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2006年04月07日
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■成功報酬は「納得できる手数料」か?

 成功報酬という運用手数料の形態は昔から存在した。たとえば、投資信託の信託報酬が通常1年間で0.8%のファンドが、年率10%以上の利回りになった時に、これが0.9%にアップする、というような条件だ。筆者が、駆け出しのファンドマネジャーだった時に、最初に担当したファンドがこのような条件を持っていて、成功報酬を貰えて、非常に嬉しかったことを思い出す(筆者は、27歳だった)。
 投資家の側も、成功報酬に対して、概ね好意的な場合が多い。ある年金基金の事務長さんがおっしゃっていたことで、よく覚えているのだが、「受託機関(年金の世界で運用会社のこと)は、利回りがマイナスでも、プラスの手数料を取るのが、どうにも気に入らない」と彼は言うのだった。株式など、リスクのある資産を大量に組み込んでいながら、必ずプラスの利回りで運用できる運用手法はまずないので(オプションや先物で実質的にヘッジしてしまうと元本を確保できるが、この種の運用を除く。ちなみに、この種の運用は、投資家にとって非常に不利なことが多い)、先の事務長さんの言い分は、ファンドマネジャーの能力を超えており、要求として無理なのだが、気持ちは分からなくもない。
 この理由は、行動ファイナンスの代表的な理論として有名な、プロスペクト理論で説明できる。プロスペクト理論によると(そう大袈裟な話ではないので、安心して欲しい)、投資家が意識する参照点(多くの場合は投資元本)よりも利益になっている領域と、損になっている領域とでは、たとえば同じ元本の1%の心理的価値が、後者の方が2倍から3倍大きいとされている。
 これは、例えば、1000円で買った株の株価が1010円になる「10円」の喜びよりも、990円になる同じ「10円」の悔しさの方がずっと大きいようなことだ、と言えば、お分かり頂けるだろうか。ちなみに、「どちらも同じだから、よく分からない」という人は少ないと思うが、投資には非常に向いている。このように合理的に割り切るのはなかなか難しいことなのだ。
 したがって、ファンドが儲けた場合に取る手数料は、損した場合に取る手数料よりも、取られる側では軽く感じられるはずなのだ。こうした顧客側の心理を考えると、成功報酬というのは、なかなか上手い手数料の取り方だと言える。  



■オプションとしての成功報酬

 ところで「成功報酬だから、運用者は頑張るだろう」という理由で、成功報酬を支持する人がいるが、これは、正しいか。
 元ファンドマネジャーとして、実感を申し上げると、ファンドマネジャーは、成功報酬があってもなくても普通は頑張るし、それにもう一点、頑張ったからといって、運用パフォーマンスが良くなるものではないという、ファンドマネジャーとしては認めたくないけれども、客観的には正しい現実があるので、なおのこと、成功報酬とパフォーマンスは無関係だ。
 それに、成功報酬という仕組みを正しく理解したファンドマネジャーは、理論上、ある「特殊な頑張り」を見せるはずだ、という大きな問題点がある。
 たとえば、ヘッジファンドの成功報酬で典型的な条件は、なにがしかの固定手数料(年率1.5%くらいが多い)と年間の“ファンドの値上がりの2割”といった程度のものだが、後者の成功報酬部分は、一種のオプション(ファンドの純資産価値を原資産とするコール・オプション)として考えられる。
 ファンドマネジャーは成功報酬を通じて一種のオプションを手に入れたのと同じなのだが、ここで問題は、よく知られているように、オプションの価値はボラティリティー、即ちファンドのリスクに大きく依存して決まることだ。たとえば、「年間値上がりの2割」という条件で、ボラティリティーが20%だと、このオプションの価値は元本の約7.8%位になる。この2割が手数料ということは、先の成功報酬は、約1.9%の固定手数料に相当する価値があるということなのだが(金利、配当はゼロとしてブラック・ショールズ式で計算している)、ここで、ファンドマネジャーがもっと大きなリスクをとると、計算上は、このオプション価値としての成功報酬の価値がどんどん大きくなる。つまり、大雑把に言うと、成功報酬を手に入れたら、思いっきりリスクをとるのが経済合理的には正解ということになる。
 少なくとも、成功報酬を固定手数料に換算できない投資家は、成功報酬のファンドに投資すべきではないと思うのだが、この辺りの事情は、案外正確に理解されていない。
 この事情は、たとえば、「利益の20%をボーナスで払う」という条件をもらった、証券会社の株式トレーダーの立場を想像していただけると、お分かり頂けるのではないだろうか。彼は、少額の損でもたぶんクビだろうし、大きな額の損でもクビになるだろう。ならば、当たり外れが五分五分なら、最大限のリスクをとるのが、最も合理的ではなかろうか。いわゆる「成果主義」もオプションの一種なのである。  


■運用業界にもたらした功罪


 このように、成功報酬は、傾向として、投資家の心理の癖とオプションへの無理解につけ込んだ手数料の稼ぎ方なので、正直なところ、筆者はあまり好意的ではない。
 しかし、運用業界にとっては一つ長所があった。それは、ファンドの金額があまり大きくなくても、運用会社が食べていけるようになったことで、成功報酬型の手数料のヘッジファンドを商品として新規参入する独立系の運用会社が増えたことだ。これまで、日本の運用会社は、金融機関などの系列子会社が多く、独立系の会社が少なかったが、成功報酬が運用側に有利であることによって、新規参入が容易になった。
 とはいえ、これは、成功報酬の場合に、投資家が割高な手数料を払っているということの証でもある。筆者としては、成功報酬は残ってもいいが、もう少し値下がりしてもいいのではないかと思っている。「値上がりの2割」はいかにも高い。






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最終更新日  2006年04月21日 16時22分21秒
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