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株式会社SEES.ii

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2017.10.04
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ss一覧   短編01   短編02   ​短編03

―――――

 10月8日。午前11時30分――。
 永里ユウリの執拗な食事への誘いに、岩渕誠はついに根負けし、しかたなく頷いた。
「嬉しいっ!」
 女は本当に幼い子供のような仕草で両手を合わせ、ドクターチェアから立ち上がった。
「……どこか行くのか?」
「ええ。この近くにはカフェがたくさんありますから。……岩渕さんは何か好き嫌いはあり
ますか?」
「いや……永里先生と同じでいいよ」
「そう? それじゃ、歩いて行きましょう。すぐ近くのイタリアンの店で、パスタがとても
美味しいんですよ」
 そう言うと永里はデスクの上の電話で事務員に外出すると伝え、自分は「ちょっとお化粧を
直してきますから、外で待っていてください」と言って診察室を出て行った。

《ユウリクリニック》の駐車場の前で永里を待つ間、岩渕は携帯から《D》名駅前支店に
電話を入れ、少しだけ遅れると言っておいた。《D》への電話を切り、肩の凝りをほぐし
ながら――クリニックの自動ドアを抜け、軽快な足取りで自身に近づく永里を遠目に眺める。
 エルメスのクロコダイル・バーキンが目につく。……査定なら1000万、てところか?
岩渕は思った。だが、それだけだった。それを当然のごとく腕に下げる永里ユウリやその
家族を羨ましいとは思わなかった。


「ふふっ、岩渕さんとこうしてお食事できるなんて、初めてですよね」
 嬉しそうにそう言いながら永里は、たった今店員が運んで来たミネラルウォーターの
注がれたグラスを手に取り、乾杯する仕草を見せた。手首にはめられた腕時計がキラリと
輝く。特徴的なローマ数字の文字盤……カルティエか。……たぶん、これも500万はする
だろうな、と思った。
「本当だな。外で会うのも、何だか変な感じがする」
 いつの間にか来た店員がパスタの皿を岩渕の前に置く。食べ慣れた味、ナポリタンだ。
「あっ、どうぞ。先に召し上がってください」
「……それじゃ、いただきます」
 1分ほど遅れて来た――永里の前に置かれたパスタの皿からは、酸味の強いトマトソースと
魚介の香りが空気の流れに乗って漂った。
「……ペスカトーレも美味そうだな」
「はい。元々は漁師さんたちの考案でその後イタリア全土に調理法が広まったとか……。
このお店のも、とっても美味しいですよ」
「先生は料理に詳しいんだな」
「いいえ全然。ただ――自宅で調理をしたり、レシピを考えるのは好きですよ」
「そういう趣味って……何かいいな。羨ましいよ」
 それは本当だった。今の岩渕には趣味を楽しむ時間などなかった。
「実を言うと私、昔、料理研究家になりたかったんですよ。……学生のころの話ですけどね」
 ムール貝の身をフォークで突き刺しながら永里が微笑んだ。
「……今からでも遅くはないんじゃないか?」
「今からって……? うーん……無理ですね。私に、料理の才能はなかったみたい」
 岩渕は無言で頷くと、ミネラルウォーターを一口飲んだ。
「……岩渕さんは、どうして《D》に入社を?」
 永里は顔を上げ、岩渕の目を見つめて聞いた。
「……俺は、偶然だよ。たまたま会ったウチの社長に、たまたま試験を受けさせられて、
たまたま――……」
 そこまで言って岩渕は少し言いよどんだ。それから、つとめてさりげなく、「『合格だ。
明日からウチに来て働け』って言われただけだよ」と続けた。
「試験?」
 永里がいぶかしげに岩渕を見つめた。「試験って、何をするんですか?」
「……あくまで俺の場合だが、30種類の金・化合金・プラチナ・レアメタルの塊を高額順に
並べて当てろっ……ていう試験だったな……」
 ナポリタンをフォークに絡ませながら岩渕は言った。
「見ただけで? 随分とムチャクチャな試験ですね……」
 岩渕は無言でナポリタンを口に運んだ。スピーカーから流れるジャズ・ピアノの軽快な
音色が広い店内を満たしていた。
「でも、結果的に、岩渕さんには才能があった……という事ですよね?」
 永里がさらに言い、岩渕は皿から顔を上げた。
「……才能なんて関係ないよ」
 永里の目を見つめ返し、自分自身に言い聞かせるかのように岩渕は言った。「後で聞いた
話だと、俺は合格ギリギリのラインだったらしい……それでも……そんな俺でも、それなりの
役職と報酬をもらっている……。現に、そのテストで満点近い得点を出したヤツらがいるにも
かかわらず、だ。……要は、《D》のために何ができるのか? ていう面接みたいなことを、
社長はしていたのかもしれない……。こんなことを考えるのは、本当――最近だけどな」
 向かいの席に座る永里は「ふぅん」と言って微笑んだ。「それにしても、その試験で満点に
近い得点て、すごいですよね……」
「ああ……本当だよ」
 岩渕は頷き、困ったように笑った。
「それじゃ、そのエリート社員さんたちは……今はどういう役職を?」
 永里の質問に岩渕は少しだけ考え、それから言った。
「……俺が知っているのはふたりだけだが――ひとりは、川澄って後輩で……こいつは、
まぁ、どうでもいいか。……もうひとりは丸山って女の子の後輩で、彼女は今度――……」

「そう、なんですか…………」
 話を聞く永里もまた――頷き、困ったように笑った。
 
―――――

 遅い昼食を済ませた伏見宮京子は、リビングのソファで脚を伸ばしてまどろみかけていた。
正面ではテレビが古いドラマを再放送しており、眠くなる内容にうとうととしていた。その
心地よいまどろみの中で京子は――
 ――突然画面が切り替わり、メ~テレの報道局のスタジオでアナウンサーが『たった今、
大変なニュースが入りました』と言うのを聞いた。
 慌てて目を見開いて画面を凝視する。アナウンサーの背後がひどくざわついているのが
わかる。スタッフがアナウンサーに紙片を渡し、アナウンサーが強ばった顔でそれを読む。

『つい先程、愛知県名古屋市千種区、イオン今池店の店内で非常に大きな爆発がありました。
この爆発によって多数の死傷者が出ている模様です……』

 京子は瞬きもせずテレビの液晶を見つめた。全身から血の気が引いていく。
 ……何が? ……どうして?
 得体の知れぬ恐怖に京子は身震いした。


『イオン今池で大爆発』
『死者30人以上、ケガ人100人以上、行方不明者多数』

 どのチャンネルもイオン今池の爆発現場からの中継を放送している。爆発で倒れ担架で
救急車に運ばれる女性、その背後で泣き叫ぶ子供のものらしき悲鳴や絶叫や嗚咽、駐車場で
うずくまる男性や、呆然と立ち尽くす老人の姿が映る。けたたましいサイレンの中で走り
回る消防署員や、顔を真っ黒にした警察官の姿もあった……。

 あまりにも凄惨で、あまりにも悲惨な映像に、京子は呻いた。自分の心臓が破裂しそうな
ほどに高鳴っているのを感じ、すぐにでも号泣してしまいそうになる。けれど、京子は涙を
流して心を落ち着かせるようなことはしなかった。ただ、目元に溜まった涙を指ではじき
飛ばしただけだった。

 事件か事故かもわからない大惨事――。
 ――……だが、京子はそこに存在する、おぞましい悪魔の意志を感じた。悪意と狂気に
染まった人間の影を――それは、確かに、そこに感じられた。

「……卑怯者め」
 京子は口内に血が滲むほどに奥歯を噛み締め、テレビの液晶を睨みつけ――呟いた。


―――――

 佐々木亮介はアパートに戻っていた。今日は朝からずっと、噴き出した脂汗で掌はひどく
ベタついていた。けれど、もう脚は震えていなかったし、心臓の鼓動にも異変はなかった。
 ……やったぞっ! ……俺はついに、奪い返したっ。
 気がつくと、亮介の胸の中には不思議な高揚感が湧き上がっていた。自分が神様にでも
なったような気分だった。
 何も入っていない空のスポーツバッグを床に投げ置くと、亮介は敷きっぱなしの布団の
上に腰を下ろした。そして、唇を舐めまわしながら、部屋の隅に置かれたアタッシュケース
を見つめた。
 ……アタッシュケース?
 いや……これは、爆弾なのだ。しかも……手榴弾や擲弾のような小規模な破壊のために
作られたモノじゃあない。亮介は考えて、考えて、すべてを必死になって、思い出そうした。 


 午後1時。イオン今池の1階のレストラン街の入口付近を、強烈な閃光と爆風が貫いた。
各施設のガラスは一瞬にして砕け散り、十字の通路は爆風に飲み込まれた。
 昼食の時間帯であり、レストランを営業する店舗では多くの食事客を迎えていた最中での
ことだった。通路を歩いていた買い物客はもちろん、ケンタッキーやマクドナルドで順番
待ちをしていた客も、レストランで必死になって働く従業員も、トイレに入ろうと通路に
向かうイオンの社員も――そのほとんどの者が死傷した。
 爆風が過ぎた通路には黒い煙が充満し、無数のガラス片が床一面を埋め尽くし、その隙間を
縫うように様々なモノが散乱していた。……真っ二つに割れた『イオン今池へようこそ』と
印字された案内板、床や天井のガレキ、壊れたイスやテーブルやソファ、やぶれたり千切れ
たりした紙幣、中身をぶちまけたガチャガチャの機械、食器やパソコンやタバコや帽子や財布や
下着や本やペットボトルや野菜――……。
 ――……そしてもはや、誰のものかもわからない、人間の血や腕や脚や内臓が、そこら中に、
そこらに転がる石ころのように――辺り一面に広がっていた。


 ……掃除が大変そうだな。……業者にでも頼むのかな?
 脳裏に深く刻み込んだ光景を思い出しながらも、亮介はそんなことを考えていた。
 依頼された住宅に赴き、掃除機をかけ、トイレと浴室とエアコンを清掃し、窓のガラスを
入念に磨き、床にワックスをかけて拭き掃除し……残された大量のゴミを処分する――
それが、先々月まで亮介がさせられていた仕事のすべてだった。

 なおも唇を舐めまわしながら、亮介は自分が置き捨てた爆弾によって死んだ人々の群像を
思い浮かべた。
 ……ああっ……爆発する直前、みんな、幸せそうだったなぁ……。
 哀れむ気持ちはまったく湧いてこなかった。もしかすると、アイツらが俺の幸せを奪った
犯人なのかもしれなかったから。もしも、アイツらが存在しなければ、アイツらの幸せは俺の
ところに来ていたのかもしれなかったから。
 ……壊れてんなぁ、俺。
 壊れていた。心はすでに粉々に砕け散っていた。それを、亮介は知っていた。

 ……次はどこにしよう? ミッドランドスクエア? グローバルゲート? 熱田神宮?
 心が壊れ、暗い喜びに精神が完全に支配され――そして、決意する。
 ……どいつもこいつも、自分と同じ境遇にしてやる……どいつもこいつも、地獄への
道連れにしてやる……。
「……どいつも、こいつも、ぶっ殺してやる」
 そう呟きながら、ふと、もう一度、部屋の隅に置かれたアタッシュケースに目をやる。

 ケースはまだ3つ残っている……。

―――――

 『激昂するD!』 cに続きます。

 









                        本日のオススメコーナー!!!
    こういうヒト大好き……→​​​​大森靖子/「絶対絶望絶好調」
      ブチギレ事件?……→​大森靖子/「音楽を捨てよ、そして音楽へ」
      理解不能の名曲……→​​大森靖子/「非国民的ヒーロー feat.の子(神聖かまってちゃん)」
    

 大森靖子さん↑
 ……脳内で何回も浮かぶメロディ、圧倒的ビジュアルと超個性的歌詞。うん。天才さんですね。
……あの事件で興味を引かれ、試しに動画見たら……そらスゲーパワーを感じましたわ。知るのが
遅いくらいでしたね。個性的な歌詞とは裏腹に、音楽業界に対しての意識が高く、レーベル批判や
他バンドへのダメ出しも平然とする人。女性では本当にいないタイプ。一度は聞いてみては?
 ちなみに愛知県松山出身。
 そして武蔵野美大出身(seesの姉が行ってた大学。ハチミツとクローバーの聖地)。既婚。一子。
 う~ん……素晴らしいっ!




 お疲れサマです。seesです♪ 
 聡明な方なら、今後の展開がまるっと予想できてしまうような内容に、少々気落ち。己の
才能の無さを露呈する今話とあいなりまして候。aパートでは数々の誤字が目立ち、翌日含め
何度も修正を繰り返す愚かさ……う~ん、反省ばっかやな。
『D』では人物たちに固有名詞をフることに決断しましたが――作り慣れない文節が多々
あると考えます……平にご容赦を<(_ _)>
 話の筋は次回から急展開させる予定です。タイトル『激昂~』に恥じぬ内容が届けられる
と嬉しいスけどね……。
 
 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし
ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。
 seesより、愛を込めて🎵
   



↓大森靖子さんのオススメ。
   
 
こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。

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 好評?のオマケショート 『……いや、あのさ』

後輩   「sees先輩。確か二輪免許、持ってましたよね?」
sees   「……お、おう」
後輩   「俺、CBR買ったんすよー。今度、どっか温泉にでもツーリングしません?」
      そう。陽キャラの後輩を多数持つseesは困っていた。……とても、困っていた。

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後輩   「1000っス! (^_-)-☆ドャャ……」
sees   「……………すごいね😊」
後輩   「いや~新型っすよ~(^^♪。テヘヘ……」
sees   「……値段は?」
後輩   「240万、くらいスかね」
sees   「……へええ~(240? ワシの車と……いやいや、さすがに盛りすぎじゃろ)」
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      その時――
      どこからともなく――
      妙なヤツが何人も現れた……――
後輩2   「行く行くー…俺もニンジャ乗りたくなってきたしぃー(^^)/」
後輩3   「ボクもバイク持ってますよ~~。古いシャドウですけどね~…(^^)/」
先輩A     「いいねー。俺も行きたいなー。俺のは、ドゥカティだけどな(^^)/エッヘン!!」
後輩たち   「うわ――っ、A先輩っ、外車乗ってんスか~wwww」
      ………
      ………seesは黙った。黙るしか、なかった。
      ………そして――、
後輩    「……でー……sees先輩、何乗ってんすか? 行きましょうよー先輩っ!」
sees    「……いや、あのさ――今日、雨すごいね(*''▽'')テヘヘ 夜までに晴れるかな???」
 
      い゛――……。
      い゛……言えるわけない。今さら、言えるワケないじゃないか……。ワシは中型
      免許しかなく、しかも二輪で高速に乗ったこともない、そしてバイクはとっくの
      昔に売ってしまったという真実を💦……言えるワケない💦……どうしよう?💦
      ……どうすれば、いいのだぁァァ(>_<)!!!

                                   了🏍=c c





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Last updated  2017.10.05 09:42:11
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