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カテゴリ:シナリオ
![]() むかし、布教と修行のため、托鉢をしながら全国を行脚している六人のお坊さんがいました。 ある山里の村を通りかかると、村の男たちが広場で腕や足の治療を受けています。 一の僧: 多くの方が怪我をされているようですが、どうなさったのですか? 村長 : 鬼ばんばのせいなんですよ。峠の道に鬼ばんばが出没し、通行人を見つけると石を 投げつけるのです。その石に当たって怪我人が絶えません。この先を行かれる際に は峠の道ではなく、川沿いの道をお使いください。足元が悪く、遠回りになりますが。 二の僧: 鬼ばんばとは何者なのですか? 村長 : 詳しい素性は分からないのですが、鬼のような顔をした老婆です。ある日突然、峠 の道の真ん中に大きなヒノキが生えたのです。ワシらは往来の邪魔になるので、そ の木を切り倒そうとしたら、上から石が降ってきたのです。見上げると鬼のような 形相をした老婆が石を投げつけているのです。ワシらは鬼ばんばと呼んでいます。 三の僧: みなさんの怪我の様子を見ていると、頭に当たった人はいないようですね。 村長 : その通りなんですよ。不思議で仕方がありません。 四の僧: どうやら鬼ばんばには深い事情がありそうだ。一度、会ってみるべきだな。 五の僧: 村長さん、ことによっては、村人のお力を借りるかもしれません。 六の僧: 急に大きな木が生えるなんて、ありえない。これは、もしや・・・ 六人の僧は村長から鬼ばんばが出るという大きなヒノキ木がある場所を聞くと、峠に向かって 登り始めました。峠の頂上付近に着くと、確かに道の真ん中に大きなヒノキが生えています。 さらに近くに寄ろうとすると枝が揺れ、まさに鬼のような怖い顔をした老婆が枝の上に姿を現 しました。 鬼ばんば: おい、そこの坊主ども、何をしに来たんじゃ。まさか、この木を切りにきたので はあるまいな。 一の僧: ご覧の通り、木を切る道具など持ってはおらぬ。心配は要らぬぞ。 二の僧: この峠道を使っている村人たちが、突然出来たこの大きなヒノキで道をふさがれて困 っている。しかも、石を投げつけるそうではないか。ところが、頭には当てないよ うに気を付けていると見受けた。何か事情があるなら、話して欲しいのだが。 鬼ばんば: 話を聞いてくれるのか。ならば、すぐに降りるから、そこで待っていてくれ。 大きな木の枝から降りてきたのは、なんと、思いもかけないほど美しい若い娘でした。 鬼ばんば: この木の中には私の「いいなづけ」が閉じ込められているのです。木を切り倒され ると彼も死んでしまいます。若い娘の姿では人間たちは誰も私を恐れず、この木 を守り通すことができないと考えて、鬼のような老婆の姿をして、この木を守っ ていたのです。 三の僧: どんな事情で、あなたの「いいなずけ」は木の中に閉じ込められたのですか? 鬼ばんば: 彼は天上界の暴れ者で、樹木刑という罰を与えられて、地上界に降ろされたのです。 この樹木刑から彼を救い出すには地上界の人間の協力が必要であり、間もなく協力 してくれる人間が現れるから、それまで、この木を切られずに守り通せたら彼を許 してやろうと言われました。ですから、私も地上界に降り、この木を守っていたの です。どうか、みなさんのお力で彼を助ってください。お願いします。 四の僧: そういうことでしたか。あなたは優しい娘さんだ。 鬼ばんば: 私は人間たちに恨みなどありません。でも、あなたたちがここに来るまでは、なんと してもこの木を守らねばならなかったため、仕方なく石を投げていたのです。 六人の僧は円陣を組んで話し合ったあとで、大きな木の周りを歩き始めました。そして木の根が あたかも封印したかのように、がんじがらめに絡まっている箇所を見つけたのです。 五の僧: かなり頑丈な根だが、これを切れば解決しそうだ。村人の助けを借りよう。 六の僧: ワシらは呪縛の力を弱めるように、ここで祈らねばならぬな。 一の僧: 鬼ばんば、いや娘さん。我々を信じてください。 麓の村に戻った二の僧と三の僧が斧やナタを持った村人たちをたくさん連れてきました。 村長: 鬼ばんばの正体が、こんなに美しい娘さんだったとは。話を聞けば、なんと健気な。知ら ぬこととはいえ、この木を切り倒そうとしたのだから、石を投げられたのも当然だ。 鬼ばんば: みなさまに怪我をさせて申し訳ありませんでした。彼が助け出されたら、もう二度と 現われることはありません。お許し下さいませ。 六人の僧は村人に根を切る方法を伝えました。天上界の縛りを解くには呪文が必要なため、村人 が作業をする間、六人の僧全員が途切れることなく呪文を唱え続けました。そして、時間はかか りましたが、頑丈に絡まっていた木の根がようやく村人により切断されました。 四の僧: みんな、木から離れて!そして後ろを向いて手で目を覆い、地面に顔をつけてください。 決して見てはいけない。見ると彼の代わりに刑を受けることになる。 しばらくするとバリバリと木が引き裂かれる大音響がしました。引き裂かれた木は徐々に消えて いきます。すると、逞しそうな若者が一人、木があった場所に現れました。 五の僧: 村人たちはまだ目を開けないでいてくださいよ。娘さん、終わりました。 鬼ばんば: お助け下さいまして、ありがとうございました。二人で天上界へ戻ります。 二人は六人の僧に深々と頭を下げると峠の向こうに消えていきました。 六の僧: 目を開けてください。ヒノキは消えました。みなさんの協力に感謝しますぞ。 ようやく目を開けることができた村人たちはびっくり仰天。大きなヒノキは影も形もありません。 目の前にあるのは、いつもの峠の道です。突然、峠に現れたヒノキの大木と鬼ばんばの話は、 その後、長い間、村人たちの語り草となっていったそうです。 村人たちは、鬼ばんばの正体を突き止め、問題を解決してくれた六人の僧へのお礼として、峠に 六地蔵を祀り、峠の名前を地蔵峠と名付けましたとさ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2016.12.26 08:16:24
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