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カテゴリ:報徳記&二宮翁夜話
令曰く、東郷の開田桑野川の新開之を試みたり。是を以て行はれざるを知れり。曰く、開墾の一事何ぞ仕法の仁術とするに足らん。夫れ仕法の道たるや恵むに恩沢を以てし、凡そ廃れたるを挙げ絶えたるを継ぎ、禍を福に転じ貧弱を振起して富強となし民の疾苦する所を除き其の安息する所を与へ、惰風を革め汚風を去り、教ふるに人道を以てし導くに勧農を以てし、奢侈を戒め節倹を示し、五倫の道を正しくして君恩の無量なることを知らしめ、永く貧困離散の憂なからしむるを以て要とせり。是等の道未だ二宮に於て施す所あらず。何ぞ一片の開田を以て道の行はるべからざるを知れりとするや。且君先年未だ此の地の命を蒙らざる時に当りて草野某と約して曰く、我二宮の良法を以て国家の有益を開き下百姓を安ぜんとす。故に公料に此の道を開き、二宮の力を伸張せしめんこと我必ず之を尽力せんと。草野道の為に悦び、誠に使君の忠誠を感歎し、大道公行を以て君を期し、其の開業を希望せり。是れ君自ら約するものにあらずや。今は草野泉下の客となりしと雖も、目前今日の言を聞かば如何とかするや。君を以て故旧を忘れざるの信とせんや否や。我等の得て知る所にあらず。且此の道の公料に行ふべからざるを以て幕府に達せば、君の一言を以て道の廃棄斯に決せんこと疑ひなし。何となれば先年君二宮の道を試みんと言上せり。是を以て幕府仕法の試業を命じ玉ふ。其の実事未だ試業に至らずといへども、幕府の試み玉ふこと君の一身上にあり、年を経ること数年にして行ふ可らざるの道なりと言はば、誰か未だ試みずして言上せりと為さんや。然らば則ち此の一言に依て行はれざるの確証とならん。君其の道を試みずして行はれざるの道なりと定めんこと豈衆人の望む所ならんや。若し二宮其の初めより県令の属吏たらずして独立せば、何ぞ畢世艱難誠意を尽せし仕法徒らに廃棄するに至らん。初めは君の賢意に依つて道の開けんことを望み、今は君の一言に由つて道の廃せんことを哀めり。何ぞ始終の均しからざること此の如きや。是れ吾等の大いに君に望みなきことを能はざる所以なり。君少しくこれを慮れ。 令色を変じて曰く、我が言上せんとするものは二宮の道を廃せんとするにはあらず、公料に行はれずして日を送らば、従来丹誠施行の私領までも共に廃せんことを憂ひ、小田原に帰りて十分行ふことを得ば、二宮心中安くして有益少からず。是を以て此の事を建言せんとする而已。然るに子仕法の道我が一言に依て廃せんと云ふは何ぞや。曰く、君一度言上せば直に道の廃せんこと疑ひなし。如何となれば二宮幼年より万苦を尽し行ふ所の仕法良法なるが故に、幕府之を召して臣下となし玉ふにあらずや。生来万民撫育の道に力を尽すのみ、他の才芸あるにあらず。仕法を外にして召し玉ふとならば何を以て召し玉ひしや。果して仕法の道良善なるが為なり。私領遠近皆以て登用し玉ふを悦び、公料に広行有らんを望むこと久し。是れ公料に行はるゝの余光を仰ぎ、再復の宿志を達せんが為なり。然るに今公料に行ふ可らざるの道也として旧主小田原へ戻し玉はゞ、天下の諸侯誰か公料に行はれ難き仕法を行はんや。仮令禁止し玉ふにあらずといへども、公に倣ふものは私領の常なり。必ず忌憚する所ありて行ひ得ざるも亦人情の常にあらずや。加之小田原に於ては既に仕法を廃し、二宮の往返をも絶せり。是の如き小田原に帰り、何れの処に仕法を施すことを得ん。是れ君の明に知る所なり。仮令諸侯公料に行はれざるを憂へずして自国を興復せんと欲すといへども、二宮何ぞ其の求に応じ以前の如くに仕法を行はんや。一日も幕府の禄を食み君臣の義を守るもの、其の道を以て公料の民を安んずることあたはず。身退きて私領に道を行ひ、何れの君に報ぜんとするや。是れ常人だも猶為ざる所なり、況んや二宮の誠心に於てをや。苟も小田原に帰る可きの命を蒙らば、断然仕法の道を廃し、深山幽谷の客となり、再び世の交を絶せんこと疑ふべからず。是れ君の一言に由つて、仕法の道永く廃棄せんといふ所以なり。非邪。君何ぞ一度此の道を試み、弥々其の不可なることを知りて、然る後此の事に及ばざるや。今一言に由つて、私領億万の人民安堵の道を失はんこと、某等の見るに忍びざる所なり。君夫れ之を慮れ。令曰く、我之を思はざるに非ず。屡々仕法の事を以て官府に指揮を請ふといへども更に其の沙汰に至らず。是を以て発することを得ざるなり。 或曰く、是も亦我等の解せざる所なり。幕府元より二宮の良法果して可なるや否やを了し玉はず。是を以て君に命じて其の事業を試み玉ふに非ずや。然るに君之を試みずして其の指揮を官府に請ふ。官府何を以て一々開業の指揮あらんや。夫れ試みなるものは何ぞや。先づ発して試みずんば何を以て其の可不可を知らん。願くは君の速かに独断発業して之を試みん事を何を憂ひて未だ試みざるや。令曰く、官の事独断すべからず。若し事を断じて過あらば免るべからず。我身分をも恐るゝなり。是を以て独断に出でざる也と。或一言を聞き歎じて曰く、某数刻の愚言を呈するもの他なし。使君公の為に身を奉ぜりとするが故なり。請ふ辞せんと云ひ退きたり。先生何事をか談ぜしやと問ふ。或告ぐるに此の事を以てす。先生大いに怒りて曰く、県令の人となり我元より之を知れり。然して敢へて争はず論ぜず、従容として空しく日を送るもの豈我が心ならんや。已むを得ざるが故なり。道の興廃元より令にあるにあらず。是を以て我が気を下して以て其の時を待つ。然るに汝一度令に至つて談論し、剰さへ身分を憂ふるの一言を発するに至るまで詰問せるは何ぞや。我が心を尽して困苦するを知らず、一面の間に是の如きの談論を為す、何ぞ愚の甚しきや。是れ道を開かんとして却つて道を塞ぐ者に非ずやと大いに之を誡しむ。門下皆驚伏して仰ぎ見るものなし。此の時に当つては誠に仕法の窮極れりといふべし。先生の大量にあらざれば何を以て此の間に処し再び道を開くことを得んや。人々其の大量深慮を感歎せり。是より後県令も亦省みる所あるか。又敢て此の言を発せずと云ふ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2016年05月30日 02時26分07秒
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