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碁法の谷の庵にて

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2010年08月03日
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カテゴリ:法律いろいろ
 以降の話の元ネタは「美味しんぼ」101巻「食の安全」ですね。
 これまで私が何度か言ってきたことを、テンプレートに乗せる形でまとめてみました。
 基本的には私の考えや体験、先達から聞いた話等に則って書いてあります。もちろん具体的なエピソードについては、その場の創作もあるのはご了承ください。
 なお、作中の裁判はリアル裁判がこうであるというものではありません。一般に言われている裁判の型を強調しています。
 正鵠を射ていると言えるかどうかは、皆さんの判断にお任せします。法律家の方からみても、粗ばかりに思えるかもしれません。テンプレートに乗せるという都合や私の視点を強調する都合上、他の点からの検討を省いた部分もありますから、例えば本来の法律家の責任等については追及が甘くなっています。
 それを踏まえて読んでください。前編と後編にわけますので注意してください。
 後編はあす以降に。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

山岡「こちら、刑事司法に詳しいAさん。」
A「Aです、よろしく。」
山岡「Aさんは、刑事手続の基本理念を広く社会に知らせる活動をしておられますが、元々は刑事法の好きな法科大学院生だったのですね。」
A「だから刑事手続にもそこそこ詳しくなったのです。」
飛沢「それで今は、一般市民をいい加減な刑事手続の被害から守る活動をしておられるんですね。」
A「君は一般市民を冤罪の危険にさらされる被害者だと思ってるの?」
難波「被害者やないんですか?」
A「一般市民はいい加減な刑事手続が大好きなんだ。大変な利点を感じているんだよ。」
飛沢「一般人はいい加減な刑事手続が大好き?」
難波「いい加減な刑事手続に利点が?」

A「それ以前に聞くけど、君たちは刑事裁判を見たことがあるかい?」
飛沢「え、実物…そりゃあ、法廷の傍聴になら行きましたけど」
A「見せましょう。公判での傍聴だけで分かることだけでなく、舞台裏と言える所を。」※1

(Aは、いくつかの刑事裁判の傍聴記や個人的メモ、検察官、弁護士の実務に関する資料や刑事裁判の問題点を指摘する書籍を並べた)

A「私が講演で使うのに必要な知識を仕入れている本やノートです。刑事弁護に詳しい弁護士ならもっとすごいですよ。」
難波「ひゃあ!こんなにあるんでっか!?」
飛沢「凄いな、大学入試の時の参考書の山を思い出すよ。」
山岡「重要なことは、これらで指摘されている現行実務の諸問題は多くが適法なものであり、違法であるとは我々には言えないことだ。」
飛沢「違法ではないんですか?」
A「いえ。それまで証拠能力を認めるべきとされていた証拠が突然信用性を否定されたり、適法な捜査活動でも冤罪につながったこともあります。」
飛沢「それじゃ、今使われている証拠の類も、今後信用できないと言われる可能性があるんだ。」
山岡「どのような刑事手続が冤罪につながるか、影響がはっきりするのには時間がかかる。我々は、人類が今までに経験したことのない刑事手続の壮大な実験の最中なんだよ。」
A「では、一つ実験しましょう。」※2

(Aは部下たちに一つのモデル裁判を見せた。公判廷に限らず、弁護士や検察官の裏舞台も、以下模擬裁判では同じ)

A「これは、一般市民が頭で要求する刑事手続です。
実体法解釈においては罪刑法定主義が厳密に適用され、
捜査においても被疑者の、公判では被告人の人権を擁護し、身柄拘束を最小限にとどめ、
刑事弁護活動も活発、
裁判官も被告人の言い分を細大漏らさずよく聞きわけて被疑者側の言い分に対しても「疑わしきは罰せず」の理念の下で公平かつ厳密に評価し、
有罪は有罪、無罪は無罪ときちんと言う。その各人が役割を果たす中で真実を発見する。」
A「ところが、このきちんとした刑事手続が実際にはバッシングの対象になる。その理由は時間がかかる、犯罪者を取り逃がす。そして犯罪被害者や遺族を傷つける。」
難波「時間がかかる?犯罪者を取り逃がす?」

A「一般市民が喜ぶ刑事裁判を実演させてみましょう。」
(Aは部下たちにもう一つのモデル裁判を見せた。)
「この裁判はいい加減な手続で行われた裁判です。
時間をかけて証拠を検討すると手間がかかるから、強引に争点を絞り込ませて形式的に弁護人をつけ、裁判という形を機械的に作らせたものです。
内容はいい加減だろうと何だろうと構わないし、素人で制度が分からない被告人の弁解も「出すのが遅い」でほぼ審査しない。
悪人を取り逃がすのが嫌だから、事実認定も甘く、被告人の言い分は話半分。
仮に結論が間違っていてもまずわからない、一般市民は長い手続を嫌がるし、被害者の言うことを否定すると被害者を傷つけると言われるから迂闊に否定できない。それが、こういう裁判です。」
飛沢「形式的には手続は守られているし、自然に見える。」
A「これに、更にみんなの喜ぶ刑事裁判の要素をつけます。」

A「検察の長い取り調べです。被告人を反省させて争う気をなくさせるためですね。
それが芯まで染まるように弁護人も協力する。無反省の匂いがしないように謝罪文を書かせて、本当は否認したい被告人に賠償をさせる。」
難波「ええっ!例え彼が真犯人でも、握りつぶして本当に反省させられる訳ないやんか。」
A「でもそうしないと弁護士はバッシングされるし、被告人がそれでいいと言ったら弁護人もそれを無視して争うのは難しい。不確実な無罪よりも確実な執行猶予の方が魅力的になることだってある。
今の一般市民は、刑事裁判の基本的な姿への理解をなくしているんですよ。
そして最後は弁論で反省しているという言葉を結びます。」
A「そして犯罪被害者を傷つけるとは何事だ、というから被害者を尋問しないで済むように、証拠は全部同意して争いたいところも争わない
裁判は簡略なのに、無罪判決を書くと、それだけで判決文も読まない人に叩かれるから、証拠の評価はいい加減
更にこれだと刑事裁判としての厳粛さがないという。そのときには関係者に厳粛な服装をさせたりする。こういう手続で被告人を裁くなら、公判は1回開いて、それも1時間もかける必要はなくて十分。」
難波「おお!よく傍聴できる日本の刑事裁判や。」※3
飛沢「被告人の反省が見えるだけじゃない、心からの反省に見える。」
山岡「本来の刑事裁判とは別物だ。」
A「本来の手続をきちっと行う刑事裁判を行うとバッシングされ、相当数を省いた刑事裁判は、少なくとも冤罪事件であると一部の人々が騒ぎ出すまでは別にバッシングされない。
わかりましたか、一般市民はいい加減な刑事手続が大好きなんです。」
飛沢「ああ、そう言う意味か。」
A「刑事弁護は、上記のような手続がこなせれば、法律面では特別な習熟がいらない。
結果として安い値段で刑事弁護人を使える。財政縮減や犯罪被害者と比べて国選弁護は高いと言い募る一般市民に利点があるでしょう。」
難波「ううう、確かに安くて早いのは利点や。」
A「いい加減な手続に基づいた裁判は、「早い」「悪人を逃がさない」「犯罪被害者を傷つけない」「分かりやすい」「安い」という利点を持ちます。そして、これを満たさないことが、一般市民が刑事裁判に対して行う批判に大きなウエイトを占めているのです。」
難波「確かに市民的要求にあっとるな。」
山岡「しかも刑事訴訟法その他で認められているから、あるいは被告人がそう言う主張を飲みこんでしまったら、こうした手続を違法だとは言えない。」※4
A「特に冤罪事件で刑事手続の批判をする人は、安易にこうした手続の違法性等というから解決しないんです。
そんな事を言ったら、よほど刑事訴訟法に熟達していることが知れた存在でないと、法律家に違法ではないと判例を示されてその無知を叩かれます。」

A「しかし、こうしたいい加減な手続が間接的にもたらす害を言うことはできる。冤罪事件の増加です。」



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


後篇に続く

※1 法廷では30分位で終わる裁判でも、検察官と弁護人は水面下で様々な手続や準備をやった上で行っています。法廷で見られるのは、実は刑事手続の氷山の一角なのです。もちろん、傍聴に行くことには重要な意味がありますが、それは囲碁で言うならほとんど小ヨセだけ見ていると思って間違いありません。
※2 原作では実際に行われていることを見せましたが、この文章ではこのような裁判がリアルに行われている、と言う訳ではありません。一部の人たちの希望する裁判のとおりにやったら、そんな裁判になる、と言うのを実演したものです。
※3 この手の裁判は地裁に行けばよく傍聴できますが、舞台裏で、検察の主張が真実で被告人が争っていない裁判なら別にこれでも問題はないのです。ただし、問題があったとしても傍聴できる法廷にはこうやって現れてこないという意味なのですね。
※4 冤罪事件なのに、被告人が争わず、大人しく刑に服してしまった例は富山・氷見の婦女暴行冤罪事件を思い出していただければよいでしょう。足利事件ですら、菅家氏が否認に転じたのは一審の途中から。徳島ラジオ商殺し事件も、最終的には冤罪は明らかになりましたが13年もの懲役刑を受けた被告人は上告を諦めました。





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最終更新日  2010年08月03日 22時27分23秒
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