蝶の毒、華の鎖 総評 (ネタバレなし)
主に購入を迷われている方向けのネタバレなし感想です。PC体験版を経て購入しました。気になる要素はあるけど大人向けにはちょっと抵抗があるという方へおすすめできます。©︎aromarie/PROTOTYPE【世界観】急速な近代化の中で混沌に染まった大正7年。没落しかかった華族令嬢のヒロインと、彼女を愛した5人の青年たちの物語。…という事で、舞台は大正・帝都。季節は夏スタートですが、ルートによって時間の進み方が様々です。ヒロインの誕生日を祝う夜会に起きた惨劇を機に物語が展開して行きます。【キャラクター、グラフィック】原作の乙女大人向け界隈で、ここまで美麗かつ匂い立つような雰囲気あるグラフィックの作品は珍しいのではないでしょうか。現在は入手困難品が多いものの、種々の描き下ろしを眺めていても美しいものばかり。初めてVFBが欲しくなったタイトルです。様々な構図のスチルがあり、デッサン崩れも気になりませんでしたしアラフォーのキャラがちゃんとアラフォーに見え、男性らしい逞しさもしっかり描かれています。CSではほとんどお目にかかれない、直視したくない程気持ち悪いサブキャラがしっかり気持ち悪い。笑古めのタイトルなので目パチ、口パクはなく立ち絵の服装差分も少なめですが表情は比較的多く用意されているので、プレイしているうちに慣れました。5人のメインキャラは公式が明言している通り、ヒロインを愛しているのが大前提なわけですが愛の形はそれぞれ異なり、属性の鉄板はそこそこ押さえていると思います。ただし、年下の攻略キャラはおりません。パケ絵のポジションが各々の性格属性、立場を忠実に表してるなと感じました。また、公式で堂々と『ヒロインの兄』として紹介されている攻略キャラがおりシナリオに関わる重要な要素が狭く限られた人間関係の中で構築されている=近親系のあれこれが多め。その辺りがOKであれば、絵が綺麗なのでとっつき易さはあると思います。ヒロインはデフォ名、呼びあり、CVなし、顔グラなし、スチルにはがっつり。年齢設定がありませんが、飲酒はしています。きちんとお嬢様言葉を喋ってはいるものの、深窓の令嬢らしからぬ活発で好奇心旺盛、はっきりとした性格。それでも蝶よ花よと愛られるのに相応しい容姿の持ち主であり、ある特殊な体質も持っている為、登場人物の1人として眺めて楽しめる人向けです。地の文が三人称なので、その辺りも加味。【シナリオ、糖度】没落華族に起こった悲劇から始まるストーリーですので、ほぼ一貫して非常にシリアスです。ルート分岐は比較的早いですが、中盤までは確定事項として降ってくる出来事があるので、そこに差分が挟まるシナリオ展開。以降は個別ルート特有の展開になっていき、各ルートで迎えられる幸せなエンディングは1つのみ。バッドエンドがルートにより1〜4もしくは5つ+エンディングリストに載らないゲームオーバー(終幕)あり。常に仄暗さが付き纏う独特の空気感があります。PC移植なので糖度に期待される方も多いかとは思いますが、差し替えやシーンカットでどうしてもブツ切れ感が強くドキッとした途端にさっと終わってしまうような場面が大半なので、過度な期待はしない方が賢明です。暗転+差し替えテキストで頑張ってフォローしようとしているのは伝わるのですが、没入しきれなかった印象が残りました。【攻略】 ・攻略制限メイン5人+ノーマルルートのうち、ノーマルと真島ルートに攻略制限があります。ノーマルルートは真島以外の4人いずれかのベストエンドを1つ迎えると解放。真島以外の4人+ノーマルルートのベストエンド読了で、真島のベストエンドフラグが立ちます。また、6ルート全てのベストエンド読了でおまけSSの1と3が解放。おまけSS1を読了で2が解放されます。 ・攻略推奨順おおむね一般的には斯波or藤田or秀雄→瑞人→ノーマル→真島が推奨されているようです。私は斯波→秀雄→藤田→瑞人→ノーマル→真島の順で攻略しました。前半推奨の3人はお好みで選んでいただいて良いと思いますが、個人的には秀雄→斯波→藤田→瑞人→ノーマル→真島がおすすめです。秀雄は選択肢が比較的分かりやすく、シナリオの雰囲気がバッド含め優しいので初手におすすめ。斯波はメインヒーローらしい王道感がありますが、可能ならバッドから先に見ていくとベストエンドの幸福度が爆上がりします。藤田は3人の中では好みが割れそうなのと、真相への踏み込みが一段階上かなと思うので3人目。瑞人は最初から攻略できますが、ネタバレ的な意味と分岐が多いのでノーマルの手前に置きました。ノーマルは真相解明ルートなので、解放されても4人の後に持って来た方が良いです。なお、真島はベストエンドフラグが立っていない状態でもバッドエンドは読了できます。キャラデザ等で気になると思われた場合は、最初or途中で凸してもネタバレにならない内容なので、あえて乗ってみてもいいと思います。【システム】ノベルゲームとして申し分ないのですが、スキップ速度の調整ができません。容赦ないスピードで流れていくので、周回しているうちに前半の出来事を忘れがちになり、バッド回収しているとどういう流れでそうなったのかがよく分からなくなったりしました。超個人的事情ですが。ブログ記事を書く為の振り返りプレイ時は、スキップ最低速度で読み流しながらが多いので…この仕様は少し悩ましかったです。愛キャッチはないもののセーブスロットが大量にあり、全ルートの全選択肢をセーブしてもまだまだ余るほどですので、手探りプレイやバッド回収が非常に楽でした。お気に入りのボイスを集めておけるシステムが搭載されています。しかし、シナリオ自体がそこまで長くない為、使用せずじまいでした。原作にはこのシステムを駆使して取っておきたいような甘々台詞があったりするのでしょうが…Switch版は回想やエンディングリストでほとんど事足りてしまう。前述の通りセーブスロットが大量なので、気に入ったシーンをセーブしておくにも全く困らない。その他、字体の変更や既読色の変更など細かいカスタムが可能です。【BGM、UIなど】OP曲が作品の世界観にぴったり、歌詞もまさにヒロインの心情そのまま。明るい、ほのぼのする場面はほとんどないので、BGMは昼ドラっぽいのが多いです。UIは至極シンプル。新しめのタイトルと比べてしまうと簡素そのものですが、分かりやすいので特に不便も不満もなし。【総評】一言で申し上げると原作のダイジェスト版。成人かつ動作環境があり抵抗のない方は、今作を購入するならPCリパッケージ版を購入する資金に充てられた方がよろしいのではないかと思いました。比較的安価な理由は、カットされた部分がそれだけ多い故なのかなと。PC体験版はオートで流して序盤20数分程度なのですが、その短い間にも差し替えられたテキストを見つけて驚きました。せっかく作り上げられた倒錯的な雰囲気までもが薄味になっているのは勿体無い。初めからCSで出ている、高糖度、ダーク、シリアス売りタイトルの方がブツ切れ感もありませんし差し替えorカットされたシーンや台詞、テキストにこそキャラ各々の魅力であったり、ヒロインとの関係性を表す要素引いては作品の世界観を盛り立てるあれこれが詰まっているとなると、肩透かしを通り越して残念です。とはいえ、原作はトラウマレベルの描写もそれなりにある模様ですので、絵や雰囲気に興味はあるけどあんまりハードなのはちょっと…という方には、気軽に手に取れる内容になっていると思います。プレイ時間もあまりかからないので、雰囲気とキャラが刺さればサクッと楽しめます。少々辛口気味でしたが、ベストエンドコンプで解放されるおまけSSは必見です。たった数分で、今作に出会えて良かった、チラ見せにモヤりながらコンプして良かったと思えるくらいには楽しめました。乙女大人界隈はほぼ絶滅状態なので、お布施を兼ねて新たな道へ踏み出そうかなと思わせてくれたタイトル。今作はアメリカン、原作はダブルエスプレッソだろうなと思っています。それに続編足したリパッケがラテかな。推しはなかなか甲乙つけ難いのですが、真島と斯波さんの人気には納得しました。ダブルエスプレッソラテを飲み干したらはっきりするかもしれませんが…現状では完全ノーマークだった藤田が最萌かも。変な扉開いちゃった。