源氏物語〔2帖帚木 ははきぎ16〕
源氏物語〔2帖帚木 ははきぎ16〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語2帖帚木の研鑽」を公開してます。近衛の中将は指をかんだ女をほめちぎった。その時分にまたもう一人の情人があり、身分もそれは少しよいし、才女らしく歌を詠んだり、達者に手紙を書いたり、音楽のほうも相当なものだったようで、感じの悪い容貌でもなかったので、やきもち焼きの方を世話女房にしておき、そこへおりおり通って行ったころにはおもしろい相手だった。あの女が亡くなったあとでは、今さら惜しんでも死んだものは仕方がなく、度々もう一人の女の所へ行くようになり、風流女を主張している点が気に入らなく、一生の妻にしてもよいという気は無くなった。(昨日朝は慌ただしくロウソクを家に忘れてしまった)あまり通わなくなったころに、また他の恋愛の相手ができたようで、十一月ごろのよい月の晩に、御所から帰ろうとすると、ある殿上役人が来て私の車へいっしょに乗り、その晩は父の大納言の家へ行って泊まろうと思っていた。途中でその人が、今夜私を待っている女があり、そこへ寄ってやらないでは気が済まないと言う。女の家は道筋にあり、壊れた土塀から池が見え、庭に月の光りが射しているのを見ると、私も寄ってもいいという気になり、その男の降りた所で私も降りた。だが、その男が入るのは私の行こうとしている家だった。初めから今日の約束があったのだろう。男は夢中で門から近い廊の室の縁側に腰を掛けて、気どったふうに月を見上げている。それは実際白菊が紫をぼかした庭へ、風で紅葉がたくさん降っているから、身にしむように思うのも無理はない。男は懐中から笛を出して吹きながら合い間に、飛鳥井に宿りはすべし蔭もよしと歌うと、中では和琴をきれいに弾いて合わせる。律の調子は女の柔らかに弾くのが御簾の中から聞こえ、華やかな気がして、明るい月夜に合っている。男はおもしろがり、琴を弾いている前へ行き、紅葉の積もり方を見るとだれもおいでになった様子はなく、あなたの恋人は中々冷淡なようと皮肉なことを言っていた。