どう変えるのかが問題だ
生活保護の「地域差」、36年ぶりに見直しへ 6区分を半減 厚労省住んでいる場所で生活保護の基準額に差をつける「級地」の区分について、厚生労働省が見直す方針を決めた。いまの6区分から3区分に半減させる考えで、来年度から実施する。見直しは36年ぶり。地域差が減少したことなどを理由としているが、基準額が下がる世帯への影響を懸念する見方も出ている。生活保護費は5年ごとに水準の妥当性が検証され、来年度が改定の年。22日の社会保障審議会の部会では見直しへの報告書案が示された。生活保護はどこでも同一の生活水準を保障するため、物価や生活水準に応じて全国の市町村を1~3の級地に分類。各級地で二つに分かれ、計6区分ある。ただ、この分類は1987年に設定されて以降、市町村合併を除いて変更はなかった。自治体から見直しの要望があり、消費実態などを分析。報告書案は「87年当時と比べると地域間の差が小さい」「3区分まで減らすと差が出る」などと結論づけた。---現状の生活保護「級地区分」は、引用記事にあるように、6段階に分かれています。1級地から3級地までの、それぞれ1と2に分けられています。1級地1の保護基準が最も高く、3級地2が最も安い、ということになります。例えば東京都でいうと、23区すべてと市部も多くが1級地1です。1級地2は東京では青梅市と武蔵村山市。2級地1は羽村市、あきるの市と西多摩郡瑞穂町2級地2は東京には該当地域なし3級地1は西多摩郡日の出町、檜原村、奥多摩町と伊豆諸島、小笠原のすべての町村3級地2は東京では該当自治体なし、と思われます。(3級地2は、具体的な地域名ではなく「1級地、2級地及び3級地1以外の市町村」となっているため、見落としがなければ、としか言えませんが)ただし、「住宅扶助」については、厚労省がこの級地区分とは別に、都道府県および政令指定都市ごとに決めています。例えば東京23区と大阪市は級地は同じ1級地1ですが、住宅扶助の上限は異なります。単身で東京23区は53,700円、大阪市は40,000円(以内の実費額)となります。さて、引用記事によればこの級地区分を6段階から3段階に減らすことが打ち出されているようです。「22日の社会保障審議会の部会では見直しへの報告書案が示された。」とあるのは、厚労省ホームページ「第50回社会保障審議会生活保護基準部会 資料」中の(資料1-1)社会保障審議会生活保護基準部会報告書(案)の28~30ページがそれに当たるようです。生活保護の級地区分は、物価は大都市で高く、田舎では低い、という一般的傾向に基づいて設定されています。ただし、詳細に考えれば、そのような物価の差は、食費(食材料費)については当てはまるけれど、それ以外のものには当てはまりにくいことが想像できます。例えば、電化製品が大都市で高価で農村では安価、などという話は、あまり聞いたことがありません。それを裏付けるように、報告書案には、「第1類相当支出の級地間較差については、上位級地が高く下位級地が低い結果となり、隣接する階級間でも3級地-1と3級地-2の間では有意な差がみられた一方、第2類相当支出については、必ずしも上位級地が下位級地よりも高くない状況である」とあります。第1類とは、生活扶助の中で、同じ世帯でも人数が増えれば費用が2倍に増える、食費や被服費です。第2類は人数が増えてもそれに比例しては増えない(光熱費や電化製品、家具什器費など)お金です。生活保護の生活扶助基準は、この第1類+第2類の合計額で決定されています。では具体的に金額はいくらかというと単身世帯の生活扶助額(4~10月)は1級地1では20~40歳76,310円・75歳以上69,740円1級地2では20~40歳73,720円・75歳以上67,420円2級地1では20~40歳71,460円・75歳以上65,470円2級地2では20~40歳71,460円・75歳以上65,470円3級地1では20~40歳68,430円・75歳以上62,850円3級地2では20~40歳66,940円・75歳以上61,560円となっています。2級地1と2で同額になっているのは誤記ではありません。「生活保護手帳」(手持ちは昨年の2021年度版ですが、保護基準は現在も同じです)から計算すると、単身の場合の保護基準はまったく同額です。経過措置部分や、期末一時扶助などで付帯する扶助額には差はありますが。つまり、細部は措いて、生活扶助の主要部分において、保護基準は「地域によって6段階」と言いつつ、実態としては「ほぼ5段階」となっています。そして、上記の「第2類」に関して言うと、現行制度において単身世帯の第2類は1級地1は28,890円、1級地2から3級地2まではすべて27,690円であり、2段階の差しかありません。報告書案を見る限り、1級地1の第2類だけを高額にする理由はなしように思える一方、第1類に関しては級地による消費額の差は確かに存在しています。これを総合して考えると、第2類については、1級地1も他の級地と同額にして、全国一律の金額にしてしまうのは合理的であるように思われる一方、第1類に関しては6段階(実質的には5段階)を3段階に減らすことは、拙速であるように思えます。また、減らす場合、おそらく各級地の1と2を統合するのでしょうが、具体的な金額が1と2の中間になる場合、1の側の保護基準が下がる、ということになります。そのことへの警戒心は、受給者には当然あるでしょう。しかも、日本は長らくデフレ、またはほとんど物価が変わらない状態が続いてきており、そのため保護基準も近年はほぼ引き下げ(世帯構成によっては一部引き上げもあったけれど)が続いてきましたが、言うまでもなく、今年に入ってから物価は急激に上昇に向かいつつあります。この物価上昇を保護基準に反映させれば、保護基準も上がるということに当然なるはずなのですが、果たしてそのようになるかどうかは、何とも言えません。というか、ならないだろうという気もします。知人が生活保護に関わるようになった十数年前の単身世帯の保護基準(1級地1)は、40歳前後では8万円超、70歳以上でも7万5千円程度だったと聞いています。そこから引き下げが続き、現状は上記のとおりですから、すでに約5千円程度は下がっているわけです。知人によれば、多人数世帯では非常識に高額な保護基準が、その頃はあったそうです。しかし、多人数世帯の保護基準はかなり見直し(引き下げ)がされています。それでも更に保護基準の引き下げを行うのかどうかは、級地区分の話とは別に注目していきたいと思います。