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自由の女神

ウォール街からの日記 [全138件]

2011年11月11日楽天プロフィール Add to Google XML

第288回 日本にとって本当のリスク:円安

先月、テレビ東京「MプラスEx」に出演させていただく機会がありました。滅多にお邪魔できない番組でもあり、中長期的観点から今後の投資についてお話させていただいたつもりです。番組の時間枠に入りきらなかった内容も含めて、以下ご紹介したいと思います。

アメリカ経済は大まかに見ると10年の景気サイクルで動いています。一番分かりやすいのは非農業部門雇用者数の増減で見た雇用情勢です。当然の事な がら景気の良い時は雇用が増加し、景気の悪い時は雇用が減少します。アメリカの雇用情勢はこの上下動を約10年のサイクルで繰り返しているのが分かりま す。

アメリカ経済が10年サイクルで上下する中、概ねその半分(5年)は景気の拡大期であり、残り半分は景気の収縮期です。歴史的にアメリカは景気の悪 い時には金利を引き下げて=ドルを下落させて景気を浮揚させる傾向があります。なので、これまでドル・円は一度下落を始めると概ね5年間は下落し続ける傾 向があります。これまで講演等で、「トレーディングされる分には構わないが、寝る前にはドル売り・円買いポジションを残す事」「この間は為替介入などなっ ても効果は無い」と度々申し上げてきたのはこのためです。

これは単なるサイクルだけではなく、日本とアメリカで中央銀行の使命が異なる事からも説明が付きます。日本銀行はその使命として「物価の安定」(※ 下落ではない)が課されていますが、アメリカの中央銀行であるFRBには「物価の安定」に加えて「雇用の最大化」が課せられています。景気の悪い時に金利 を下げたり、ドルを供給したりして雇用を回復させようとするのは中央銀行の義務でもあるのです。アメリカの雇用情勢が悪い時にドル・円が下落するのは、両 国の中央銀行の使命の違いを考えれば当然とも言えます。

さて最近再び円高・ドル安がニュースを賑わせていますが、私は来年の今頃もまだ円高で騒いでいるような事はないと思っています。むしろ円安が始まっ ている可能性の方が高いでしょう。というのは2007年7月に始まった円高・ドル安は既に4年3ヶ月続いており、既に終盤に差し掛かっていると言えるから です。また信じられない事に、これだけ景気が悪い時に日本では増税が予定されています。これは日本の景気にとって大きなマイナスになるでしょう。一方でア メリカの雇用情勢は厳しい状況が続いているものの徐々に改善の兆しも見えてきています。もちろんこの先70円台前半をトライするような場面は十分有り得る でしょうが、その後はドル高・円安方向の可能性の方が高いと考えています。

このような中、日本に居る人はこれまでの投資スタンスを今一度考え直す必要があると思います。というのは、日本は資源に恵まれない国であり、本当の リスクは円安にあるからです。例えばドル・円が80円から120円に上昇すると、これまで80円で買えた物が120円でしか買えないという状態になりま す。日本は生活必需品(食品・エネルギー等)の多くを輸入に頼っているため、ある意味、円高よりも深刻なリスクと言えます。このリスクをヘッジするには、 資産の一部を円以外で保有して購買力を確保しておく必要があります。現在のような、既に終盤に差し掛かっていると見られる円高局面は、むしろそのようなア クションを起こすチャンスとも言えます。

私はその投資先として、アメリカ株はその有力候補だと考えています。アメリカの主要株価指数であるS&P500指数は、1999年以来大きな上下動 を繰り返してきたものの、結局は当時と同じ1200近辺です。そして株価収益率を見ると当時の30倍弱に対して、今は12倍にまで低下しています。さらに この間の円高を勘案すると、日本の投資家にとっては更に割安になっているという見方も出来ます。

ただ割安だからと言ってすぐに上昇する訳ではなく、長期で考える事が必要です。というのは、割安にはアメリカの高齢化と税制が関係していると見られ るからです。アメリカでは59.5歳から無税で退職積立金を引き出す事ができます。アメリカの人は金融資産の役40%を株式で運用しており、しかもベビー ブーマーの退職時期に入ってきている事から、この世代による株売り圧力の影響は無視できません。実際、ここ10数年の株価収益率の低下と、退職世代の人口 増加との関係には強い相関関係が見られます。

この退職世代の人口増加はまだ数年続くので、株価収益率の低下もまだ数年続く可能性が高いという事になります。しかしその後低下は止まります。即ち アメリカ株式投資において注意しなければならないのは、昔のように、短期間で株価収益率が大きくなって株価が上昇するというような事を期待してはいけない という事、そして市場全体の株価収益率低下を補って余りあるような好業績企業に投資するべき、という事です。

そのような観点から注目すべきセクターは、第一に好業績で割安が目立ってきているハイテクセクター、第二に欧州危機による懸念から、中長期的観点か ら見れば恐らく売られ過ぎの領域に入っていると見られる金融セクターだと見ています。中長期観点からこのようなセクターへの投資は、円安とも相俟って、良 好なリターンをもたらしてくれると考えています。

(2011年10月24日テレビ東京「MプラスEx」より)




最終更新日時 2011年11月16日 15時40分17秒



2011年9月26日

第287回 「大き過ぎて潰せない」再び

7月以降、大手欧州銀行株が急落となっています。BNPパリバ、バークレー、RBS、ドイツ銀行など欧州を代表する銀行の株価下落率は軒並み40%以上(現地通貨建)に上っています。そしてこれら全ての銀行に共通するのは資産規模で世界のトップ10に入るメガバンクである事、即ちToo Big To Fail(大き過ぎて潰せない)金融機関である事です。

私のギリシャ問題に対する見方は1年以上前にここ第263回 ギリシャ問題は2008年アメリカのデジャ・ヴ(2010年5月6日)に書かせていただいた通りです。要するに、政府というのはオオカミ少年で、大袈裟な声明や流動性供給など、出来るだけカネ(財政)のかからない方法を使って市場を沈静化しようとするものです。ギリシャ問題に関してもこの1年以上、大袈裟な声明や流動性供給など、その場しのぎの策は何度も発表されましたが、ギリシャに資本を注入する、又は債務免除するなど、根本的な解決策はこれまで何一つ示されてきませんでした。当時この根本的な解決策に着手していれば、かかるカネ(財政)は今よりもずっと少なくて済んだ事でしょう。そしてリーマンショック時のように「大き過ぎて潰せない」金融機関に対する対応も必要最小限で済んだと思います。従ってこの1年強の間の状況悪化は、いわばEUによる人災と言っても過言ではありません。

【1】大袈裟な発表

9月16日、日欧米の中央銀行がドル資金供給で合意、との声明が発表されました。しかし中身を見てみるとこれは金融危機後、一時期を除いてずっと実施されている流動性スワップ協定に他なりません。よくもまあ、新しい声明のように発表するものだと半ば呆れてしまいました。もっと言えばメディアも何故、新しい声明のように報道してしまうのか、不思議でなりません。案の定、一旦は騙されて上昇した市場も、翌週には急落です。

【2】問題先送り

繰り返しになりますが、ギリシャのような、いわば借金地獄に陥った国にいくらお金を貸しても問題の解決にはなりません。資本を注入するか、一旦債務を再編し、新しいスタートを切れるようにするしか解決方法はないのです。しかしEUはまだ金融支援や資金供給など、お金を貸す、貸さないの議論ばかりをしています。これは2008年のアメリカの例で言うとまだ、リーマンショック前の段階です。確かに公的資金を注入したり、債務を再編するのは誰かの負担になる訳であり、大変な痛みと調整が必要になります。2008年のアメリカでも金融機関への公的資金注入は議会で一旦は否決されるなど、簡単ではありませんでした。しかしこの過程を避ける事は問題の先送りであり、ますます問題が大きくなっていくだけです。

【3】遅い対応

ユーロ圏は17カ国の集合体であり、それぞれの国で政治事情が異なっています。ユーロとして重大決定をするには各国で調整が必要で、特に今回のギリシャのような問題をどう処理するかのコンセンサスを簡単に得られる訳はありません。だからこそこのような問題はユーロ発足時にきっちり取り決めをしておくべきだったのです。これはユーロ発足当時から指摘されていた問題です。

【4】隠蔽体質

欧州のストレステストほどオオカミ少年と言われるものは無いでしょう。去年の1回目のストレステストの結果も不信を買うものでしたが、7月に発表された結果はそもそもギリシャ国債の債務不履行を前提にしていない、全く役に立たないものでした。今後、市場は2度と欧州のストレステストを信用する事は無いでしょう。ちなみにこれはドイツ銀行のCEOが今月フランクフルトで行った講演での発言です。「これは公然の秘密だが、銀行が保有するソブリン債を時価で引き直さなければならないのなら、欧州の多くの銀行が破綻に追いやられる事になろう。」

欧州危機はリーマンショック、又はそれ以上に発展する可能性がどんどん高まってきています。リーマンショックと似ている点は、欧州の金融機関はソブリン向け与信に関しては規制上追加資本が必要なく、従ってCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)を売る事は、あたかも無リスクでお金が入ってくるような取引であった事。これはアメリカで、リスク最上級の格付けAAAを付与されていたサブプライム住宅ローン関連証券を、実際のリスクを勘案せずに、他のAAA証券よりも利回りが高いという理由で金融機関が購入していたのに似ています。

異なるのは、アメリカの住宅バブルがせいぜい、2003年から2007年の4年間の現象であったのに対し、欧州危機はユーロという通貨が導入されて以来、12年以上に渡って積み上がってきたシステムの欠陥である事。ソブリンという、通常のAAAよりも信用が高く規模の大きな市場であるという事。そして欧州の金融機関を合わせると、資産規模はアメリカよりもずっと大きい、という事です。とりわけ問題がギリシャを初めとする小国にとどまらず、イタリア、スペイン等に飛び火するような事になれば、莫大な金額に膨れ上がってしまいます。

そしてそれを解決する手段があるか、です。2008-9年のアメリカや欧州は今に比べれば財政にも金融にも余裕がありました。しかし今は、連邦債務は法定上限に達し、金利はほぼゼロまで下がって非伝統的金融政策を発動しなければならない状況、欧州は文字通りの財政危機です。さらにオバマ大統領もサルコジ大統領も来年に選挙を控えています。大手金融機関救済によってあれだけ支持率を落とした2人が、今回大手金融機関の「もしも」に対してどのように対応するでしょうか? 例えばFDIC(連邦預金保険公社)は大手金融機関に対して、「もしも」の際に備えて「遺言状」を作成させる決定をしました。「もしも」の際、大手金融機関をこの遺言状に基づいて粛々と清算するためのものです。大手金融機関が救済でなく清算となった場合、そのショックはどのように波及していくでしょうか?

今後考えられる最善のシナリオは事前調整型の、比較的小規模国の債務再編でしょう。EUがこれまでのような、大袈裟な発表、問題先送り、遅い対応、隠蔽体質を即座に改め、早期に痛みの伴う公的資金や債務免除の調整に着手する事です。一方最悪のシナリオは、EUの体質が変わらず、結果としてリーマンショック以上の金融危機に発展してしまう事でしょう。

(2011年9月23日記)




最終更新日時 2011年9月27日 10時18分47秒

2011年9月5日

第286回 ダブル・ディップ・リセッション

7月末に発表されたアメリカの4-6月期国内総生産はショッキングな内容でした。国内総生産の70%を占める個人消費支出の伸びが年率+0.1% (速報値;後に+0.4%に改定)と発表されたのです。これはアメリカでは通常、リセッション(景気後退期)前後にしか見られないような水準です。アメリ カは人口は増加している国なので、人口増加分を除くと実質的にマイナスであったという事になります。

4-6月期は過去の数字だとして、それではこの先はどうでしょうか? 個人消費の先行きを占う消費者信頼感指数は今週、金融危機以来の低水準となる 44.5と、前月の59.2から大幅な落ち込みを見せました。これは2009年リセッション時以来の水準です。中身を見てみますと、落ち込みの殆どが将来 の「期待指数」の低下によって説明が付く状態。要するに、個人消費の不振は今後も続く可能性が高い事を示唆しています。

それでは何故、今になってこのような景気の低迷が顕在化してきているのでしょうか。それは第283回 景気悪化は正常化の過程(2011年6月13日)に 書かせていただいた通りです。即ち、これまで100年に一度と言われる危機を乗り越えるために、財政、金融、為替とあらゆる策が取られてきましたが、その ような緊急時の対応はいつまでも取り続ける訳にはいきません。人工的なサポートによらず、経済が自力で回復軌道に戻れるよう、いずれ解除しなければならな い時が来るのです。それが、’09年オバマ景気対策の効果が薄れ始め、QE2(第二弾量的金融緩和)が終わる、このタイミングだったという事です。

しかし現在アメリカ経済、とりわけ雇用情勢はとても、自力で回復軌道に戻れるような状態ではありません。今日発表された8月雇用統計によると、非農 業部門就業者数の増加は無し、失業率は9.1%で高止まりとなっています。最近この水準の失業率には目が慣れてきた感がありますが、近代では最も厳しい状 況なのです。アメリカで前回、失業率がこの水準にまで上昇したのは30年前の1980年代前半です。当時は8%以上の失業率は2年3カ月続きました。今回 は既に2年7カ月続いており、このままだと3年を超えるのはほぼ確実な情勢です。上記の消費者信頼感指数の中でも、「職を得るのが困難」という項目が大幅 な悪化を示しており、個人消費不振の主因が厳しい雇用情勢にある事が明らかになっています。

しかも、今は80年代前半よりもずっと、雇用を改善させる事は難しいでしょう。第一に、80年代前半は政策金利が15%を超える時代。金利を下げる 事によって景気を刺激し、雇用を創出する事が可能でした。しかし今はゼロ金利時代です。FRBが実質的にマイナス金利に持っていくような努力をしています が、当時と比べたハンディは明らかでしょう。第二に、80年代前半はインターネットなど普及していない時代です。中国やインドへのアウトソーシングが本格 化したのはここ10年ほどの話です。即ち労働市場における競争相手は、今やアメリカ国内だけではないという事です。この点についても、FRBは量的緩和に よってドル安誘導し、アメリカ人の世界の労働市場での競争条件を有利に持っていく努力をしています。しかし、例えば一度出て行ってしまった生産拠点などは その初期投資コストを考えれば、少々の条件改善があってもアメリカに戻ってくる事はないでしょう。こう考えれば、現在アメリカ政府が目標としている失業率 6%というのはかなり高いハードルで、気の遠くなる話のように見えます。

短期的な失業であれば失業保険によってその間の収入減を緩和し、個人消費の落ち込みを防ぐ事ができます。しかし今回のように構造的な失業となってく ると、失業保険の切れ目が個人消費の切れ目となってしまいます。金融危機後、通常最長6カ月の失業保険支給が最長1年4カ月にまで延長されています。それ でも厳しい雇用情勢が3年近く続くとなると、今後失業保険切れが続出し、延いては個人消費の不振に追い討ちをかけていく事になるでしょう。

個人消費の不振の背景には厳しい雇用情勢があり、その雇用情勢を改善させられる策に乏しいとなると、この先覚悟しなければならないものがあります。 それはリセッションです。アメリカでは数年の内に2度景気後退期が訪れる、いわゆるダブル・ディップ・リセッション(Double-Dip Recession)が起こるのは珍しい事です。しかし、その珍しいダブル・ディップ・リセッションが前回起こったのは1980年代前半です。しかも、今 は当時よりも厳しい状況なのです。

アメリカ経済は2007年末から約1年半のリセッションを経験しました。上記の通り、今回2度目のリセッションの前兆はあちこちに表れていますし、 1980年代前半との比較ではほぼ確実です。しかし株式市場はまだ、ダブル・ディップ・リセッションのシナリオは織り込んでいないようです。この認識 ギャップは当然、今後修正されていくはずです。

(2011年9月2日記)




最終更新日時 2011年9月5日 19時5分24秒

2011年8月3日

第285回 誤診の連続で治らない病気~円高

為替介入がいかに愚策かについては、第254回 為替介入は愚策(2009年11月30日)第270回 口先介入も、非不胎化介入も、為替介入は愚策(2010年9月2日)第271回 為替介入(米国債購入)vs 日本国債購入(2010年9月22日)な ど、このコラムでも再三にわたってご説明してきました。同時に2009年以降、円高の主因は日米欧のマネー供給量の差である事は日頃出演させていただいて いるテレビやラジオにおいても図を示して繰り返しご説明してきました。にもかかわらず円高を投機のせいだと勘違いしている一部メディアの評論や新聞の社 説、そして輸出企業を中心とする財界は「為替介入を実施せよ」の大合唱。政府も円高を投機のせいだと勘違いしたのか、又は「何もしないのか」という世論を 気にしたのか、2010年9月、日本はまたもや介入の蟻地獄に突入してしまいました。そして納税者負担となる為替損がどんどん膨らむという、過去と全く同 じ過ちが再び進行中です。

さらに大震災後の円高進行時には経済財政担当相が「投機筋の風評による円高であり大変不見識だ」と発言した、とのニュースが流れました。円高が投機 によるもの、と判断するのは医者が誤診しているのと同じです。確かに本当に円高が投機によるものであれば為替介入は効果があるでしょう。一時の頭痛に鎮痛 剤を処方するようなものですから。しかし繰り返し申し上げてきたように、私の診断では、2007年に始まっている円高に殆ど投機性は見られません。むしろ もっと深刻な病気、日米欧のマネー供給量の差がそのまま円相場に表れてきている事は明らかです。鎮痛剤が一時的に効いたように見えてしまうがために、根本 的な治療がおろそかになってきた点では為替介入は害とも言えます。さらに鎮痛剤も常用していると次第に効かなくなるし、副作用も表れてきます。その副作用 とは外国為替資金特別会計に発生している、40兆円近くに上ると見られる損失です。本来アメリカ国民が負担すべき40兆円分を日本の納税者が肩代わりする 形になっている事を理解している人は、今も多くないのではないでしょうか。

しかし上記経済財政担当相発言の翌日、再び誤診を受けた治療(為替介入)は実施されました。3月18日、日本は為替介入を通じて米国債、欧州国債を購入。日本があれだけ大変な状況にもかかわらず外国政府の赤字をファイナンスするという、非常に違和感のある政策を実行したのです。決定のスピードといい、復興のためにいくら必要でも自国の国債はなかなかファイナンスしようとしないのとは大違いです。

そして今、再び誤診がなされています。日本のニュースでは円高の要因として「アメリカの債務上限引上げが難航しているから」と報じられています。確 かにそれはきっかけの一つだった可能性はあります。しかし、もしそれが円高の要因だとすれば、債務上限引上げが決まったら、ドル・円は上昇しなければなら ない筈ですね。ちょうど本稿執筆の最中に、懸案であった債務上限引上げに関する法案が上院を通過、即日オバマ大統領の署名を経てようやく成立に至りまし た。それなのに私の目の前のスクリーンでは、ドル・円相場はまだ史上最安値に近い77円スレスレで取引されています。従って「アメリカの債務上限引上げが 難航しているから」も誤診であったという事は明らかなのです。

円高が進行する度に、日米欧のマネー供給量の差という本質を避け、その時によって一般の人が納得しそうな理由がメディアで挙げられる。こんな状況だ と、もしかすると財務・金融当局が責任を追及されないために工作している可能性まで考えてしまいます。一方、誤診の代償は小さくありません。既に外国為替 資金特別会計には日本の納税者負担となる40兆円近くの損失が発生しているのです。皆さん、これら誤診の連続にはもう懲り懲りではないですか?

(2011年8月2日記)




最終更新日時 2011年8月4日 16時49分21秒

2011年7月22日

第284回 日本脱出政策

(これは7月9日大阪での楽天証券12周年記念セミナーでお話させていただいた内容の一部です。)

「リスクを取る事の大切さ」についてお話させていただきたいと思います。2008年9月に起こったリーマンショック、何故あんな世界経済を一気に冷え込ませる大問題に発展したかはご存知でしょうか? リーマンが破綻した直後、世界最大の保険会社AIGがすぐに危機に陥りました。AIGは生命保険や損害保険に加え、金融の保険とも言えるCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の売り手となっていたのです。要するに、A証券やB銀行が債務不履行を起こすと、巨額の保険金を支払わないといけない立場にあったのです。AIGが危機に陥ると色んな人や会社が加入している保険が支払われなくなるかもしれない、このような連想がパニックに発展したのです。

 

皆さんはどうして保険に加入するのでしょうか? 一家の大黒柱が亡くなった時家族が困らないように、自動車事故を起こしてしまっても賠償できるように、地震に見舞われても生活を再建できるように、要するに様々なリスクから身を守るためだと思います。月々保険料を支払って保険に加入する事によってそのようなリスクをヘッジしているのです。しかしもし、その保険会社が万一の時にも保険金を支払えない、と分かったらどうなるでしょう。皆さんは一家の大黒柱が亡くなった時に備えて、自動車事故の賠償に備えて、地震に備えて、大金を貯めておく必要に迫られます。すると消費や投資に回せたはずのお金を貯蓄に回さざるを得なくなります。もし世界中で皆が同じような行動を取ったら貯蓄率が上昇、世界経済は一気にリセッション入りしてしまいます。これがリーマンショックが一気に世界経済を冷え込ませた要因です。逆に言えば、それらのリスクを一手に引き受けていた主体というのは、経済の成長において、極めて重要な役割を果たしていたという事です。

このような事が起こった時、どのような政策が取られるべきなのでしょうか? これだけ世界中でリスク回避傾向が顕著となり貯蓄率が上昇する中、それでも消費や投資をしてくれる人を優遇しなければなりません。民間の消費や投資だけで足りないならば、代わりに政府がその役割を果たすべきなのです。そしてアメリカ政府はその通りの政策を実行しました。2009年2月に成立したオバマ景気対策においては減税と共に公共投資を中心とする大規模な財政支出が決定されました。さらにアメリカの中央銀行FRBは実質的に現金(貯蓄)の価値を低下させるQE1、QE2(第一弾、第二弾量的金融緩和)によって貯蓄率上昇を防ぐ努力をしてきたのです。アメリカは100年に一度と言われる金融危機に対して、極めて妥当で当然の対応をする事によってこの危機を乗り越えてきたと言えます。

一方、日本の場合はどうでしょう? 東北の大地震は日本にとって100年に一度では済まないくらいの危機です。地震は原発、電力不足、食料汚染問題等に発展、政治の不安定とも相俟って、既に多くの外資系企業が海外に拠点を移す措置を取っています。もしかしたら又地震が起こるかもしれない、その時に備えておかなければならない、という考えから、本来消費や投資に回すはずだったお金を貯蓄に回している人も多いでしょう。去年でさえ就職内定率が60%台だったのに、企業を取り巻く先行き不透明感から、今年就職活動をしないといけない大学生はさらに苦労を強いられている事と思います。本来、それでも日本に残って大学生を採用してくれる企業、そしてこのようなリスクを覚悟の上で日本に投資してくれる企業を優遇すべき所、つい先日まで日本政府は法人税減税を見送る方針を固めていたのです。

アメリカの中央銀行FRBのような緩和策を取ることもないので、円高が進行するのは当然、まるで現金(貯蓄)保有を優遇しているような金融政策です。その上財政面からは消費税増税。これでは貯蓄優遇政策=反景気対策としか言いようがありません。

このような一連の日本の経済政策の共通項は「日本脱出政策」だという事です。世界でダントツトップの実効法人税率33.5%を誇る日本で、さらにビジネスを営む事が難しくなる中、円が史上最高値となれば、当然企業は海外に拠点を移すでしょうし、逆に海外企業が日本に拠点を持ってくる事はなくなるでしょう。日本で消費が不利となり、しかも円高となれば当然、日本製品よりも海外製品を購入する事になるでしょうし、反対に日本製品は売れにくくなるでしょう。先月、ニューヨーク郊外に日本から「不動産購入ツアー」が訪れました。日本に愛想を尽かした投資資金も海外に流出して始めているのかもしれません。

リスクが高まっている時は、リスクを取る主体を優遇しなければ、経済は回っていきません。だからこそ、好むと好まざるとに拘わらず、世界のあちこちでリスクを取る主体を優遇する措置が取られているのです。復興増税は正に、このように世界では常識のメカニズムが理解されていない真逆の政策としか言いようがありません。増税して増収を狙っているつもりが、実は納税する主体は既に日本を脱出した後だった、となってしまってからでは遅いのです。

 (2011年7月20日記)




最終更新日時 2011年8月4日 16時46分26秒

2011年6月13日

第283回 景気悪化は正常化の過程

5月以降、アメリカの経済指標が急速に悪化してきています。既に製造業景気指数では5月半ばに発表されていたNY連銀が予想18に対して11.9、 フィラデルフィア連銀が予想18に対して3.9と大幅な落ち込みを示唆していました。そして6月初めに発表された5月ISM製造業指数は予想57.6に対 して53.5、雇用統計では非農業部門就業増加数が17万人に対して5.4万人と、多くのエコノミストにとってサプライズの内容となっています。アメリカ の1-3月期のGDP成長率は1.8%でしたが、これらの指標を元にすると、5月は1%スレスレにまで落ち込んでいる計算になります。一体何が起こってい るのでしょうか?

多くのエコノミストはこれを、一時的要因と見ているようです。そしてよく挙げられるのが第一に食品やエネルギー価格の上昇、第二に日本の大震災の影 響です。しかし食品やエネルギー価格が上昇しているのは去年8月以降ずっとです。また日本で大地震が起こったのは3月上旬です。エコノミストが5月半ば以 降に発表される経済指標の予想に織り込む時間はたっぷりあったと思います。即ち「予想を下回った」事の理由説明には、あまりなっていません。私はむしろ、 現在の景気落ち込みは一時的要因によるものではなく、これまでの景気が比較的長い一時的要因によって持ち上げられていた可能性の方が高いと考えています。

100年に一度と言われる金融危機の後、これまた100年に一度と言ってもよい大胆な財政・金融政策が発動されました。例えば財政では「Cash for Clunkers」(新車買い替え)プログラムによって平均2000ドルが、新規住宅購入者には8000ドルの税控除が与えられました。いずれも一時的効 果は見込めるものの、基本的には需要の先食いです。それでもそのようなオバマ景気対策のかなりの部分は去年まで続き、もう終わりかと思われたタイミングで ブッシュ減税が2年間延長される事になりました。ただ、いずれにせよ今年後半からは、財政はGDP成長のマイナス要因入りしていきます。5月半ばには連邦 債務が法定上限を超えてしまいましたから、もう財政で何かやりたくても、できる状況ではなくなっています。むしろ現在、民主党と共和党で連邦債務上限引き 上げを巡る対立が活発化していますが、上限引き上げ反対派多数の世論調査を見ると、更なる財政引き締めも有り得るかもしれません。

金融政策にしても、去年春に第一弾量的金融緩和(QE1)が終わったと思ったら去年秋にはQE2が発動しました。しかしQE1の購入対象が10年以 上満期の住宅ローン証券が大部分であったのに対して、QE2では購入対象の中心は5-7年物国債です。案の定、短期性の資金は値動きの良いエネルギー・食 料品・銀先物、株式でもこれまで上昇してきたものがさらに買われる展開となりました。一方で長期金利が上昇した事で住宅価格は下落、現在住宅市場は二番底 に向かっています。これだけの財政・金融政策を総動員しても結局、金融危機の発端である住宅市場の下落は止められなかったというのが現実です。

これに加えて、金融危機の原因となった「大き過ぎて潰せない」について、ようやく改善に向けた第一歩が踏み出されようとしています。金融危機を受け て約80年ぶりの大改革として去年7月に成立した新金融規制改革法案(通称ドッド・フランク法)の多くが今夏以降、次々に実施されていきます。政府による 金融機関に対する様々な支援が失効していくほか、大手銀行には2-3%高い自己資本比率が要求される見通しです。ドッド・フランク法の対象は幅広く、最終 的にはデリバティブ取引や証券化、自己資本、投資ファンド、信用格付など387の様々な規制が導入されます。金融危機後のショックを受けて先送りされてき たものの、今後ようやく、金融危機を再発させないための施策が講じられていくという事です。最近金融関連株の下落が目立っていますが、これはドッド・フラ ンク法の施行が近付いてきているのが一因です。

こうして見てみると、最近になって景気が悪化してきたというよりも、むしろ金融危機を受けたこれまでの一連の対策が異常であっただけ、という見方が できます。確かに金融危機のような緊急事態の際には必要な措置だったのでしょうが、金融危機から2年半たった今もこのような措置を継続する事の方が異常で す。そういう意味では、アメリカ経済がいずれ経験しなければならなかった必要な過程であり、それが始まっているという事だと思います。

財政に絶対の制約がある今、景気が落ち込んだ時に取れる政策は金融のみでしょう。そういう意味では金融引き締めなど、一部市場で予想されている今年 末よりもずっとずっと先の話でしょうし、QE3の可能性も十分考えられるでしょう。ただ今月末QE2を終了すると表明している以上、バーナンキさんの舌の 根の乾く期間も考えれば、当面株式やドルは売り圧力、債券は買い圧力がかかりやすい展開になると見ています。

(2011年6月10日記)




最終更新日時 2011年6月21日 9時43分29秒

2011年5月12日

第282回 アメリカ国債の格下げ問題

4月18日、アメリカの格付け会社スタンダード&プアーズはアメリカの格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げました。これにより、 この先2年以内に、33%以上の確率でアメリカは最上級格付けであるトリプルAを失う事になりました。これを受けて同日のダウ平均は前日に比べて一時 250ドル近く下げる場面がありました。

それでもテクニカルなデフォルト(債務不履行)を別にすれば、アメリカ国債が実質的にデフォルトするような可能性は限りなくゼロに近いでしょう。し かし「相対的に」考えた場合、アメリカがいまだにトリプルAを付与されているのは不思議です。むしろ私は、とっくにダブルAに引き下げられていて当然だと 思っています。「相対的に」既にトリプルAでない理由としては、いくつかのポイントが挙げられます。

第一に、連邦債務の急増加です。リーマンショックが起こった2008年9月時点の連邦債務は9.6兆ドルで、これはアメリカのGDP(国内総生産) の66%に過ぎませんでした。この時点では90年代以降のアメリカとしては極めて平均値に近い比率であり、全く問題ではありませんでした。しかしその後、 公的資金注入をはじめとした金融機関救済、相次ぐ大規模な景気対策を受けて連邦債務は急増加、現時点で14.3兆ドルでGDPの95%を超えてきていま す。連邦債務がGDPの95%を超えるのはほぼ65年ぶり、戦後初めての事です。しかも3月には民主党と共和党が財政合意に達せず、もう少しで政府機関閉 鎖となる所でした。そして現在、連邦債務額は既に法定上限を超えてきており、ファイナンスは綱渡りの状態が続いています。

第二に、財政危機が問題になっている欧州との比較です。債務のGDPに対する比率を国際比較してみると、日本が225%でダントツの一位。次にギリ シャやイタリアが120%前後、そしてポルトガルやアイルランドと並んでアメリカが100%弱で登場してきます。ちなみにポルトガル、イタリア、アイルラ ンド、ギリシャは欧州の財政危機でよく挙げられるPIIGSの中の4カ国です。さらに去年始まった欧州の財政危機は、国債の外国人保有比率の高い順に訪れ ている事が分かります。2009年末時点の国債の外国人保有比率はポルトガルとアイルランドが85%、ギリシャが70%。そしてアメリカは47%で、「次 の危機」が懸念されたスペインの43%よりも高い比率です。もちろん比率でなく実額で見れば、アメリカの数値はいずれも突出しています。

第三に、日本との比較です。日本国債は現在、AAマイナスで見通しは「ネガティブ」。確かに日本の債務のGDPに対する比率は突出して高くなってい ます。しかし国債の外国人保有比率はせいぜい6%で、しかも為替市場で円が最高値。実際、通貨発行権を持っている日本政府が自国通貨建てで発行している国 債をデフォルトなど、まず有り得ないでしょう。もちろん財政状態が悪い、というのは分かります。しかし欧州危機の例を見れば、債務のGDP比率よりも、国 債の外国人保有比率の方が重要な事は明らかです。しかもアメリカはここ数年、財政のマネタイゼーションをやりまくった結果、ドル指数は最安値近辺にあるの です。

以上から「相対的に」見れば、アメリカ国債はとっくにダブルAに引き下げられていてもおかしくない事が分かります。なのに今更、格付け会社が格付け 見通しを引き下げるという、既に分かり切った事を発表することによって、市場は何故これほど反応してしまうのでしょうか。それは、第264回 格付けの不思議(2010年6月4日)で書かせていただいた通り、トリプルAを妄信している投資家がまだまだ驚くほど多いから、としか言いようがありません。

そしてそうなっている一つの要因はメディアにあるでしょう。格付け変更など、一つの民間会社が判断を変更しただけなのに、その報道の仕方は過剰とし か言いようがありません。第一に、金融危機で問題になった金融保証会社(モノライン)もトリプルAでしたし、リーマンショックを前後して実質破綻となった 政府系住宅金融機関も、世界最大の保険会社も、みなトリプルAでした。デフォルトが相次いだ、住宅ローン証券のシニア部分の多くにもトリプルAが付与され ていました。格付け変更を報道するのであれば、これまでの格付け判断がどれだけアテにならなかったかも同時に報道すべきです。

第二に、そもそも格付け会社は債券の発行体に甘い傾向がある事を念頭に置くべきです。これは通常、格付け会社の収入源が債券の発行体である事から生 じる問題です。なのでこの利益相反を除去するには、格付け会社は本来、発行体ではなく、投資家から手数料を得るべきなのです。実際イーガン・ジョーンズと いう格付け会社はこのモデルで、サブプライム問題の時にも他の格付け会社に先がけて、いち早く格下げを発表していましたし、今回のアメリカ国債にしても、 既に3月に格付け見直しを発表していました。しかし殆どのメディアはイーガン・ジョーンズの格付け見直しは報道していなかったのではないかと思います。

実質的には既にダブルAのアメリカ国債に対して、表面的な「格付け見通し」が過剰に報道される事によって、それまでトリプルAを妄信していた投資家がパニックを起こす。金融危機を通じて学んだ筈だった教訓を、投資家は再び忘れてしまっているようです。

(5月10日記)




最終更新日時 2011年6月21日 9時41分28秒

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