茨城味自慢:どっこい生きている陸稲米
陸稲(おかぼ/りくとう)米をご存知ですか?稲作といえば水稲(すいとう)と呼ばれる水田でコメ作りをするイメージだと思いますが、実は陸稲という畑でコメ作りをする方法があります。これが陸稲米です。水稲では苗作り、水張り、田植えと複雑な作業が必要ですが、陸稲は畑に種まきの溝を掘り、種を播き覆土するだけですから簡単です。しかし、こんなに大きなメリットがあっても、国内では水稲耕作のコメの収穫量3000に対して、陸稲耕作は1という収穫量の差があります。当然作付面積も比例して差があります。どんな品種の稲も、どちらの耕作方法でもおコメはできますが、現在は品種改良が進んで耕作方法に合った稲を使い分けています。現在、国内で本格的に陸稲耕作しているのは茨城県(国内シェア70%以上)と栃木県ぐらいで、レアな耕作方法になってしまいましたが、こだわりのコメ作りとして今でも行われています。 <世界のコメ作り> 水稲耕作は川の水と雨量が豊富な日本に適しています。しかし、海外に目を向けるとアジア・アフリカを中心に、雨水に頼ってイネを栽培する天水田(てんすいでん)耕作が多く存在しています。その総面積は、日本の作付面積の約14倍。例えばタイの水田の85%が天水田です。これらの地域では干ばつが起きると、イネの収量が日本の平均収穫量の1/4程度に留まってしまいます。又、洪水によって畑地になる洪水常発稲耕作もあります。陸稲耕作は水稲耕作に比べて収穫量は少ないですが、干ばつの環境に強く、病気にも強いと言われています。世界の中には陸稲耕作しかできない水の乏しい国が多くあります。世界全体では、水稲が稲作全体の 56.9% を占め、同じく天水田稲が30.9%、陸稲が 9.4%、および洪水常発地稲が 2.8%の報告があります。 <国内で水稲栽培が主流となった背景> 岡山県にある「朝寝鼻(あさねばな)貝塚」から縄文時代中期の稲の細胞化石が発見されたことから、稲作は今から約6000年前からあったと推定されています。また、青森県田舎館村にある「垂柳(たれやなぎ)遺跡」からは、日本最古の陸稲の祖先の炭化米が出土し、これが陸稲づくりの始まりといわれています。現在の国内は水稲耕作が主流ですが、その理由は、①水稲に適した稲の品種改良が進み、耕作する治水技術も向上した。②水が豊富で、干ばつの心配が少ない。③稲の生長が早く、大きく、そして収穫量も多い。④機械化で省力化が進んだ。⑤陸稲米より美味しい。これに対して、陸稲が衰退した背景は、①国内のコメ余り現象が最大の要因(水稲のコメだけで賄える)です。他には、②畑は水はけが良くバランスのとれた土壌など、栽培に適した畑には制約がある。③畑に直接種籾をまいて育てるので、手間がかからないが、稲の生長は遅く収穫量も少ない。④雑草の除草作業が重労働。⑤連作障害がある。➅同じ耕作面積なら稲より麦の方が高収入とか? こんな背景から、昔はどの県でもやっていた陸稲耕作はどんどん姿を消していきました。 <水稲に向いた稲そして陸稲に向いた稲> 水稲と陸稲は、栽培される稲の種類がそれぞれ異なります。 (1)水稲:日常的によく食べられている「うるち米」を中心に作られている 代表的な品種:「コシヒカリ」「あきたこまち」「ゆめぴりか」 「ササニシキ」 (2)陸稲:粘り気のある「もち米」が中心。お餅、赤飯の他に、あられ、おか きなど、米菓の原料としても利用されています。 代表的な品種:「トヨハタモチ」「ゆめのはたもち」 「ひたちはたもち」 ※もち米は水稲耕作でも収穫されています。こちらの方が耕作面積は 大きい。 <陸稲耕作がもち米に適している理由> 陸稲でもうるち米ともち米の両方を栽培できますが、うるち米の稲を陸稲で栽培するとパサパサしたコメであまり美味しくないそうです。それに反して、もち米は水稲栽培よりも、陸稲栽培の方がおいしいそうです。他にも、うるち米ができるイネの花粉がくっつくと、ふつうのうるち米が実ってしまいます。そうすると、もち米としての品質が落ちてしまいます。そのため、もち米を作るときは、他のうるち米品種の花粉が混ざらないように一部の地域に集団で大規模に栽培することになります。水稲栽培が主流の国内では陸稲栽培は肩身が狭いです。これも衰退の要因でしょうね。 <うるち米ともち米の違い> うるち米ともち米はデンプンの組成と性質が異なっています。うるち米は透明な粒ですが、もち米は不透明な白色をしています。デンプンの組成はうるち米の場合は直鎖のアミロースを15~20%含み、残りはアミロペクチンですが、もち米はすべてアミロペクチンです。尚、栄養学的にはあまり差がないそうです。 <ネリカ米を覚えていられるでしょうか> 過酷なアフリカの環境で育つ強いアフリカ稲と豊産性を特徴としたアジア稲を交配させて、アフリカの食糧難を乗り越えるために生み出された救世主な品種で、 New rice for AfricaからNERICA、通称ネリカ米と呼ばれます。日本が多くの開発資金を拠出し、技術者も派遣して育種した陸稲米です。日本の一般的に食べるお米の倍以上のサイズです。 長細いですが、インディカ種とは若干違う外見です(インディカより太い) 日本のお米のように甘みがあります。 インディカ米のようなパサッとした感じではないですが、麦ごはんのようなパフっとした食感があるのが特徴です。現在は水稲向けのネリカ米も育種され普及しています。 先日、アフリカの子供たちがネリカ米の収穫を手伝う体験学習の様子が放映されました。 ※インディカ米は生産量が世界の80%を占めるもっともポピュラーなお米。日本 のお米はジャポニカ種、日本ではほぼ100%を占めるものの、世界でのシェアは 15%ほど。 国内では茨城県だけと言っても過言ではない陸稲耕作によるコメ作りを取り上げました。この陸稲米に向いた品種改良技術がネリカ米を誕生させました。水稲耕作ができない傾斜地でも耕作ができるのが強みです。大きく地球環境が変化している現在、復権する機会が出てくるのではないかと思います。応援してくださいね。