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2008.04.17
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カテゴリ:let me sleep beside you
「・・・自殺、でしょ?」

凪子さんの言葉に反応したのは、私だけではなかった。私が口を開くよりも先に、慶介が聞く。
「なんで分かった?何を知ってるんだ?」
その言葉にも、凪子さんは、ゆったりと微笑み、
「話すより、簡単に分かってもらえると思う。」
と、テーブルの向こうから、私とケースケの間に、自分の左手を差し出す。
「触れてみて」
と言って、目を閉じ、さっきと同じように、右目だけをきつく瞑る。
私は、ケースケの方を向いた。ケースケは、不満気な様子で、凪子さんを見ていた。
「一体、」
ケースケが話しかけようとしても、凪子さんは、さえぎるように一言、
「いいから」
と目を閉じたまま言う。ケースケは、ため息をついて、めんどくさそうに手を伸ばす。私も遅れないように慌てて手を伸ばして、ケースケと同時に、凪子さんの手に触れた。

瞬間。

ぐらりと体が揺れるような気がした。目を開いているのに、暗闇に放り出されたような感触。何かの、誰かの感情が流れ込んでくる。それは、深い深い絶望の淵に1人立っているような孤独。暗い暗い闇の中。

一瞬にそれだけを感じて、私は、耐え切れず手を離す。でも、そのショックからなかなか立ち直れなかった。

私は、一体何を、見たの?

ふわり、と体が浮かぶ感じがして、私は気を失っていた。

気を失っていたのは、時間にすれば、ほんとに短い間だったみたい。次に気づいた時、私はイスに座ったまま、上半身をケースケに預けていた。はっとして、体を動かした時に、私の方を向いたケースケの顔。その表情を見て、気づいた。慶介も同じものを見たんだ。黙ったまま、心配そうに私を見つめるケースケに頷いて、もう一度ちゃんと座りなおす。ケースケも同じように、体勢を整えた時に、凪子さんが口開いた。
「大丈夫?」
私は力なく頷く。凪子さんも、小さく頷いて、
「見たでしょ?今のはほんの一部。ヒロトは、いつもそういう闇の中にいた。あるいはそういう闇を抱えていた。私には、添い寝をすることで、それを吸い出す能力がある。だから、最初は時々、最近は、毎週、ガス抜きにきていた。でも、私がそうすることは、また違う闇を生んだ。美莉ちゃん、どんな事情があったにせよ、あなたに対して、秘密を持っているというヒロトの罪悪感から生まれる闇。いくら性交渉はなくても。」
罪悪感・・・。凪子さんは、柔らかく微笑んで、
「もちろん、秘密にする必要はない。って言ってみたわ。今みたいに、私と会えば、私に触れれば、一瞬で理解してもらえることだって。でも、ヒロトは、あなたに私の存在を説明することもできなかった。あなたに私を会わせることを拒んでいた。いくら、私が、美莉ちゃんに手を出すことはないって言っても。それほど、あなたはヒロトにとって大切な存在だった。ミリちゃん、あなたは、ヒロトをある意味では救い、ある意味では、追い詰めた。だけど、人間関係なんて、みんなそんなものじゃないかしら?ヒロトはもう、どうにもならないところまできていた。だから、仕方がないことだったの。」
私は目を閉じた。ヒロト・・。凪子さんの言葉は続く。
「あなたに光の、私に闇の部分をみせていたからって、それでヒロトの中の優劣があるわけじゃない。何も分かってなかったことにはならない。ヒロトは、あなたが大好きだった。大切だった。あなたには、いいとこだけを見せたかったのよ。」

ヒロト・・・。

時々、見せた暗い横顔、ヒヤリとするような感触。

ヒロト、私は一体。。。

凪子さんは立ち上がり、部屋をゆっくりと歩き、誰にも何も聞かずに、その場所に立つ。
「ここで首をつったのね。」

見上げた先に、私は見たはずのない、あの日のヒロトの体が見える気がした。


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最終更新日  2008.04.17 01:31:03
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