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私の好きなバイオリン弾きの西垣恵弾さんのコラムで
西垣さんの友人ピアニストの方のことが書かれていました。
コンテストで日本一。 輝かしい経歴と約束された将来。 ところが、ある日突然、ピアノ演奏が出来なくなってしまい、 それでも彼はもう一度音楽科のある大学へ入学して一から学び直し、現在再びピアニストとして活動をされている、というもの。
技術だけでいえば、最盛期の演奏には及ばない。 でも、今の彼の演奏には、今の彼にしか出ない音がある。
そんな内容だったと思いますが、 とても私の心に残りました。 そしていつか、その演奏を聴いてみたいと思いました。
それから数日後のこと。 たまたまつけたラジオ番組の対談に耳を傾けると... それはどうやらピアニストの方のようで、
しかも
左手だけで演奏されているらしい。
もしや、これはあの西垣さんのお友だちでは?
...残念ながら別の方でした。
でも、その内容もまたとても印象的だったので、書いておきたいと思います。
そのピアニストの名前は 智内 威雄(ちない たけお)氏。(33歳)
東京音楽大学ピアノ演奏科を卒業後、 ドイツ・ハノーファー音楽大学に入学。 グリーグ国際コンクール入賞。 マルサラ国際コンクール3位入賞。
ところがその後、 留学中のドイツで局所性ジストニアにかかり、 右手が動かなくなってしまいます。
ピアノ一筋で生きてきた人が、 ある日突然片手が使えなくなってしまうなんて、 一体どんな思いだったでしょう?
その放送を聴きながら、 私はふと自分の息子ヒデキ(中1)のことを思いました。
例えばある日突然、 ヒデキが大きな怪我をして 半身不随や寝たきりになってしまったら? 大好きな柔道が二度と出来ない身体になったとしたら?
そんなことを思わず想像するわけです。
計り知れない絶望感に襲われるでしょう。
ところが智内氏は、 その後左手だけで演奏する曲の楽譜と出会います。
私はジストニアという病気を知りませんでしたが、 ピアニストの中には、たまにこの病気にかかる方があるようです。
恐らくは智内氏同様に右手が使えなくなってしまったピアニストの方が、左手だけで演奏するために作曲された曲があったのでしょう。 広く世に知られていない左手だけで演奏する曲が、実は何百曲もあったことを知った智内氏は、それから左手演奏の世界をひたむきに歩み始めます。 そして卒業試験の際には、左手のみで演奏した彼が、満場一致で最優秀成績を修めたそうです。
番組の途中で、彼の演奏曲が流れました。
ところが、実際に流れてきた曲は、
えっ
これ、両手で弾いてるでしょ?
という感じ。
ラジオで演奏も見えませんから、何も知らずに聴けば、普通に両手で弾いているとしか思えないようなものでした。
対談の中で、智内氏が今目指しているもの、やり遂げたいことなどが語られました。
「左手演奏」の楽譜には、今は上級レベルしかないのだそうです。 つまり、それまで本格的にピアノ演奏をしていた人たちが、途中から左手だけでの演奏を強いられて作曲したわけなので、技術的にもとても難しい曲ばかりが作られていて、いわゆる初級、中級レベルのものがないようです。
そこで智内氏は
「道を作りたいんです」
「スポーツでも何でも、何かを習うときには、初級から一歩ずつ進んでいきますね。
その道が、この左手の世界にはまだできていないんです。
後に続く人たちのために、その道を作れたらいいと思っています」
そうですね。 もしかしたら生まれつき右手が不自由な赤ちゃんがいるかもしれません。 そしてその赤ちゃんが、いつかピアノを弾きたいと思うかもしれませんね。
それは素晴らしい夢だと思います。
そして、こんな話もありました。
「よくコンサートに
"左手だけの演奏"
と聞いて、同情や興味本位で聴きにこられる方がいます」
それを聞いた私は、
(ああ、そういうのは嫌いなのね、きっと)
と思ったのですが、彼はこう続けました。
「それでいいんです。
きっかけなんて、 どんなことでも構いません。
とにかく足を運んで来て下さって、
演奏を聴いて
"ああ、聴けてよかった"
と思っていただけるなら、それで十分嬉しいんです」
そのことばに私は参りました。
最後に
「障害を持つ人たちへのアドバイスを」
と求められた智内氏。
「障害があると、そのために出来なくなることがあります。
でも逆に、出来ることもたくさんあります。
どうかそれを見つけて、諦めないで進んでください。
そうすれば自ずと自分の立ち位置や自分自身が見えてくるはずです」
応援したいアーティストがまた一人増えました。
智内 威雄氏のHPです。 (左手演奏の動画も見られます)
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