カテゴリ:歴史
おれはいつもつらつら思うのだ。 およそ世の中に歴史というものほどむつかしいことはない。 元来人間の智慧は未来の事まで見透すことが出来ないから、 過去のことを書いた歴史というものに鑑みて将来をも推測 しようというのだが、しかるところこの肝腎の歴史が容易 に信用せられないとは、実に困った次第ではないか。 見なさい、幕府が倒れてから僅かに三十年しか経たないの に、この幕末の歴史をすら完全に伝えるものが一人もない ではないか。それは当時のあり様を目撃した古老もまだ生 きて居るだろう。しかしながら、そういう先生は、たいて い当時にあってでさえ、局面の内外表裏が理解できなかっ た連中だ。 それがどうして三十年の後からその頃の事情を書き伝える ことが出来ようか。況やこれが今から十年も二十年も経て その古老までが死んでしまった日には、どんな誤りを後世 に伝えるかも知れない。歴史というものは、実にむつかし いものさ。 (「氷川清話」勝海舟座談) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2012年09月14日 17時24分03秒
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