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カテゴリ:yuuko
テツヤとユウコはいつも、あのカナダのポスターの前で待ち合わせた。季節が変われば、そのポスターも、レイアウトは変わらないまま、季節だけが変わった。
大体は、そのまま外を散歩して、映画をみて食事をした。テツヤの部屋に泊まるのは2週間に1回。テツヤが望んだことだ。自分を抑える自信がないからと。 それでもユウコは、十分幸せだった。自分の命はあと数年。その間を、こんな風にテツヤと過ごしていけるなら、十分幸せだと、そんな風に思った。 しかし、ほんの数ヶ月後、彼女は、体の異変に気付いた。 自分、テツヤ、そしてこの子。お腹を撫ぜながら、ずっとずっと考えた。そして、ユウコには、テツヤと別れ、一人で子供を産むという結論しか出せなかった。 自分には無理だとあきらめていた子供を産むという夢をテツヤはかなえさせてくれるんだ。私が彼の夢を奪うわけにはいかない。 その思いが強固にユウコの胸に腰を下ろしたのだ。 「ごめんなさい。もう、会えないの」 その日、いつもどおり駅まで送ってもらったユウコが、別れ際にそう伝えると、テツヤは、 「ユウコ・・?今、なんて?」 ユウコは、用意していたセリフを続ける。 「今度、お見合いすることになったの。ほら、田舎だし、私1人娘だから、うるさいのよ、親が」 「見合い、、?」 「そういうこと。テツヤと会うのは、楽しかったけど、もうオシマイ。私ももうイイトシだし、ね」 「イイトシって、、まだ、22歳じゃないか」 「そ、22歳。あっというまに23歳になるわ。田舎じゃ、イイトシよ。」 「そんなこと気にするなんて、、、ばかげてるよ、ユウコ。」 「ばかげてるかもしれない。でも、だからって、、まだ19歳で、大切な夢を追ってるあなたに、ついていけるほど、若くも、強くもないの、私」 ユウコは思う。よし、完璧にいえた。うん、泣いてもいない。よくがんばったよ、私。さ、あと一息。。 「だから、テツヤも、また誰かいいヒト見つけて。テツヤの夢、遠くから応援してるから、じゃあね」 一気に言い切り、歩き出そうとするユウコの腕を、テツヤが掴む。 「おい、ユウコっ。俺は、いやだ。どうしたんだよ?なんか、変だよ。ユウコらしくない」 「、、な、して。。」 「え?」 「離して」 「いやだ。ユウコ、俺、、ユウコと会えなくなるなんていやだよ」 ユウコは、仕方なく、彼の一番痛いことを言わなくてはならなかった。 「じゃあ、夢、あきらめて、私と結婚してくれる?」 テツヤが、痛いような顔をして、ユウコの腕をそっと離す。ごめんね、ひどいこと言って。でも、謝ることできないの。無理に笑ってユウコは続けた。 「冗談よ。そんな関係じゃないものね、私たち。お互いのこと、名前しかしらないんだし。会って、ただ、することするだけ、の関係、でしょ?」 テツヤの顔が赤くなり、こぶしを握りしめる。女を殴ったりするようなヒトではなかったけれど、いっそ殴られたいとユウコは思った。 「そんな言い方するなよ。もう少しだけ、時間くれよ、ユウコ。今度は大きな仕事をもらえそうなんだ。確かに俺、今すぐ、将来を約束したりはできないけど、だけど、ユウコのこと、遊びとかじゃないんだ。名前しか聞かなかったのも、それでも、いつも約束どおり、あの場所で会えるって信じてたからなんだ。ユウコのこと、大切に思ってる。分かってるだろ?」 「いいえ。私、、は、遊び、だったわ」 「嘘だ」 「本当よ。」 ユウコは微笑んで言う。 「テツヤ、とっても上手だから気持ちよかったわ。でも、、もう、、あきちゃった。だから、ごめんね」 「ユウコ!」 また腕を掴むテツヤ。 「離して。こんなことしても同じよ。それとも、私のこと、ずっとどこかにつないでおくつもり?ずっと見張っておくつもり?どんな隙からでも私はもう、あなたから逃れることしか考えていない」 テツヤは、ゆっくりと腕を離す。 「ありがと」 踵を反したユウコの後姿に、 「だけど、俺、これからも、あの場所で待ってる。伝言板にメモも書いておく。ずっと待ってるから。愛してるんだ、ユウコ」 ユウコは、泣きそうに顔を歪める。後姿でよかった。。と思いながら。 「好きにして。私は、もう2度と会うつもりないわ。さようなら」 一気に言って、小走りにその場を去る。すぐに息が荒くなり、ビルの陰に隠れると、胸に手を当てて、深呼吸する。 テツヤは、追いかけてはこない。 そう、それでいいの。もう、私のこと忘れて。 あなたには大切な夢がある。 私も、あなたを愛してるわ、、ごめんね、、テツヤ。。 ユウコは、荒れた息、流れる涙の中、胸の痛みに耐えるしかなかった。 ←1日1クリックいただけると嬉しいです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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