朧の花嫁(1)
2024年5月刊富士見L文庫著者:みちふむさん大正時代の函館。旧華族の清子は顔の痣により冷遇されて育った。そんな彼女は、金のため顔も知らぬ実業家に嫁ぐように命じられる。清子が出向いた屋敷には、商才あふれる美貌の青年・朔弥がいた。しかし彼の目は不自由になりつつあり、これまでの縁談への苛立ちから彼女を拒絶。それでも清子は真摯に接し、朔弥も、その育ちゆえに真心で人を見る彼女に心惹かれ、互いにかけがえない存在に。だが、痣を知った岩倉本家は彼女を追い出そうとしてーー。彼と生きるため、清子はその人柄と聡明さで懸命に試練に向き合い……? ↑楽天ブックスより、あらすじ引用登場人物 伊地知清子=名家の娘ながら、生まれつき顔に大きな痣があることから家族に虐 げられていた。 岩倉朔弥=資産家の長男で清子の見合い相手。目が不自由で気難しい性格。 近藤正孝=朔弥の秘書。 岩倉哲嗣=朔弥の弟で岩倉家の次期当主。旧華族の流れを汲む伊地知家の長女・清子は、顔にある大きな青痣のせいで家族、特に母から疎まれて使用人以下の扱いを受けていた。毎日こき使われてくたくたではあったが、そんな彼女にも楽しみな事が一つ。家族の誰もが面倒がっていた先祖の寺供養を押し付けられた清子を住職夫婦が気にかけ、有名女学校出だという奥さんが勉強を教えてくれるようになったのだ。小学校しか出ていない清子は、おかげで色々な事を学べたし、奥さんが紹介してくれる繕い物の内職で幾ばくかの現金を手にする事が出来た。息子たちのお下がりだけどと貰った本と読み終わった新聞を貰い帰宅すると、珍しく父から呼び出しが。恐る恐る出向くと叔母が来ており、母と優子も揃っていて、自分に縁談が来ていることを知らされた。お相手は貿易商を営む岩倉家の長男・朔弥。裏では成り上がりと陰口を叩かれつつも、社長は商才がありかなりのやり手らしい。当初、両親は優子を嫁に出す気だったようだが、直前で勿体ないと考え直し清子に変更すると叔母に話すと、後日岩倉家に行くよう命じた。色々ショックではあったが、もし嫁いで上手くいかなかったらうちの寺で暮らせばいいと奥さんから励まされ、何とか覚悟はできた。数日後、朔弥が暮らすと言う岩倉家の別邸へやって来た清子は、半日近く待たされた挙句、見合いをすっぽかされてしまった。しかし、根気よく待ち続けていると夜半に帰宅した朔弥はビックリ。結婚なんてしないと、屋敷の使用人の瀧川が止めるのも聞かず、雨の降る中彼女を追い出した。このまま帰ったら父に何と言われるか。母からの折檻も恐ろしい。とぼとぼ歩いていると瀧川が追い付いて、岩倉邸に戻ることに。あの後、自分の乳母を務めていた瀧川に叱られた朔弥は清子を連れ戻すよう命じていた。だが、雨に当たったせいか彼女は熱を出して寝込んでしまい、医師に診てもらうと栄養失調だと判った。名家の娘が栄養失調?不思議に思いながらも彼は暫く屋敷で養生させると、秘書の近藤に伊地知家を調査するよう頼んだ。何とか回復した清子に、朔弥はある提案を持ちかけた。生まれつき視力が弱く不自由な生活をしてはいるが、頭が良く専務として働く彼には縁談がひっきりなしに申し込まれているのだそうだ。そこで、実家に戻り難いのであれば許嫁のフリをして自分の身の回りの世話をして欲しいと。新聞を読むことができるのも助かると話す彼に、清子は自分ばかりが得してないかと気にはしていたが、提案に応じた。彼は全く見えないわけではないものの、輪郭や色が多少わかる程度でやはり常人とは違い介助が必要な場合も多い。着替え等は瀧川が手伝い、おさんどんや瀧川の補助、そして毎朝新聞を3紙ほど読み聞かせるのが清子の仕事となった。朔弥は自分に歯がゆく思うことがあるのかよく癇癪を起し、気難しい性格だ。だが、優しい面もあって瀧川から聞いたのだろう、荷物の少ない清子の為に色々用立て、聡明な彼女を褒めた。彼女が新聞で得た昨今の情勢から読み解いて出した案は、いくつも当たって随分儲けさせてくれた。人柄も洞察力が高いのも気に入った。この頃にはフリではなく、本当に自分の妻になってほしいと朔弥は思い始めていた。瀧川の話では彼女の顔にはかなり目立つ青痣があると言う。本人も気にしているようだが、朔弥には見えないし、それがなんだと思う。しかし、当の伊地知家が今になって清子を嫁に出すのを渋り始めたのだ。調査により、家族で彼女を蔑ろにしていたのは知っている。だが、いなくなって初めて清子の重要性に気付いたのだろう。最近詐欺に遭って事業も上手くいってないようだし、取り戻せないなら結納金を多く請求してきそうだ。多少は色を付けてもいいが、ずっと援助を期待されても困る。そこで後日、上手い話と脅しも付け加えて結婚の許可を迫ると、当主は渋々承諾。問題は朔弥の家族か。案の定、母は痣のある娘なんてと反対しているようだったが、実力主義の父は、これまでの清子の功績を話すと随分と気に入ったようだ。弟の哲嗣も手放しではないが一応祝福してくれている。清子もホッとしたようではあったものの、どうも父たちに会った日から様子がおかしい。父母は面と向かって彼女に何か言ったようには見えなかった。となると哲嗣の方か。案の定、哲嗣は清子の容姿について兄がかわいそうだと彼女を責めていて・・・。兄のことが大好きな哲嗣はこの結婚を反対していました。お人好しだが気立てが良く、頭も良い清子を朔弥は自分のことのように自慢に思っており、弟にも彼女の良さをどう判ってもらおうか模索。一方、伊地知家は所有していた貸物件が阿片の闇取引会場にされていたことにより、あらぬ疑いを掛けられたせいで見る見る没落。優子も学校を辞めざるを得なくなり屋敷を売却し、町を去ることに。これはもう完全に娘を虐げていた罰ですね。その頃、朔弥たちも所有する鉱山で暴動が起きて危機に陥っていた所、清子の活躍で鉱山を管理させていた社員達が横領していたせいだと判り事態は収束を向かえます。朔弥はこの件で一層清子に惚れ直し、哲嗣も蟠りは残しつつも彼女の優秀さを認めるのでした。その後、朔弥と清子は結納を交わし、正式に婚約者となって幕。清子さんの才媛っぷりだけでなく、その人となりなんかも良く描かれていて、これは人嫌いさえも惚れさせるわと納得。続編もあるそうなので次は朔弥の溺愛も見られるんでしょうかね。評価:★★★★★