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カテゴリ:報徳記&二宮翁夜話
【四】先生日光祭田の荒蕪を開き百姓安撫の命を受け巡村開業す5
親族従者諌めて曰く疲労未だ除かず。病根亦全く去るに非ず。此の炎暑を冐し光山に登らば、豈再発の憂ひなしとせんや。冷気を待ちて至るに如かずと。先生肯ぜず。遂に登山し、奉行某に謂ひて曰く、廃田を開き此の民を安撫するの命を受くるより以来、速かに開業せん事を欲すと雖も其の順序を考ふるが故に遅々に及べり。先づ村々を巡回し、土地の肥瘠諸民の貧富人情の向背を察し、然る後に愚意を言上せんと将に発せんとす。奉行先生の病後未だ本快ならざる事を察し、駕を命じて之に乗じ回村すべしと云ふ。先生肯ぜずして曰く、某民の窮苦を憂ふる事急にして、自ら病を省るに暇あらず。且邑中の微細を洞察するにあらざれば、救助の道其の宜しきを得べからず。駕して以て回村せば、艱苦の実情廃衰の根元を了知する事能はずと固辞して徒歩し、大暑を冐し一邑を見分するに、必ず既往を考へ将来を察し、邑中の大小事悉く胸中に了然たらざれば他の邑に至らず。夫れ光山の村々山岳丘陵多くして平地甚だ稀なり。此の邑より彼の村に至るに、或は高山を超え数里を隔つるもの多し。栗山郷十邑の如きに至りては、最も深山の邑にして道路甚だ嶮なり。或は高山の頂に村あり或は深谷の邑あり。壮強の者と雖も頗る嶮路になやめり。然るに先生年既に六十七歳病後未だ快然たらず。食も亦平生に復せず。炎暑燃ゆるが如くなるに、此の嶮路を推歩し、村々の盛衰を鑑み厚く善人を賞美し、鰥寡孤独身に便りなきもの又は困窮のものを恵みたり。各々其の次第に由つて或は金一両より五両に至る。又は農業を勤め衰貧に陥らざるの村に至りては、或は十金十五金を以て邑中の民を賞す。且教ふるに孝悌を以てし、導くに田圃の尊き所以、勤業の徳甚だ大なることを以てし、或は堤を築き水田渇水の憂ひを除き、荒地を開き之を与へ、民の生養を安んず。諸民大いに感動し悦服せざるものなし。先生高山を越え、深谷を渉り、疲労極るに至つては路傍の石上に休し、又は草原に息して推歩せり。従者手に汗を握り病の発せんことを恐るゝと雖も、先生自若として困苦を厭はず。惟下民を安んずる事而已に労せり。人々其の誠心慈心の至れることを感歎す。是より先此の地の庶民先生命を受け、廃田を開き邑民安撫の道を行はんが為に此の地に至らんとするを聞き、大いに疑心を発す。奸民村民を煽動して曰く、古より租税定りあり。田圃荒蕪に就くもの甚だ多しと雖も、荒地の為に聊か貢税を減ぜず。何ぞや日光祭田の故を以て他邦に比すれば租税甚だ少なり。是を以て定租を納むることを得たり、今に至りて此の荒地を開かんとせば、必ず多分の用費なくんばあるべからず、多分の用財を以て廃田を起す時は、必ず開田より新に貢税を出さしめん。然らざれば用財を補ふ所有らず。此の如くなる時は開田の為に永久の租税を増し、村々の憂ひとならんこと必せり。是れ何ぞ下民の為を主とせんや。表に衰邑再復百姓撫育を以て名となし、其の実は貢税を増すにあらん。若し二宮某此の地に来らば、速かに村々より仕法開業無らしめ玉ふべしと日光官廨に訴へ出でん。然らば此の憂ひを免るべしと。衆皆之に同じ疑念益々盛んにして仕法を拒ぐの謀をなせり。然るに数月を経ると雖も先生至らず。伝言す先生長病の故を以て来ること能はず。又仕法開業の事は止みたりと云ふ者あり。遂に奸民の思慮を空しくして、其の術を施す所なく、日を重ね月を経るに及びて疑念漸く散じ、之を拒がんとするの念も亦怠りたり。時に六月下旬に至り先生忽然として登山し、直ちに回村見分して民を恵むこと甚だ厚く、開田の道を諭すこと誠に仁術にして、下民を子の如く恵むの良法なることを聞き、或は驚き或は感じ曾て疑惑を生ぜし事を顧みれば、其の懸隔霄壤の異なるが如し。是に於て衆疑解散し、互に仕法を願ひ求むる者挙げて数ふ可らず。嗚呼二月命令を受くる時に当り、速かに登山開業に及ばゞ、必ず下民疑惑の為に一旦は仕法の風化を妨ぐる事あらんに、先生自若として江都にあり。其の発するに及びては病苦を忍び炎暑を冐し、夜を以て日に継ぎ仁沢を施し大いに教誨を下し、一時に風動せしむることの神速なるは、凡慮の予め慮り知るべきにあらず。従者皆先生の大知自然の時を慮り、其の機に応じて其の宜しきを行ふことを感歎せり。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2016年08月22日 04時48分29秒
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