GAIA

全集第二一巻p.1130-1136
嘉永三庚戌年十一月
信州佐久郡志賀村
神津半右衛門家株再興子孫永続仕法附上
借財金取調事
（略）
〆金五千七拾両
無利足五ケ年賦済方
（略）
　二之手段
一金五千七拾両　　　　惣借財金高
無利足七ケ年賦済方
（略）
　三之手段
一金五千七拾両　　　　惣借財金高
此済方
田畑反別弐町　　　　新小田村分
　　　　五反壱畝二十九歩
　此の地代金五百弐拾両
（略）
種々致勘考見候得共、仮令無利足五ケ年賦金貸渡、利付借財致皆済遣候共、一ケ年千拾四両、年賦返納出道無之候間、猶又勘考致し、無利七ケ年賦に貸渡候共、一ケ年七百弐拾四両余、猶以年賦金出道無之候間、迚も借財を以、借財に替候手段にては、相続之道無心元候、伝曰、『天下之者莫不有理』と云り、万物皆当然之理なり、何ぞ独り借財皆済之道のみ無らんや、大小之家株に従て、借財生ず、内より生ぜし憂患を、他の力のみを以て除んとすれば弥労して弥益なし、然らば其内を減じて禍を之全きにはしかず、夫レ病毒積る時は、身を亡し、借財積る時は、家を亡す故に、病を深からざるに除けば労少ふして、治し易く、借財少なき時に皆済すれば、家を全ふして子孫永く憂なし、若し病全身に満るに至り、是を除んとせば、名医良薬といへども、私欲の為に疑惑し、姑息に安んじ、断然として定理を踏事あたはず、病甚しきに至らざれば、口に苦きの良薬を不用、借債増倍して家を失ふに至らざれば、借財の家を亡す物なる事を不知、往々身を過り、家を誤り、千悔益なきを不免もの、皆是に由れり、若し身を亡すの病としり、一旦瞑眩（めいげん）の苦を不顧、速に除く時は、全身快復して寿を保ち、家を滅すの借財と知らば、一旦家株を減じ皆済すべし、家株を減じ皆済する時は、憂患消除して再栄を得る事、病毒去て一身壮健なるが如し、且家株の増減は、勤惰に由て生ず、一度屈して家を覆すの大借を除き、然後勤倹の二道を以、伸ん事を求めば、再復之道其中に存せり、今万有余金の家株にして、五千余金の借財あるは、猶半身不遂（ﾏﾏ）の病の如し、若し皆済の道を行ふあたはず、外に知計を以、此憂を除んとし、或は他の財を得て補はんとせば、傾覆を難免候間、能々勘考可有之段申談候処、何れも憤発之上被取行度旨に付、先他村越石之分、田畑、並家財諸道具、酒造蔵、貸屋、水車山林、材木に至迄、相当之直段に売払、都合金五千七拾両貸方銘々へ正金済取計候共、田畑品物にて相渡候共、都合次第に致返済候はゞ、全積年之大借金皆済相成、貸方損毛無之、居村田畑高三百五拾石余、反別三拾弐町六反歩余相残り、相続の道相立申候処如此候以上
　　　　　　　　　　　野州東郷御陣屋
　　　　　　　　　　　　　二宮金次郎門人
嘉永三庚戌年十一月　　　　　　吉良八郎
　　　　　　　　　　　　　　　富田久助
　　　　　　　　　　　　　　　池田図書
信州佐久郡志が村
神津半右衛門殿
（略）

＊大学 伝五章「蓋人心之靈、莫不有知、而天下之物、莫不有理。」