ミーシャと呼ばれた男
メールマガジン「国際派日本人養成講座」3月12日号に、 中国の「密の罠」 ~ 上海領事・自殺事件 と題した論文が掲載されています。上海事件は日本の情報リテラシーに関する脆弱さを露呈した事件でしたが、他のメディアでは詳しく論じられていない部分、そのほか類似事件に関する記述もあり大変読み応えがあります。今時、あのような罠(ハニー・トラップ)に引っかかる国も日本ぐらいしかないんですが。。(以下引用 注は私が追記しました) 一国の中枢に潜り込んで、出世し、外国に機密を売ったり、場合によっては政策までねじ曲げてしまう人間を、イギリス情報部の言葉で「モグラ」と呼ぶ。(中略) 最近、公開された旧ソ連時代の公文書では、KGB史上、最も特筆されるべき「ハニー・トラップの成功事例」が明かされているが、それも日本外交官が「モグラ」となったケースであった。 「ミーシャ」というコード・ネームで呼ばれている、日本人外交官は1970年代にモスクワの日本大使館で、Aさんと同様、電信官を勤めていた。そして、ハニー・トラップに引っかかり、モスクワ時代にKGBに機密情報を流し続けた。 ミーシャは、その後、帰国して、本省で電信暗号関係のより重要なポストについた。KGB東京支局は、何人ものKGB部員を専属としてつけた。この頃には、ミーシャは大金を報酬として受け取り、積極的に情報提供を行うようになっていた。 東京の外務省本省と全世界の在外公館との文書が、全てKGB側に流れた。さらにミーシャは日本の暗号システムもKGBに知らせていた。ミーシャのもたらす情報は、常にクレムリンのトップまで報告されていた。特に重要なのは、ワシントンの日本大使館が本省に送ってくる情報で、アメリカ高官の情報や、米ソ関係、NATO関連の情報がソ連に漏れていた。(中略) 前述のレフチェンコ証言でKGBの東京支局は機能停止に陥ったが、ミーシャの存在は暴露されなかったので、闇から闇に葬られてしまった。今頃は、多額の退職金と年金を貰って、幸福な晩年を送っているかもしれない。 「モグラ」は現在の日本にも大量に生息しているようだ。 平成17(2003)年、中国のシドニー総領事館の一等書記官,(注 陳用林氏)がオーストラリアに亡命する事件が起きた。彼は日本国内にも現在1千人を優に超える中国のスパイが活動していると証言している。(注 彼の任務は、オーストラリア国内の反政府分子、特に「法輪功」の信者を監視、拉致、殺害する事である)また、ある外務省職員は匿名で次のような内部告発をしている。 彼が自殺したからこうして発覚したのですが、こういう「ハニー・トラップ」を受けている大使館員はけっこういると聞きます。氷山の一角なんです。何度も中国に勤務しているキャリアで工作を受けていると噂されている人はいます。でも外務省としては何も手を打っていない。ましてや、今回のことはノンキャリアの身に起こったことで、面倒くさいなくらいが、上の感覚じゃないんですか、正直なところ。 そういうことにたいして、チャイナ・スクールの若手やノン・チャイナスクールの人たち、われわれノンキャリアのなかには、猛烈な不満を持っている人たちが多いことは確かです。私だってそのうちの一人です。 いずれにせよ、早急に求められているのは、カンウンター・インテリジェンスのルール確立です。でなければ、自殺までした彼が浮かばれないと思います。 (引用終わり)ミーシャと呼ばれた男が、今ものうのうと生きていることを想像すると、激しい怒りを覚えます。また、こうしている間にも、国益が犯されているわけで、情報省の設立、スパイ防止法の制定も必要ですが、情報を漏らしても、自己申告すれば免責にするというルールを早急に作ってほしいものです。