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2013年03月08日
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【第6幕】

N    回想シーンに戻る。明治16年5月27日、森町の鈴木菓子屋に東京に急の用事で出かけていた藤三郎が戻ってきた。森町のお祭りが近く、店の者はみな忙しく立ち働いている。

SE    遠くで神楽を練習する笛や太鼓の音

 

藤三郎  お父さん、ただいま戻りました。

父    おお、お帰り。

母    あれ、予定より早くお帰りだったねえ。

藤三郎  氷砂糖が結晶したか気になりましてねえ。結晶できているかなあ・・・。

 

N    父と母二人は、顔を見合わせて無言である。藤三郎は、父母の様子に自分の留守中、放置されていたことを察しながらも釜のほうへ確認に行く。

 

藤三郎  あれっ、氷砂糖製造器の上に、箱が乗っかってる。自分がこんなにも一生懸命打ち込んでいるものを・・・・・・ああ、悲しくて涙が出てきそうだ。

 

N    藤三郎は、煎餅が一杯にはいっている箱などが、2つ3つ積み上げられているのを取りのけて、この十数日間、かまどの上に置きっ放しにされていた氷砂糖製造容器の蓋を開けて見た。

その時、そこに何を見たか?!見よ、そこには、多年苦心に苦心を重ねた彼の汗と血と涙の固まりでもある純白透明な氷砂糖が、数個、みごとに結晶しているではないか! 彼は、それを見た瞬間、自分の眼を疑った。いく度となく眼をこすって、見なおした。見よ!そこには、多年繰り返された無駄な実験のために汚れ切ったブリキの容器の底で、数個の透明な結晶物は、天からの隕石(インセキ)のように輝いているではないか。彼の眼に浮いていた悲しみの涙は、たちまち喜びと感謝の涙となって、その上にしたたり落ちた。

彼は、その箱をかかえたまま、父の前へ飛んで行って、物もいわずに、それを眼の前につきつけた。藤三郎の興奮した様子と、溢れる涙と、無言で突きつけられた箱とを見たときに、父は、自分たち家族の冷淡さに、藤三郎が物もいえないほど憤激しているのかと最初は思い違えたほどだった。

しかし、眼の前に突きつけられた箱の中を、見ない訳にはゆかない。

父は、見た。そして、そこに夕暮れ近い薄陽の中にサンとして輝いている数個の透明な結晶物を見て、思わず驚嘆の声をあげた。

その声を聞いて、母も妻も駆けよって来た。そしてひと目見ると、二人とも驚きと喜びの叫びを挙げた。それは、実に、この研究を始めてから7年目の明治16年(1883年)5月27日、藤三郎27歳の時のことであった。

 






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最終更新日  2013年03月08日 02時59分42秒



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