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大分長い間ブログを放置してしまいました。
もう誰も読んでくださっている人はいないでしょうが、皆様、お久しぶりです(と一応挨拶してみる)。 久しぶりに何か書き残したいと思ったのは、とても素晴らしいコンサートを聴く機会に恵まれたから。 日本ではすっかり有名人となった辻井伸行氏のリサイタルに行って来ました。 私が彼の名前を始めて目にしたのは、いつものようにインターネットでニュースを読んでいるとき、バン・クライバーンコンクールで日本人が初優勝したという記事でした。 その記事には辻井氏は全盲だということも記されており、とても驚きました。 音楽をかじっているものとして、楽譜を読めないコンテスタントがコンクールで優勝するということがいかに大変か、容易に想像できたからです。 その後、純粋な好奇心から彼のCDを注文して聴いてみました。 とても良い演奏でしたが、CDからは当然、録音された音そのものしか伝わってきません。 いつか彼の演奏を生で聴いてみたいものだと強く思いましたが、年に1~2回しか帰国しない私にとって、ちょうど日本にいる時期に聴きたいコンサートを聴きに行ける機会はまずありません。 そんなある日、偶然彼のドイツコンサートツアーのポスターを見かけ、早速その日の晩にインターネットでチケットを注文しました。 日本では既に彼のコンサートのチケットはとても入手困難だということですが、ヨーロッパではおそらくまだほぼ無名の彼。 既に公演1ヶ月ほど前でしたが、全く問題なく購入できました(その後、本公演のチケットは売り切れました)。 しかも、全席自由とはいえ、チケットは23ユーロと申し訳なるようなお買い得なお値段だったのです。 会場は意外にも小ホールで、彼の名前をどこかで見かけたことがあると思われる日本人の聴衆で埋まりました。 正直、心のどこかでは「全盲という分かりやすいハンディキャップのために過剰評価されている部分もあるのでは」と少しだけ思ったりもしていたのですが、そんな疑念は全くの杞憂でした。 彼の演奏を聴いた途端、彼の音の世界に直ぐに引き込まれ、とても幸せな気分に包まれました。 ピアノはいわゆる打楽器です。鍵盤をたたけば誰でも音が出せる。 それなのに、どうしてあんなに多彩な音色が奏でられるのか。 どうしてあんなに見事に強弱が付けられるのか。 同じ楽器なのに、他の人が弾いているときとは全然違うのです。 ただただ感嘆するばかりでした。 そして私が一番興味を持ち、そして不思議にも思ったのは、この豊かな表現力を彼がどうやって身につけたのかということです。 上手く説明できる自信が全くないのですが、とにかく感じた事を書いてみたいと思います。 普通、音楽(特に西洋音楽)というのは、まず楽譜ありきです。 たとえば、オーケストラの曲ではフルスコアという全てのパートが記載してある楽譜があり、指揮者はそれをひたすら読み込み、奏者に指示を出して自分の音楽を作り上げていくわけです。 私は指揮ができないので想像も出来ませんが、指揮者によってはフルスコアを見れば頭の中でその音楽(オケ)を鳴らせるといいます。 ところが、辻井氏の場合は生まれつき目が不自由だったといいます。 つまり、彼は楽譜というものを見たことなどないのです。 楽譜を見ないで、曲を勉強することは可能なのか?というのが先ず素朴な疑問。 おそらくは誰かが演奏したものを耳で聴いて、それを覚えていくのだろうと思うのですが、そうなるとどうしても演奏した人の癖、解釈なども一緒に取り込んでしまうことにならないのでしょうか? さらに、オケや吹奏楽の練習中、指揮者は奏者に自分の指示を分かりやすく伝えるため、絵画的なたとえを良く使います。 辻井氏の場合は生まれつき目が見えなかったのですから、こういう例えすらも分からないわけですよね。 今回のプログラムのメインは『展覧会の絵』だったのですが、これはその名の通り、展覧会で様々な絵画を見て周り、それぞれの印象を連ねた曲です。 たとえば「古城」という曲があり、私達はヨーロッパによくある石造りの大きくて古い要塞を想像しますが、辻井氏にとってはこれを視覚的にイメージすることは難しい、もしくは不可能ですよね。 楽譜も読めない、その曲のイメージするものを見ることもできない、というのは曲を理解する上で大きなハンディにならないのでしょうか? でも、逆に言うと、全盲というのは大きなアドバンテージになりうるのかなとも思えるのです。 辻井氏は自分の世界の中でひたすら音楽と向かい合うだけです。 そこには余分なものが入り込む余地はなく、彼は自分の思うとおりの音楽を演奏することが可能なのかもしれません。 とにかく、驚きと感動の連続のコンサートでした。 辻井氏はのりのりで、まるで大好きなおもちゃを与えられた子供のよう。 本当にピアノが好きなんだなぁと思いました。 アンコールの3曲目に地震の被害者のために作ったという曲を披露してくれ、これで終演だと思った私達が精一杯の拍手を送っていたら、彼はさらにアンコールにこたえてくれたのです。 時計をしていなかったので分かりませんが、このときゆうに10時を越えていたはずです。 辻井氏の入退場をエスコートしていた男性が思わず「まだ弾くの?!」という表情をしたくらい。 『展覧会の絵』の演奏でぐったり疲れているかと思いきや、これが若さでしょうか(笑)。 さすがにこれ以上弾かれてはたまらないと思ったのか、4回目のアンコール後はさっと照明が灯されたのがおかしかったです。 次は是非、彼の協奏曲を生で聴いてみたいです。 追記: 興奮してプログラムを書き忘れました。 以下、この日に演奏された曲目です。 モーツァルト ピアノソナタ第11番(トルコ行進曲つき) ベートーベン ピアノソナタ第17番『テンペスト』 ムソルグスキー 『展覧会の絵』 アンコール1: ショパン ノクターン第8番 アンコール2: リスト 『リゴレット・パラフレーズ』 アンコール3: 辻井伸行『それでも、生きてゆく』 アンコール4: ベートーベン ピアノソナタ第21番『ヴァルトシュタイン』 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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