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碁法の谷の庵にて

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2010年08月10日
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カテゴリ:法律いろいろ
 誰も待ってないかもしれませんが後篇です。




A「また別の実験をしましょう。殺人事件の、殺意否認事件の例です。」
A「事件の元になったのは、警察の見込捜査に基づく捜査、取調、自白。
日本中にある刑事手続を済ませ、悪人を逃がさず、真実に基づいて処罰するためには、ある程度見込捜査みたいに、冤罪を招きがちな捜査手法もやらなければならない。日本の市民は取調室の密室ぶりには反応するが、マスコミ情報での個別事件だけでは、その事件にそんな手法が使われている可能性には思いが至らない。
A「それによる裁判を見てください。」
(Aの仲間たちによる模擬裁判。検察官に迫られて自白し、被告人を弁護人が「反省させた」結果、被告人は絶望し、否認も飲み込んで裁判所では争うことなく、裁判官もそれに気づかないまま粛々と死刑判決を受けた
飛沢「うわ、酷過ぎ!」
難波「とても近代国家の裁判と言えるようなもんやない!罪刑法定主義から何からみんなぶち壊しや!」

A「そうでしょう。
でも、それをしないことがマスコミのフィルターを通して事件をみる市民にはどう映るか。一例ですが、ある殺意否認事件の報道を振り返ります。」
A「まず、法廷での被告人の発言は奇妙奇天烈にふてぶてしく。当然伝聞で、実際どういう口調だったかはわかりません。
人が映ればゲストやパネラーが揃って罵声の大合唱。当然ながら事件について詳細と言えることも、法制度も何も知りません。」
難波「ひゃあ!専門家ではないとはいえ、ジャーナリズムを担う人間が調べもせずに発言するんやて!」
A「個人の意見や感想に属することを言っただけでは、内容が不適当ってだけでは違法とは言いにくいですよ。」
飛沢「わあ・・・それがお茶の間に届くのか。」
A「弁護人が何か言ってきた場合には、その発言の衝撃的な発言の一部だけを切り取ります。言ったのは間違いないので違法というのも難しいですよ。弁護人には守秘義務もありますから、言いたくても言えないことだってあります。」
飛沢「今度は発言の一部切りぬきかいな。たまらんて。」
A「こうしてできた空気に、弁護士はじめ法律家のコメンテーターがコメントを加えます。もちろんコメンテーターは事件について関係者聴取なんて何一つしません。場合分けもしません。場合分けしたら、ワカリニクイと言われて次の出演依頼が来ません。※1
この時入れる専門家の性質選びで、冤罪に気をつけるようにという空気も、手続をさっさと進めて処罰しろという空気も、いくらでも調節できる。専門家にも言論の自由があるから、違法と言ったり弁護士の場合に弁護士会が懲戒するのは難しい。」
飛沢「わ、そういうことだったのか。」
A「後はそれぞれの局なりに編集して放送する。さあ、見てください。」
山岡「あらら?さっきはとても近代国家の裁判と言えないと思ったのに。」
難波「批判している方の主張が普通の裁判に見える・・・しかも弁護人が悪党に見える。」
飛沢「マスコミ報道のフィルターのおかげでそう言う裁判が普通だと思い込んでしまったんだ。」
A「そうすると、市民はリアル裁判よりもそういう裁判が普通なのだと信じ込みます。その結果、冤罪事件を引き起こす刑事司法制度を支持することになるんです。」※3
山岡「完全な近代的法意識の破綻だ。」
A「彼らの求める刑事裁判を背景を全部明らかにして、冤罪事件だという前提でその通りにして見せたら、市民はみんな恐怖裁判だ魔女狩りだ北朝鮮だと言います。ところが、本来はとても近代国家の裁判と言えないような裁判を拒否して、きちんと裁判をやろうとしたら、弁護人は何をやってるんだ、あんな奴を弁護士にしてはいけない、となる。しかも、松本サリン事件をみたら、マスコミだって簡単に信じてはいけない、となるのに個別の事件になるとマスコミの言い分に無条件でのってしまう。北朝鮮でも魔女狩りでも自分達の求める被告人像ができて、それで裁ければそれでいい。それは市民として持つべき価値観の破壊でしょう。」
飛沢「その通りだ、こんな先進国の笑いものになるようなまがいものを…」



A「次もあくまで一例ですが、満員電車内での痴漢冤罪事件をシミュレーションしてみましょう。」
(Aの仲間たちによる模擬裁判)
A「まず、被疑者の言い分はきちんと聞かない。自白したかのような調書だけを取ってうまくまとまらないと調書を取らないし、その過程も可視化されない。
否認すると身柄拘束が長期化して無罪でも社会復帰に支障。。
しかし、日本人はそれだけの捜査をやってみて、それで無罪でした・・・だけでは満足できなくなっているんです。
で、何を使うかというと・・・犯罪被害者の供述。被害者の言うことについてビデオリンクを用い、場合によっては遮蔽物までも用いて、裁判官に被害者の供述態度は見えませんし、被害者が真剣に言うことだから、被害者を傷つけてはいけないからということで、信じる。
 こちらは犯罪被害者の検察官面前調書。弁護人が法廷で尋問して崩しても、あるいは被害者が法廷でだんまりしてしまっても、検察官が採った調書での被害者供述が証拠として採用し、それを根拠に有罪にされる。これらは、法的には決して違法ではない。(被害者主張の過大評価)
 この3つを、私は痴漢冤罪黄金のトリオと呼んでいます。これだけやって、痴漢を検挙できないと日本人は満足しない。冤罪事件が起これば別だけど、それで通過した事件は被害者の勝利ということで黙認してしまう。
難波「捜査段階の苦労だけでは満足しない…おとろしいで。」
A「さらに、200万円位になる保釈金も入れましょう。
弁護人報酬の安さ。
企業の解雇の恐れを出すことで簡易手続による処理を促進します。
勾留中も入れて置くスペースが足りないから共同部屋で代用監獄。
更に追い詰めるために接見の禁止。
さらに痴漢を許さんという姿勢が足りないから論告でまるで世の痴漢の代表であるかのように、否認したことをとらえてボロカスに非難する。
そして弁論と最終陳述の上で判決を待つ。」
山岡「うわあやばい!痴漢冤罪事件の完成だよ!」
難波「一応の判決だと感じる。それも捜査のそういった問題点を露骨に感じないで!」
飛沢「これだけの材料で冤罪事件ができるなんて!」
A「このどこに刑事裁判の基本理念がありますか!こんなのほとんど独裁国家の裁判だ。
痴漢冤罪についてはまだ映画とかもあって問題意識が進んでいるから、現在指摘されている現象を問題扱いする人も増えているけど、そう言う認定を被害者のためとか言って続けていると、他の事件にも波及して行って、冤罪事件を生んでいくことになる。」
山岡「刑事裁判の鉄則は、無実の人間を処罰しないことに意義があることだよ。」
A「こういういい加減な手続は、「早い」「悪人を逃がさない」「犯罪被害者を傷つけない」「分かりやすい」「安い」。
一般市民の要求を全部満足させてくれるんです。

飛沢「一般市民の要求通りか…」
山岡「少なくとも法科大学院で最低2年間、さらに司法修習を1年やってきた人たちが、予め行われている争点整理手続に関与して裁判に参加。その彼等と合議の裁判員裁判を考えてみろよ。自白事件ですらどれだけ手間と時間がかかるか※2。ましてや否認事件を、10分程度のワイドショーで判断できるわけがない。こんなに早く分かった気になれるのはおかしいと感じない一般市民がどうかしてるんだ。」
飛沢「本当ですよね。冤罪事件だって、本当に防ごうと思ったら、あんな簡単な手続で完全に防げるわけがないと思わないのがおかしい。」

☆ ☆ ☆ ☆
飛沢「こんなやり方の歯止めにならない法律家たちもひどすぎるよ。」※3
A「いや、こういう刑事手続を真剣に考えない一般市民も悪い。みんな早いし普通の手続だと考えて、気にもしないでそういうことをいう週刊誌を買ったり、ネットに書き込んだりして、時には正当なことをやった法律家に対し罵倒や迫害すらしているじゃありませんか。」
A「個別の裁判の問題もそうですが、こういった問題は愚かな正義漢を増やすと言いました。実は、冤罪事件を批判している人をみると、刑事法や手続の基本構造を理解していない人が多かった。
飛沢「ええっ!!」
山岡「例えば足利事件では冤罪を起こした刑事弁護活動の低調さやDNA鑑定への依存を批判していながら、別の事件になるとDNA鑑定よりはるかに低い証明力の証拠があるから絶対大丈夫と言うなど、そう言ったいい加減な手続を公認してしまう人がいる。」
A「さらに彼等は専門家を大事にしません。要求を言うだけ言って後になって辻褄の合わない理屈で手のひらを返したように専門家を叩きます。自分の立場を正当化するためにクレームは宝とも言います。マスコミもその尻馬に乗ります。市民生活に欠かせない専門家に敬意を払わない人間は、その他市民生活を守る、豊かにする諸職業も同様に大切にしない。」
A「恐ろしいのは、専門家と市民の関係が壊れることです。私が以前話した時、ブログコメンターの一人は「マスコミ情報だけ調べれば十分だ、基本的な情報を読めというのは上から目線だ」といった。ある人は、彼と同じ趣味を持つ人たちまで腐していた。
それは、市民がマスコミ情報だけで解決していたからです。「楽で便利」だから。」
A「いい話もあります。」
A「ある人は、散々に専門家をバカにすることを言ってしてきたけど、色々な人と話してよく見れば市民生活上当然の価値観をそのまま考えれば当たり前のことであることに感づき、逆に刑事司法制度を常識的に説くようになった。」
難波「うおーん、なんちゅうええ子や。」
飛沢「困った法律家もいるけど、素晴らしい法律家だっているんだよな。」
A「そういう人間が専門家に限らず、様々な人の立場を理解しないままにモンスタークレーマーになりますか?他人のブログに真犯人はお前だなどと正義漢ぶって書きこんで自分が裁きを受けたりしますか?色々な人に立場があって、それらが複雑に絡み合って自分達の生活は守られている、と思うはずです。」
山岡「それを昔の日本人は健康的な形ではなかったにせよ持っていたはずです。」
A「それを壊した一因はいい加減な刑事司法の感覚。それを助長したのがそれを支持する人々。個別の事件も大事ですが、かけがえのない他者の「立場」を尊重する心を壊されたとしたら、どうやって彼等を元に戻すんですか?
山岡「一般市民は、「安い」「早い」「犯罪被害者を守りたい」そんな利点に従って、一番大事な刑事司法の精神を忘れているな。」
A「一般市民が細かい刑事訴訟法の解釈論の勉強をする必要はありません。ただ・・・一般市民には、どうしてこんなに簡単なのか、みんな反省しているように見えるのか、反省を迫られている刑事司法で未だに冤罪事件が起こるのか・・・不思議だ、変だ、奇妙だ、そういう気持ちを常に持っていてもらいたい。」


※1 私の院の刑事法の師匠は一度テレビに出た後、「あれこれ場合分けして語ったら依頼が来なくなった」といってました。
※2 ある所で見た模擬裁判では、事実関係上の争点はほとんどなかったにもかかわらず審理・評議合わせて2日がかりでした。
※3 ここを追求すれば、また長々書けることでしょう。司法権の独立を考えれば、そんな世論に屈していい加減に行うなど言語道断と一刀両断することは理屈上簡単です。現実にそうである、と言えるかどうかは私にはわかりませんし、そもそも上記の裁判は現実にあるものとして描くことは今回はしておらず、あくまで彼らの求める裁判を実現させているだけという体裁ですけども。しかし、曲がりなりにも国家作用である以上国民の声にも耳を傾けなければならない立場です。声を出した者の責任はないの?それがこの文章における私の視点です。





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最終更新日  2010年08月10日 14時08分47秒
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