渡り蝶「アサギマダラ」の話
皆さんは「渡り鳥」についてはよく知っていると思いますが、蝶の仲間にも海を渡る「渡り蝶」がいるのを知っていましたか?蝶の名前は「アサギマダラ」と言います。日本で唯一の海を渡る「渡り蝶」です。羽根を広げた大きさは10cmほどで比較的大型の蝶です。アサギマダラの特徴の一つに優雅な飛び方があります。樹林の開けた場所で、羽根を広げたままフワ~フワ~と旋回する姿は何とも言えません。飛び方を見ただけでアサギマダラと分かります。 長距離の移動が初めて確認されたのは1981年。鹿児島県の種子島から飛びたった蝶が、遠く離れた福島県と三重県で見つかったのです。思いがけない知らせに、昆虫研究者の間では「北米のオオカバマダラのように、大規模な季節移動をしているのではないか」と大騒ぎになりました。 確認方法は「マーキング」です。捕獲した個体に標識をつけて放し、再捕獲により移動の実態を確認します。鳥類やウミガメなどでは標識タグを付けますが、アサギマダラの場合は、燐粉の少ない羽根に油性ペンで直接マークを記入できます。調査の結果、この蝶は日本列島を縦断、さらに南の沖縄や台湾まで延べ2,000キロメートル以上を飛んでいくのが確認されたのです。翌年春、その逆のコースを日本に渡ってきます。近年その不思議な旅が明らかになりつつあります。アサギマダラは春から夏にかけては本州等の標高1,000メートルから2,000メートルほどの涼しい高原地帯を繁殖地とし、秋、気温の低下と共に適温の生活地を求めて南方へ移動を開始し、遠く九州や沖縄、さらに八重山諸島や台湾にまで海を越えて飛んでいきます。海を渡って1,000キロ以上の大移動です。台湾・陽明山まで飛んだのはこれまで5個体が確認されていますが、これは2,100キロの飛翔になります。最近の調査では「2011年10月10日に和歌山県から放たれたアサギマダラが、83日後の12月31日に約2,500 km離れた香港で捕獲された。途中高知県でも捕獲されていて、世界第二位の長距離の移動が確認された」との報告がありました。逆に冬の間は、暖かい南の島の洞穴で過ごしています。新たに繁殖した世代の蝶が春から初夏にかけて南から北上し、本州などの高原地帯に戻るという生活のサイクルをきちんと守っているのです。季節により長距離移動(渡り)をする日本で唯一の蝶なのです。アサギマダラは蝶としてはかなりの長寿です。寿命についての報告は資料により幅が大きく正確には分かりませんが、83日後の捕獲実績からも数カ月は生きるようです。それでも長距離の渡りをする蝶はいつも新しい世代です。それなのに蝶が南へ、あるいは北へ、渡りの時期が来たことをどうして知るのか。そして、どうやってはるかな土地の方角を知るのだろうか?そして、風の強いあの大海原を渡りきる力はどこから生まれるのか?不思議です。全国規模で「アサギマダラを調べる会」(ホームページがあります)があり、各地の小学校にもこの会に参加しているクラブがあります。アサギマダラは人をあまり怖がりません。こんなところも人気がある理由かもしれませんね。皆さんも調べる会に参加してみてはいかがでしょうか。