舞台裏からの独白【舞台裏からの独白】この本を出版するべきだろうか、やめるべきだろうか、今この原稿を書いている瞬間も悩んでいる。 家族やスタッフなど、身近な者からは猛烈な反対を受けた。 今現在も多くの人たちに迷惑をかけ続けている身で、それも自分に都合のいいように書いているのではとの叱責なのだ。 そうだと思う。 私のところの債権者の人たちにとっても、『倒産なんて恐くない』『居直れ』などと言った内容で出されたのでは、「何だっ」と思うのは当然である。 倒産をした本人の私が感じている以上に、迷惑を被って、四苦八苦している人も多いはずだ。 物事には、すべて表と裏がある。 自分の都合のいい面だけを書いていると言われれば、返す言葉もない。 最初はすべて、登場する会社名も、個人名も実名で書いていたのだが、やはりそれでは周りに迷惑がかかる。 後から、すべて名前を消させてもらった。 また実例として数社の例をいったんは記したのだが、もしもの弊害を考慮して消去した。 結果として最初の原稿の三分の二程度残ったが、割愛によって論旨が飛んでしまった部分もあり、理解しずらい点はお許しいただきたい。 さらに著者名も、最初は責任を持つ意味で本名を使うつもりでいたのだが、そうすれば関係者が誰なのかもわかってしまう。 あえてペンネームにさせてもらった。 申し訳ないが、私が誰で、登場する企業がどこなのかは、詮索しないで欲しい。 不況は底を打ったと政府は宣伝している。 しかし、私はまだまだ不況が続くと思っている。 今の状況を、これが普通なのだと思わなければならない、とも考えている。 最初にも述べたが、たとえどん底をのた打ち回りながらでも、必死で頑張っているのだ、みんながみんな苦闘しているのだ、とエールを送りたかった。 最後に、この本に書かれたことはフィクションだと思って欲しい。 倒産の地獄の底から抜け出るクモの糸は、一本だけではなく何本もあると思う。 それぞれが自分の良かれと思う糸を這い登るしかないのである。 それにしても、出版すべきなのか、止めるべきなのか? ハムレットの心境は、今も続いている 一九九九年 四月 靖国神社能楽堂前の、桜の若葉の下にて ジャンル別一覧
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