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カテゴリ:イマジン
第三次予選
インターミッション 「巻貝見つけた。フィボナッチ数列だね」 「あっはは、フィボナッチ数列とは。さすが天才」 「やっぱり音楽は宇宙の秩序なのかしら。音楽と数学って、明らかに親和性があるものね。マーくんもいいでしょ。理科系の成績」 「まあね」 ・・・・・ 謝肉祭 コンクールもいよいよ後半である。 二日目の第三次予選が始まった。 ・・・・・ 後半は一転、ラヴェルの難しいコンサート・ピース「ラ・ヴァルス」を、この上なく華やかに弾きこなしてみせる。 ロ短調ソナタ マサルの第三次予選の一曲目は、バルトークのソナタである。 いきなり、不穏で激しい音の連打で始まり、聴衆を異世界へと引きずりこむ。 ・・・・・ バルトークは生前、ピアノは旋律楽器であると同時に打楽器である、と繰返し述べている。 二曲目は、シベリウスだ。「五つのロマンティックな小品」。 名前の通り、一曲目のバルトークとはがらりと一八〇度異なる、ロマンティックでメロディアスな小さな曲が五つ並ぶ。 臆面もない、折り目正しく美しいメロディ。 ・・・・・・ 三曲目、そして今日のプログラムのメインディッシュ。 フランツ・リストの大曲、ピアノ・ソナタロ短調である。 一八五二年から五三年にかけて作曲され、初演は一八五七年。 リストは既にピアニストを引退していたため、彼の弟子ハンス・フォン=ビューローが演奏した。 最も特徴的なのは、通常のソナタ形式ではきっちり楽章ごとに分かれて主題部と展開部が奏されるのであるが、この曲は分かれておらず、全体でひとつづきの一楽章になっているところであろう。 三十分近い大曲であり、難曲揃いのリストの曲の中でも、さまざまな技量が要求される最高級の難曲である。 ・・・・・ 仮面舞踏会 あなたがほしい たぶん、コンクールでエリック・サティの曲を聴くのはこれが初めてだし、恐らくこのあともないのではないだろうか。 洒脱さを漂わせる、「あなたがほしい」。浮き立つような軽快なワルツ。 シンプルなメロディは、たちまちコンクール会場をパリの街角に変えてしまった。 次の曲になった。 メンデルスゾーンの「無言歌集」から、有名な一曲、「春の歌」である。 ・・・・ いきなり場面は、匂い立つ花園になったのだ。 あでやかに咲き誇る春の花が、目に浮かび、鳥が歌うさまが見える。 美しい。 なんと視覚的なー色彩感あふれる演奏だろう。 続いてブラームス。「カプリッチョ ロ短調」。 融通無碍(ゆうずうむげ)に変わるタッチ。これまた小粋な、小品である。 ものがなしさと、かすかなユーモアすら湛えた、トリッキーな演奏。 この情景は青だろうか。 青みがかった風景。どこか静かな湖畔の館で、広間で民族衣装を着て踊る男女だろうか。トウで踊り続ける女性の姿が目に浮かんだ。 ・・・・・ ドビュッシー「版画」の一曲目、「塔」。 ここでの「塔」は「パゴダ」と表記されており、ドビュッシーは東洋的な「塔」をイメージしていると思われる。 大きな、年代物の額縁に囲まれた、古い絵。 くすんだ色の、黄昏(たそがれ)の集落。ねっとりとした、亜熱帯のアジアの湿気。草の匂いや、熱風の匂いまで漂ってきそうな光景。古びた塔。 ドビュッシーの音楽の凄さは、聴くたびにそのメロディの新鮮さに驚きを感じるところだ。何回聴いてもハッとするー心がざわめくー新しいと感じるークロード・ドビュッシー、やはりあなたは天才だ・・・・・ そのまま、「版画」の二曲目、「グラナダの夕べ」へと移行する。 聴衆は、いつのまにかイスラムの匂いのする世界へと運ばれている。 「版画」、三曲目「雨の庭」。 突然、ふうっと気温が下がった。 それまで客席を照らし出していた茜色の光は消え、肌寒いフランスへと運ばれたのである。 雨もよいの庭、木々の生い茂る、午後の庭へと。 空は俄かに暗くなり、湿った風が吹き始めたと思ったら、ポツポツと雨が降り始めた。 やがて、風は強くなり、気まぐれに木々を揺らし、雨が木の葉を、花を叩き、何度もうなだれさせお辞儀をさせる。 子供たちは、雨を避けて走り出す。犬も一緒だ。 ああ、雨が降っている。 ・・・・・ 鮮やかなドビュッシーを弾き終えると、風間塵はすぐにラヴェルの「鏡」に入った。 ・・・・・・ 鏡に映った五つの風景。 蛾ー悲しい鳥たちー海原の小舟ー道化師の朝の歌ー鐘の谷。 ラヴェルが描いた風景を、風間塵が描く。彼の描く風景は大きい。イメージを思い浮かべるという程度のものでなく、丸ごと風景を舞台の上に再現してみせているかのようだ。ピアノごと風景の中に移動し、観客をも景色の中に連れこむ。 ・・・・・・ 深い瞑想を思わせる「鏡」の第五曲目「鐘の谷」が静かに終わると、三たびエリック・サティの「あなたがほしい」が流れ出した。 ・・・・・ 風間塵の最後の曲。 それは、この日いちばんの呼び物だったといってよいだろう。 風間塵の出番を待ち構えていたのと同時に、彼の最後の一曲を、誰もが無意識に待ち望んでいたのだ。 サン=サーンスの「アフリカ幻想曲」。 アフリカという土地にいっとき深く魅せられ、たびたびアフリカの地を訪れていたサン=サーンスには「エジプト風」と名付けられたピアノ協奏曲五番もあるが、「アフロカ幻想曲」は一八八九年に西アフリカ沖のカナリア諸島に向かう旅の途中で曲想が浮かび、一八九一年に完成したとされている。 喜びの島 ショパンのバラード。 ゆったりとしたテンポの感傷的なラブソング。 一転、華やかな曲が始まる。曲の構成に、技巧に心地好さを感じる、シューマンのノヴェレッテン。 ピアノ・ソナタ第三番ヘ短調はブラームスが二十歳の頃に書いた、彼の最後のピアノ・ソナタである。 ・・・・・ 本当に、音楽とは不思議なものだ―改めて、彼はそう思う。 演奏するのは、そこにいる小さな個人であり、指先から生まれるのは刹那刹那に消えていく音符である。だが、同時にそこにあるのは永遠とほぼ同義のもの。 限られた生を授かった動物が、永遠を生み出すことの驚異。 音楽という、その場限りで儚(はかな)い一過性のものを通して、我々は永遠に触れているのだと思わずにはいられない。 第三楽章。 がらりと変わる曲調。ドラマティックなスケルツオ。 第四楽章で、彼女は内省する。 これまでの自分を俯瞰(ふかん)する、深い深い内省だ。 かつて見えなかったものが見えてくる。聞こえていなかったものが聞こえる。自分の小ささ、愚かさ、幼さを痛感する。 そして、自分が音楽家として生きていることを、今まさに実感するのだー 最後の、第五楽章。 フィナーレに向けて、じりじりと上り詰めていくメロディ。 ・・・・・ 私たちは知っている。誰もが確信しているのだ。これからの自分が、自分の人生に対して力強く「イエス!」と叫ぶであろうことを。 長丁場のコンクールの、文字通り掉尾を飾る一曲 ドビュッシーの「喜びの島」。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2017年02月25日 17時06分08秒
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