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凪子さんは、その場所に立ち、目を閉じる。右目だけが何度か強く瞑られる。
凪子さんは、今、ヒロトの最期の思考を吸収している? そう思うか思わないかの瞬間に私は、凪子さんに駆け寄り、手に触れていた。 一瞬にして、流れ込んでくるものを受け取ると、私は、またその場に崩れていた。 頭の中で少しずつ、受け取った情報がほどけていく。 私は、ヒロトの声が語りかけてくるのを聞いていた。 『美莉。今、僕は、ロープを吊るし終わり、それを視界の隅に捉えながら、君への最後の手紙を書いている。「美莉へ。・・・ 淡々と続いていく、ヒロトの声。 それに並行して、自分に呼びかけるケースケの声。 「ミリ!」 体を抱き起こされる。だけど、頭の中での動きが激しいからか、体を動かすことができない。あるいは、体を動かすための指令を送ることができない。 私は、頭の中でのヒロトの声と、耳から入ってくるケースケとナギコさんの声をデュアルで聞き続ける。 「大丈夫、すぐに目を覚ますはずよ。」 ため息が聞こえる。 「ほんと、無茶するんだから」 「さっきはすぐに目を覚ましたのに」 心配そうにいうケースケに、 「さっきは私が、コントロールして、セーブした量だったから」 「じゃあ、今は?」 「今のは、私が吸収している最中のものをそのまま受け取ったのよ。ショックが大きいわ」 「ミリは・・・何を見たんだ?」 「ヒロトの、ほとんど最期の思考よ」 「・・・」 「どこまで見たかは、私にも判断できないわ」 「俺にも同じものを見せろ。ミリが見たかも知れない最大限の量で」 「それは、やめておいたほうがいいんじゃないかしら?」 「ナギコ、頼む。」 凪子さんは、もう一度ため息をつき、 「じゃあ、ゆっくり見せるから、ずっと手を握っていて」 ・・・・しばらく沈黙が流れる。そして、ぐったりとした声でケースケ。 「ヒロト、ミリにこんなに遺書を?」 「そうみたいね。ミリちゃんに見える形で遺すことはできなかったようだけれど」 「ミリには、言うなよ」 「言わないわ、でも、もう見たかもしれない」 そう、私は、見た。 というよりも、聞いた。 ヒロトの最期の手紙。 ヒロトの声で。 美莉、ごめんな。 紘人。」 立ち上がるヒロトの影が見える。 視点はヒロトのものになる。 暗い部屋。 見たことのない角度から、今私がいる場所を見下ろしている。 そして突然の落差。 ヒロト! 声にならない悲鳴のような叫び声を、 心の中であげてから、 私は、今度こそ本当に、気を失った。 ![]() お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2008.04.20 06:29:36
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