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2012.02.01
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「っ!!・・・ちょっと、おにいちゃんっ」

瑞希ちゃんの声に、やっと、私から目をそらした悠斗は、なんでもないように微笑みながら、ゆっくりと瑞希ちゃんの方を向きました。私は、自分の頬の熱さに、とてもじゃないけど、瑞希ちゃんの方を向く勇気なんてありません。

「なんだよ、瑞希」

余裕な声でそんな風にいう悠斗に、

「・・・なんだよって、・・・こんなところで・・・」

小さく咎めるようにいう瑞希ちゃんの声に、瑞希ちゃんも、きっと赤くなって、戸惑っているのが分かります。

・・・それはそうだよね。こんなとこで、、、悠斗ってばもう。

「こんなところで、なんだよ?」

悠斗は全然懲りた様子もなく、イジワルに瑞希ちゃんにそう尋ねました。

「・・・なんでもない。もういいっ」

瑞希ちゃんはハズカシそうに、あきれたように、そう言い放つと、

「楓おねえちゃん、いらっしゃい」

気を取り直したように私に声をかけてくれました。随分年下の瑞希ちゃんがしっかり気持ちを切り替えたのに気づき、私も、さっと、普段の私を取り戻し、彼女に笑顔を向け、

「こんにちは、瑞希ちゃん」

そう言いながら、キケンから逃れるように、悠斗のそばを離れ瑞希ちゃんに駆け寄りました。

「ちょ、楓っ」

戸惑ったように私を呼ぶ悠斗のことは、私も、瑞希ちゃんも受け流して、久しぶりの挨拶。

「この間は写真ありがとー」

ウレシそうにそういってくれる瑞希ちゃん。私はその写真を撮った日を思い出して、

「ううん。ねえ、楽しかった?あの日」
「うん、とっても」
「よかった」
「ねえ、また、行ってもいい?」
「もちろん。フジシマくんもね、スジがいいって褒めてたわよ」
「ほんとに?」
「うん。アノヒト、陶芸に関しては、お世辞言わない、、ていうか、言えないヒトだから信じていいわよ。私も、瑞希ちゃん、向いてると思うし」
「わーい。うれシー」

ニコニコ2人で話していると、

「ぅおっほん」

絵に描いたようなわざとらしい咳払いが聞こえました。2人で目を合わせてから、ゆっくりと、振り返ると、

「ちょ、オレ、そっちのけすぎない?」

さっきまでの、ヨユーでイジワルな姿とは似ても似つかないスネ顔の悠斗。瑞希ちゃんは、そんな悠斗を横目で見ながら、私にニッコリ笑って、

「ねえ、今度はおにいちゃん抜きでも行ってもいい?」

と訊ねます。

「ちょ、瑞希お前、何言ってんだよ、そんなの・・」

横から否定しようとする悠斗。私も、瑞希ちゃんに微笑んで、

「もちろんよ」
「よかった~」
「って、おいっ」
「だって、お兄ちゃんいると、あれでしょ?」
「うん。あれ、だもんね」
「あれって、なんだよ?」
「あれ、は、あれ、だよね~」
「そうね」
「ってなんだよ」

食い下がる悠斗に、瑞希ちゃんは、声をひそめて、

「お兄ちゃんて、はっきり言って、ジャマ、なんだよね?」

声をひそめて、だけど、たしかに「はっきり」言った瑞希ちゃんに、すかさず、悠斗が、

「おい、聞こえてるぞ?」

と突っ込みます。

「んー。ジャマ、とまでは、言わないけど、ちょっと、、、気が散るかもね」

私がそう答えると、

「って、楓まで、、、」

愕然と言う悠斗に、2人で目混ぜして微笑んでいると、

「なんだよっ、ヒドイな~」

しょげた声でいう悠斗。

「当たり前でしょ、おしおきだよ」

すかさず、そういう瑞希ちゃんに、

「って、おしおきされるようなことなんもしてないだろ?」

口を尖らせていう悠斗に、

「よく言うっ。ね~、楓おねえちゃん」

瑞希ちゃんは私の腕に腕を絡ませて、おねだりをするようなしぐさで同意を求めました。

「ちょ、お前、何してんだよ、楓に触んなよっ」

悠斗のあきれたヤキモチに、瑞希ちゃんはからかうように、

「いーでしょ?別に。ね~、楓おねえちゃん」

と繰り返しました。くすっと笑った私に、近づいてきて、もう片方の手を取り、

「ね~、じゃ、ないよな、楓?」

縋るような目で訊ねる悠斗。両側から私を見つめる、よく似た2人の目が、ほほえましくて、兄妹のいない私には、なんだかうらやましくも思えて、すこし心がほっこりました。

「って、もう、お姉ちゃん困ってるじゃない」

私のわずかな沈黙をそんな風に受け取った瑞希ちゃんが、そういうと、

「困ってんのはお前のせいだろ?」
「違うでしょ、お兄ちゃんのせいでしょ?いっつもおねえちゃんを困らせてばっかり」
「いっつもってなんだよ」
「いっつもじゃない、窯でもべったり離れないし、さっきだって、こんなとこで、、」
「なんだよ~」
「・・・ね~、楓おねえちゃん?」
「ね~、じゃ、ないよな、楓?」

繰り返される同じ言葉。今度は、3人とも一瞬黙って、くすっと同時に笑ってから、

「キリね~。中、入るか」

と悠斗が言いました。

「うん。早く、どうぞ、お姉ちゃん」

と私を促す瑞希ちゃんに重ねるように、

「瑞希のお邪魔ムシがいたんじゃ、もうイイこともできねーし」

とぼそっとつぶやきながら促す悠斗。

「なによ~」

今度は瑞希ちゃんが一瞬口を尖らせてから、

「って、ほんとキリがないおにいちゃん。」

そういいながら笑顔になって、大きくドアを開け、

「どうぞ、お姉ちゃん、ママも楽しみにお待ちかねだよ」

と口にした言葉に、2人とじゃれている間に、いつのまにか、すっかり解けていたキンチョーが戻ってくるのを感じました。そんな私に瞬時に気づいた悠斗が、

「ほら。だいじょうぶだから」

肩に添えてくれた手の力強さと、ニッコリと促してくれる瑞希ちゃんの笑顔に助けられ、私は、ドアの中に一歩足を踏み入れました。

・・・もう一度同じドアを通る時には全く違う表情になっていることなんて、もちろん予想もしないまま。


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最終更新日  2012.02.02 00:40:42
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