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2008.08.05
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俺はミリに隠し事をしている。

隠し事っていうか、言わなくちゃいけないのに、どうしてもなかなか言えないことがある。

毎日マンションのドアを開ける前に思ってる。「今日こそ言わなくちゃ」って。だけど、言えない。
「お帰り~」って、駆け寄ってきてくれるミリの、穏やかな笑顔を見てしまったら。
腰をかがめて、キスした後、イノセントに見上げてくるミリの瞳を覗いてしまったら。

途端に、「明日でも、、いっか」って。

そんな日が続いて、きっとミリも気づいてる。
俺が少し違うこと。
笑顔のトーンが下がってる。
目を合わせる回数が減っている。
俺の瞳の奥に何かを見つけるのを恐れるように。
俺に負担をかけないように、そんな自分を必死で隠そうとしていることも分かる。

ったく、情けない俺。
ミリを不安にさせてどうすんだよ。

ただ、意識したらなんだかどんどん言えなくなってきた。
言わなくちゃって思えば思うほどどんどん言いづらくなってきた。

喉元まで出かかっても言えないとき、俺は、ただ、ミリにキスをする。

ミリは瞳を閉じて、俺のキスを受け止める。
心の奥にたくさんの小さなため息を飲み込んでいる。

だから、俺は何度も何度も口づける。
そのまま最後までヤっちゃうこともある。
てか、ほとんどそのまま最後までいっちゃうんだ。

不安に思うミリを安心させたくて。
心から愛してるのはミリだけなんだって分からせたくて。

「愛してるよ、ミリ」

その言葉なら、いつでも何度でも口にできる。

耳元で囁きながら、優しく、強く、ミリを抱くんだ。

終わったら、ミリは、薄闇の中、俺の瞳を丁寧に覗きこむ。
その暗さなら、見つけたくないものを見つけなくて済むから?
そっと俺の頬に手を添える。
俺を見つめる、トロリとした瞳に、ひかれ、俺はまた何度もキスをする。

ミリは、その全てを受け止めてから、
俺の胸に、きつくしがみつくようにして眠る。

俺はミリの寝顔を見つめながら思う。

でも、ほんともう、言わなくちゃ。

「今度のドラマで、俺、キスシーンがあるんだよ」

って。

別に、女優さんとキスをすることに、なんの感情もない。
ただ、仕事、って感じだ。

だけど、ミリは。

俺が、他の女とキスをすることに、きっと何の感情もなくはないだろう。
ああ、どうしよう。

知った日にあっさり言っちゃえばよかったんだよな。
さらっと、なにげなく。
でも、それができなかった。

なんとしても撮影までには話さなくちゃな。

でも、もう、それも目前だった。

ああ、今日は随分遅くなってしまったから、多分、先に眠ってるだろうし。

俺は、ため息をつきながら、マンションの鍵を開けた。


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最終更新日  2008.08.05 22:44:44
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