにつながるドアも、本当は開けておきたいのだけど、夏中は締め切り。だって、熱気が入ってきちゃうからね。南向きの部屋は書斎だったんだけど、コンピューターが壊れるかもしれないから、運び出したんだってよ。」　　まあそうなのかな。望はあいまいにうなずいた。所変われば気候も変わって、南向きの家がいいというのばかりじゃないというのは分かる気もするけど、ヤッパリ家の中は明るいほうが言い。でも、今の自分にはほかに選択肢がないのだ。私たちは今日からここに住むのだから。（つづく）

  2010年09月10日

  コメント(0)

• （１）超バタバタな引越し

  Ｃ国Ｑ市に駐在する日本人駐在員の集まる駐在員団地で奥様たちが繰り広げるオムニバス物語。フツーな人がいないといわれるＧＯＧＯ団地。人の多く住まうところ、愛あり、憎しみあり、噂あり。駐妻の秘密の花園。ＧＯＧＯ花園って何？って方は、第一回のコチラから　○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●夏の夜の怪談　のろわれた館の望さんの巻（１）超バタバタな引越し　　吉田望と吉田浩二の夫婦がGOGO花園に入居したのは季節外れの５月であった。今回の赴任は内示を受けてから辞令まで2週間、辞令から引越しまで10日間という非常にめまぐるしいスケジュールであった。夫の浩二から海外転任の可能性をことあるごとに聞かされていた望にとっては、青天の霹靂とまでではなかったが、いつかは来るとは思っていた客が、ついに来ると聞かされた瞬間に玄関のチャイムが鳴り、玄関に走っていってみると客はすでに上がり框に腰掛けていたようなもので、十分に驚いた。それにしても時間がない。吉田家初の海外赴任は3年間住んだ東京郊外のマンションを引き払ったり、望に戸惑ったり、別れを惜しんだり、期待に胸を膨らませたりという余裕をまったく与えないまま進んでいった。　　幸いなことに住むところはすぐに決まった。去年から出張で何度もQ市に行った事のある夫が、引越しの直前一週間前にQ市に出張した際に、会社が利用している不動産屋を介して見つけてきのが豪豪花園であった。住居環境が整っていて、自家用の車がなくても不便のない、市の中心部へのアクセスも整った市内随一の優良物件と浩二は得意そうに言うのだが、Q市のことは何も分からない望にはただ黙ってうなずく事しかできなかった。　　しかし、夫の撮ってきた何枚かの写真は、望を安心させた。なるほど、十級環境は整っている。オレンジの瓦風の屋根のついた白壁のマンションは南カリフォリニア風だそうだ。敷地内に公園もあり、５歳の娘のひかりも喜ぶだろう。いたるところにある花壇が綺麗に手入れされていて色とりどりの花で埋まっている。花壇の後ろには背の高い木が何本も青々と葉を茂らせている。C国に行くことになって、今まで持っていた発展途上国というイメージからどんな生活になるのかとびくびくしていたのだが、住居環境は日本よりずっといいではないか。日本人幼稚園への送迎バスが発着して、雇いたければ、メイドが時給二、三百百円で雇えるという。　　さらに望は、日本にいたときに比べマンションのの面積が2倍になることを聞いて喜んだ。家賃は、もちろん会社負担。聞いてみると家賃も結構高い。実際の家賃として支払われる家賃では東京では到底同程度の物件は借りられないが、中堅サラリーマンの30代の夫が家賃としてほいほい払えるような額ではない。　　引越しの件が浮上して以来、忙しく準備に走り回りながら、息継ぎでもするように、何かにつけて電話をしては愚痴を聞いてもらっている姉はそれを聞いてこういった。「そうなのよ。発展途上国に赴任するメリットはそれ。一般の人たちの生活水準が低いから、駐在員とかの外国人用に作られた施設が整っていて豪華なのよ。大変かもしれないけど、おいしいことだってあるんだから、浩二さんの出世のためにもがんばってきなさいよ。」　　とりあえず会社もちで広い家に住める。夢の海外駐在生活の第一歩はクリアかも、吉田望は引越しのごたごたの中で始めて明るい気持ちになった。（つづく）

  2010年09月06日

  コメント(0)

全12件 (12件中 1-12件目)

1