清水港に来た男・・・(16)
次郎長は、おめえさんに・・・惚れましたよ次郎長をはじめ子分達が政吉を待っていました。政吉は、次郎長に真向からきりだします。政吉 「聞かせてくれ、次郎長。おめえは、佐幕に与するのか、それとも・・・」次郎長「ちょいと、待った。・・・どっちがいいかわりいか、俺のしったこっちゃ ねえ」政吉 「なにい」というと、政吉は刀を抜きます。それを見て子分達もドスを抜きますが、次郎長の「馬鹿野郎、刀を引け」との怒鳴ります。 そして、みんなに、こういうのです。次郎長「俺はな、この勤皇のお侍さんの、味方をするぜ」 次郎長がそういうと、子分達はドスをおさめました。その光景を目にし政吉がびっくりしていますと、次郎長が、政吉に、刀をおさめてくれるよう、促します。 じっと次郎長を見つめていた厳しい政吉の顔に笑みが浮かび、刀を鞘におさめます。 次郎長は「ありがとうござんす」というと、腰を下ろしあらたまって、政吉にこういいます。次郎長「次郎長は、おめえさんに・・・惚れましたよ。・・・東海道のことは、こ の次郎長にまかしておきなせい」政吉 「うん。・・・かたじけない」政吉の言葉に「へい」と返事をした次郎長は、立ち上がると外に待っていた者達に「野郎ども、出て来い」と声をかけました。「おう」という声がして、入って来たのは旅支度をした三下達でした。 これは・・・という表情で次郎長を見る政吉から視線を外す次郎長。六助や七助たちは、政吉のお供をして京で男らしい大喧嘩をさしてもらうというのです。「いけねえ、そいつはいけねえよ」と困り次郎長に助けを求める政吉に大笑いする次郎長。 次郎長「あはっはっはっは、さあ、次はお雪だ」政吉 「えっ?」 次郎長がお雪を呼びます。六助達は二人の仲を羨ましそうに見ています。 お雪の姿が見えると政吉も神妙な表情になりました。 お雪が政吉に呼びかけます。お雪「政吉・・・」政吉がお雪の方を向き、政吉「お雪さん・・・」といいますと、お雪は2、3歩近寄り、政吉にお雪「ごめんね、政吉と、もう一度だけ、呼んでみたかったの」 政吉は、じっとお雪を見つめます。そして、お雪の気持ちに、政吉「へい」と答え、深々と頭を下げます。 お雪が、お詫びのしるしと、政吉が京に上るために用意をした装束を差し出します。茶摘み娘達がチャッキリ節の歌を唄いながら茶摘みをしている茶畑のところに、侍の装いの政吉を先頭に、三度笠の装いの六助達が京へ向かって行きます。 娘達の唄声に合槌を入れながら、楽しそうに歩いていた政吉、チャッキリ節の”きやーるが鳴くんで雨ずらよ”という節に来たとき、政吉は清水に来たあの日を思い出したのでしょう。政吉「おれぃ・・・おう、(明るく笑い)あっはっはっはっ、・・・合羽を着ろい」みんなが何のことかと「えっ」というと、政吉「合羽を着るんだい」 の声で一斉に合羽を着て、走り出します。 おしまい。