カテゴリ:短歌
6月18日(火) 近藤芳美「土屋文明:土屋文明論」より 岩波書店近藤芳美集第七巻「土屋文明…土屋文明論」よりの転載です。 『土屋文明序説』(十三)より そうした作品はさらに内面化し「或る夜の槐のうれの星屑の落ちて空しき一生とおもへや」「暁に眼をひらくあたり人のなしかくの如きか墓壙の目ざめ」等と、しだいに事象を絶った瞑想ないし観念の世界に入る。それらはすでに蒼古とも言える古典的格調を持つ。このような歌が「目の前の谷の紅葉のおそ早もさびしかりけり命それぞれ」「老い朽ちしさくらはしだれ匂はむも此の淋しさは永久のさびしさ」等と並ぶとき、長い作歌生涯のはてに至りついた世界ということと共に、この国の千数百年にわたる和歌…詩歌伝統のトータルの上に達した「詩」ともいうべきものの達成の意味を改めて思わずにはおれない。 ほとんど平坦と見えた老年の境涯の或る日、昭和四十九年、土屋文明はその長子に思いがけず先立たれる。八十四歳である。寂寥は翌年に至りようやく「思ひ出でよ夏上弦の月の光病みあとの汝をかにかくつれて」等と歌われる。「病みあとの汝をかにかくつれて」は『ふゆくさ』等の遠い記憶につながる回想であろう。老いて残されたものの深い哀傷が告げられているが、作品はなお雄勁であり、調べ高く、表現に寸分のゆるぎを見せない。 (つづく) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.06.18 08:11:43
コメント(0) | コメントを書く 【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
エラーにより、アクションを達成できませんでした。下記より再度ログインの上、改めてミッションに参加してください。
x
|