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カテゴリ:シナリオ
かつて日本では栽培が難しいとされていたパン用や中華麺用として使われる強力系小麦を中心に小麦全般の国内生産量が増えています。小麦は今でも日本で消費される量の86%を輸入に頼っていて、国内生産は14%です。国内生産地として圧倒的なシェアを占めるのは北海道ですが、最近の国内生産量の増加部分の担い手は、北海道以外の他府県産の小麦生産量の増加です。こうした後発の小麦生産地の共通点は、国内需要増への期待を背景に、その土地に合った新たな品種改良への取り組みで、その土地で収穫される小麦の品質の評価が高くなったこと、そして、地産地消の仕組み作りが機能してきて、小麦も大幅な赤字作物から脱却できそうな環境が整備されてきたことが挙げられます。茨城県の小麦栽培も後発組のため、生産量はまだ全国第10位ですが、農業県という実績のもと、県全域で作付けされています。今回は私の散歩道ルートで栽培され、現在、まさに収穫中の牛久市女化地区の小麦(ブランド名:ゆめかおり)を紹介します。
<麦の基礎知識> 「麦」とは、小麦、大麦、ライ麦、燕麦の4種類の総称です。大麦には食用の六条大麦とビールや焼酎等の酒に使われる二条大麦の二種類があり、二条大麦の事を一般にビール麦と呼んでいます。麦類はコーカサス地方周辺に起源を持ち、中国にも紀元前四世紀には伝播していたと考えられ、日本には2~3世紀に中国から伝わり、最初に小麦、次に大麦等が入ってきたそうです。いずれもイネ科の植物で、5月にはイネ科特有の小さな花を付けます。
小麦:目的別に多くの品種がありますが、いずれも殻が固いため粉にして利用され ます。小麦粉は含まれる弾力のもとであるグルテンの量によって、グルテ ンの量が多い「強力粉(パンなど)」、少ないのが「薄力粉(ケーキ・天 ぷらなど)」、2つの中間が「中力粉(うどんなど)」の3種に分けられま す。別にデュラム小麦粉(モッチモチのパスタなど)があります。 大麦:グルテンは含まれていません。その代わり豊富なデンプンと植物繊維があり ます。パンにしても膨らみませんから、粉にせずに粒のまま使われます。 (麦茶)や(麦ご飯)が有名ですね。また、大麦はビールづくりに欠かせま せん。 ライ麦:ライ麦はもともと小麦畑の雑草が進化した小麦に似た作物です。 近年、 ライ麦粉は食物繊維やミネラルが豊富に含まれており健康に良いとされ、 この栄養分の高さからライ麦パンが見直され、消費も増加しています。 燕麦(えんばく):世界で6番目に生産高の多い穀物ですが、食用としての利用よ り、家畜の飼料として使われることが多いです。実を脱穀し、押しつぶし て作られるのが、オートミールです。アメリカなど世界各国では、フルー ツと合わせたグラノーラが主に朝食でよく食べられています。
<日本小麦の収穫時期> 皆さんは小麦の収穫時期をご存知ですか?小麦栽培には「春小麦」と「冬小麦」の2種類があり、一年の間に2回収穫する時期があるのです。 【春小麦】:春に種を撒いて、夏に育て、秋に収穫します。アメリカ北部、カナダ、中国東北地方など、緯度が高く寒冷な地域では、冬を越すのが難しく春小麦が栽培されています。 【冬小麦】:秋に種を撒いて、冬を越し、春や初夏に収穫します。冬が寒くないアメリカ中西部、中国華北地方、フランス、スペイン、日本では、この冬小麦が栽培されています。
違いは、“冬を越すかどうか”というところです。冬を越すのが「冬小麦」です。日本の小麦のほとんどは冬小麦です。温暖な九州では5月下旬、関東は6月上旬が、収穫時期の目安です。冬小麦は育成期間が長いため、収穫量が多いといわれています。
<小麦の生産量ランキング> 日本では国内産小麦では足りない分を政府が国家貿易により外国産小麦を計画的に買い付け、国内の製粉会社に売り渡すしくみがとられています。製粉会社に売り渡された小麦は小麦粉に加工され、主にパン・麺・菓子などの小麦粉を使用した製品を製造する食品メーカーに卸されます。そして、それらの食品メーカーで製造された製品はスーパーなどの小売業者を通じて食卓に届けられます。
1.世界の小麦生産量ランキング 生産量1位は中国、2位インド、3位ロシア、4位アメリカそして日本はラン ク外。尚、日本が輸入している小麦の生産国はアメリカ(49.8%)、カナダ (33.4%)、オーストラリア(16.8%)で、この3カ国から国策として輸入 されています。 2.国内消費量の14%を担う国内小麦生産量の県別ランキング(2020年) 1位は北海道(66.4%)、2位は福岡県(6.0%)、3位は佐賀(4.1%)・・ ・10位茨城県(1.3%)です。北海道は過去に90%以上のシェア時代もあり ました。
<小麦の豆知識> 1.使いわけて、おいしく:小麦粉の用途は、グルテンの質と量できめられます が、加水量やこね方など加工方法も小麦粉がもっているグルテンの質と量 によってちがってきます。 (1)パンの場合:グルテンの多い「強力粉」を使い、粉に対して60~65%の 水を加え、グルテンがよく形成されるように、充分にこねます。 (2)うどんの場合:グルテンの量が中程度の「中力粉」を使い、粉に対して 30~40%の水を加え、ミキサーでソボロ状にしたあと、ローラーで圧 延します。手打ちうどんは、水を多く加え、よくこねるのでグルテン がしっかり形成され、独特の歯ごたえが生まれます。 (3)ケーキ、天ぷらの場合:グルテンの少ない「薄力粉」を使い、グルテン が形成されすぎないよう、軽くまぜます。 (4)スパゲティの場合:デュラム小麦を粗挽きにして作った小麦粉を使いま す。強力粉よりもモッチモチの本場のパスタを作るならこれです。 2.上手な保存方法:「ニオイが大きらい!」「湿気は、ニガテ」「使い残しは、 しっかり封を!」「虫の侵入にご注意」これらを守って保存してください。 3.上手な使い方:「よくふるってから使いましょう」「使った粉は、もとの袋 に戻さない」これが大切です。 4.麦踏み:小麦栽培の特徴ですね。11月から2月末にかけて4回ほど行います。 文字通り麦を踏みます。 折角元気に育っている麦ですが、「麦が強くなり ます」ので踏みます。麦は踏まれることで生理活性が高まり、分げつ(枝 分かれ)が増えたり、茎が太くなります。その結果、収穫量が増えること だけでなく、風にも、霜にも強くなります。特に霜が立つと土壌が持ち上 がってしまい根がダメージを受けますが、踏むことで土壌が固められ、霜 を防ぎます。農家では足ではなくローラーを使っています。麦踏みはまさに、経験がもたらした最高の栽培技術です。
<政府や生産者の意識が変わり、小麦の品種改良の花が開いた> 1972年の世界食糧危機でアメリカは大豆の輸出を禁止しました。これを契機に麦 類の国内生産に本作的に取り組むようになりました。又、食生活の多様化で、米 離れによる麦の需要増もあって品種改良に本腰が入れられたのです。品種改良に は10年、20年の歳月がかかります。栽培技術の向上も進み、品種転換とその成果 が表れ始めたのが、2000年を過ぎたころからで、2016年の中力系小麦についての 製麺試験結果では、うどん用に最も向いているといわれているオーストラリア産「ASW」を日本の上位3品種が上回るなど、国産小麦の品質は大幅に向上したの です。一方、タンパク質含有量の多い強力系小麦の栽培は梅雨がある本州以南では、じっくり熟成させることが難しいため作りづらいとされてきました。しかし、この数年パンやラーメンに向く、品種改良した小麦が続々登場してきて克服され つつあります。
<北海道だけじゃない! 全国で広がる国産小麦> 国産小麦の生産地として北海道が独占してきた理由は①小麦は寒冷地を好む作物で気候が合った、②梅雨がないため、収穫時に雨にあたることによる品質劣化がない。③北海道では連作障害や米の生産を補う作物として必須アイテムだったことにあります。しかし、小麦の品種改良技術の向上や地産地消の仕組みづくりなどで、手間をかけても高品質な小麦を作れば価格に反映される仕組みができたことで、北海道以外での作付けが広がったのです。茨城県の場合を見てみましょう。
<パン用小麦で人気急上昇、「ゆめかおり」が関東で事実上の統一品種に> パン用強力粉「ゆめかおり」で話を進めます。2011年ごろまでの県内の小麦栽培は収益の見込めない作物で、連作障害を回避するためや交付金目当てに細々と栽培される位置づけでした。ですから品質向上など望むべきもなかったのです。そこに登場したのが「ゆめかおり」という長野県が開発した品種です。「ゆめかおり」はこれまでの普及品種に比べ、たんぱく質含有量が高く、倒れにくい、成熟期が早いなどの優れた栽培特性があり、関東及び長野県、山梨県におけるパン用小麦の実質的な統一した奨励品種として広く普及しました。パン用小麦は、たんぱく質含有量が高いほど膨らみがよく、13%以上あるといいパンができるといいます。そのため出穂期には追肥が不可欠ですが、茨城県ではまさに主力の米の田植えの時期と重なるため手間がかかります。それでもいいものを作ろうという考えに賛同した仲間が集まり、2015年に茨城パン小麦栽培研究会が立ち上がりました。仲間は現在16名。2020年の出荷は470トン、2021年は見込み数量で670トンと、1,000トンが視野に入ってきました。こうした一連の取り組みが評価され、令和元年度全国麦作共励会(集団の部)で、全国農業協同組合中央会会長賞を受賞、令和2年度農業普及活動高度化全国研究大会で農林水産大臣賞を受賞しています。「ゆめかおり」は製粉されたあと、首都圏や地元のパン店のほか、学校給食やコンビニのパンを作る工場などで使われています。
<現在の茨城県の小麦生産> 現在、県内で多く作付けされている小麦の品種は3種です。 (1)「ゆめかおり」:強力粉用。長野県で開発された。グルテンの量や質がパン に向き、もっちりとしたおいしいパンができますが、中華めんやギョウ ザの皮などにも向いています。 (2)「さとのそら」:中力粉用。群馬県が開発した。日本めん用の通常アミロー ス小麦です。麺にしたとき小麦臭がなく、きれいな色合いとツルっとし たノド越しの良さがあります。また、どの様なお菓子にも使え、菓子 用適正にも優れています。 (3)「きぬの波」:中力粉用。群馬県で開発された。アミロース含量がやや低 く、麺(うどん)の粘弾性が改良された製麺適性が優れた品種で、つる っとした喉越しの良さ、繋がりやすさ、そして茹で上がりもピッカピ カのツヤがあります。
<茨城県牛久市女化町産の「ゆめかおり」> 地産地消の例として、私の散歩道ルートにある茨城県牛久市女化町(おなばけまち)の「安部農園」と「パン屋さん」を紹介します。安部農園の園主は2005年に新規就農された方で、小麦、落花生、ブロッコリーの栽培と、敷地内の竹林「女化たけのこ園」を運営しています。この農園でパン用小麦の「ゆめのかおり」が大事に育てられています。安部農園では「ゆめかおり」を、EM菌による有機栽培、無農薬栽培に成功して現在に至っているそうです。収穫した原麦は丁寧に磨いてから、石臼を使って自家製粉しています。磨くことによって余分な雑味がなくなり、麦本来の旨味や甘みが生きるのだそうです。石臼でゆっくり挽かれた全粒粉は、麦の旨味がたっぷり詰まっています。これこそが「本来の小麦」なんだなぁ、と実感できる逸品の小麦なのです。 女化町と隣接する龍ケ崎市内のパンのお店「クレッセント」では、「ゆめかおり」の全粒粉の風味が損なわれないよう、少量ずつ製粉したものを 5%から60%練り込んでパンを焼いています。 また全粒粉100%の「全粒粉カンパーニュ」は小麦のうま味が堪能できる逸品で、全国誌などにも掲載されています。「このお店で作りたいと考えていたパンが、少しずつですが、やっと実現できてきた気がします」と話されていました。
少子高齢化で人口が減り国内消費量全体が減少しているなか、外国産が86%を占めている小麦の世界では、外国産よりもいいものを作れば、市場を拡大することができる。特にパン用や中華麺用はまだまだ需要が作れるジャンルであることを、各地のケースが証明しています。この分野は今後も伸びると思います。
外国産の小麦を扱っている製パン工場やパン屋さんの従業員には肌荒れや体調不良を生じる人がいるそうですが、国産の小麦を扱っている方には起こらないことは知られた話ですよね。安部農園の「ゆめかおり」とまでは限定しませんが、是非、茨城県産の「ゆめかおり」でパン作りに挑戦してみてくださいね!
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最終更新日
2022.06.16 07:57:32
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