現代俳句(抜粋:後藤)(64)久保田万太郎(1)
6月3日(月)現代俳句(抜粋:後藤)(64)著者:山本健吉(角川書店)発行:昭和39年5月30日久保田万太郎(1)したゝかに水をうちたる夕ざくら前書き:「日暮里渡辺町に住みて」「したゝかに」が万太郎調である。この言葉で、この句が生きています。地面に水をうったのであって、桜の樹ではない。夕桜が影を落としている家の前の道路にたっぷりと打ち水して、桜の花がいっそう清楚な感じを際立たせた。落花も地面に散り敷いているであろう。新涼(しんりょう)の身にそふ灯(ほ)影(かげ)ありにけり前置き:「祭のあとのさみしさは」「新涼の」で小休止がある。初秋の涼気を覚える夕刻、ふと独りの自分にそう灯影を見出した。自分の影に、孤独の淋しさを見出したのである。つぶやきが口をついた感じ。下町っ子の作者、祭りがいちばん郷愁を憶えるらしい。 (つづく)