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2010.08.08
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註※このページは、本来「覚醒都市DiX」で公開する予定の「幻想水滸伝4」二次創作小説「クォ・ヴァディス」の改定ページ、新規ページを、サイトに先駆けて公開しています。
 そのため、後に「覚醒都市DiX」で公開されるものとは内容が変更される可能性があることをご理解ください。




クォ・ヴァディス30-3


 マクスウェルの目が一層の厳しさを帯びたが、アカギとミズキはより直接的に、思わず立ち上がってアグネスを睨みつける。
 この場にいる人間の中では、かつてラマダの部下として、クレイ商会と組んで仕事をしていたこの二人ほど、クレイと縁が深い者はいない。
 直接、クレイと話をする機会はそう多くは無かったが、それでもアカギとミズキほどの忍びをして、どこか人間離れしたクレイの冷たい空気には、無意識のうちに危険なものを感じていた。
 このアグネスは、そのグレアム・クレイと旅をしていたという。
 組み合わせの意外さもさることながら、現在の事件の中心にいると思われるクレイと行動を共にしていた、という事実は、安易に聞き流せる要素ではなかった。

「二人とも落ち着いて。まだアグネスは、説明の途中のようだ」

 マクスウェルが二人をたしなめたが、半分以上は自分を落ち着かせる言葉であったろう。
 アグネスとしてもこの反応は予想していたのか、表情を変えることはない。
 そして語った。
 群島解放戦争の終了直後、崩れ落ちるエルイール要塞からクレイを救出したのは、他ならぬエレノア・シルバーバーグである。

「もう一度、教育しなおさなきゃねぇ」

 そう嘯(うそぶ)いて、エレノアは、かつての弟子と、新参の二人の弟子を引き回し始めた。
 こうして、エレノア、アグネス、ターニャ、そしてクレイという、奇怪な組み合わせの旅路が始まったのである。
 その旅路は結局、クレイが彼女たちの前から姿を消すまでの三ヶ月程しか続かなかったが、その短いさなか、殆ど口を開くことがなかったクレイの様子は、アグネスに強い印象を残した。
 世を儚(はかな)んでいるのか、それとも自分の境遇に拗ねているのか、仮面のように顔面に張りついた笑顔の下には、隠し切れない無情感が漂っていたが、それはまだ力を伴っていた。
 今思えば、どのような状況からでも逆転できる術と、その機会に対応できる心境というものをクレイは知っている。野宿の焚き火をにらみつけながら、彼はその手段を延々と考えていたのかもしれなかった。
 アグネスがもう一つ印象に残ったのは、エレノアが何をするにしても、自分やターニャをさしおいて、まずクレイを気にかけていたことである。
 アグネスが知る限り、エレノア・シルバーバーグは、他人に対してあまり情を見せる人物ではなく、その分だけ印象に残ったのかもしれないが、それに対してクレイが殆ど無反応を貫いたこともあったであろう。
 エレノアをして気を使わせる存在感への嫉妬と、それに対して無反応を貫ける態度への怒りが、アグネスのクレイの印象の強さの源泉と言ってよい。
 彼がエレノアの前から姿を消してしまったときは、心の端ではせいせいしていたが、ヤツはまた必ず何かをしでかすだろう、というエレノアの言葉には全面的に賛同した。
 あの力を失っていない目を見ていて、アグネスにも想像がついていた。
 それから、三人の女性の旅の目的は、グレアム・クレイという一人の諦めの悪い男の消息を追うことに変わっていった……。

「要するに、私はグレアム・クレイが嫌いなんです。
 彼にはなんの恨みもありませんが、彼が何か悪さをするのなら、それを阻止することになんの呵責もありません」

 明快すぎるアグネスの言葉に、マクスウェルは先ほどまでの厳しい表情を、少しだけ緩めた。
 完全に個人的な感情であるのだが、あまりに個人的すぎて、逆に好感が持てる。
 エレノアの謀(はかりごと)は確かに的確で最善なのだろうが、マクスウェルがどうも好感をもてないのは、自分の虚名を含めて、何もかもを利用する冷たさが垣間見え、どこか人の情を感じさせないからだ。
 もちろん、策とはそういうものなのだろうが、それにくらべれば、ストレートに感情を露(あらわ)にして見せたアグネスの方が、遥かに人間っぽさを感じることができた。

「どちらにしても、ジュエルさんたちを助け出すには、ラインバッハ二世とグレアム・クレイの脂ぎった中年コンビをブッ倒すのが、一番の早道なんです」

 若いアグネスにかかっては、群島の謀主も腕利きの闇商人も、まとめて「中年」で一くくりである。
 エレノアの言葉を借りていた先ほどまでと違い、自分の思いを語ったことで「地」が出てしまったのか、段々とアグネスの表現は過激になっているが、その語り口には嫌味がなかった。

「エレノア様はクレイを止めることを最優先にしておられましすし、私もそれは重要だと思いますが、私の心境は、むしろ皆さんに近い。
 私にとっても、ジュエルさんやオベルの人たちはお友達です。彼女たちを助けたい気持ちは変わりません。
 そのために、マクスウェルさんに傷ついて欲しくないという気持ちも同じです。
 さっき、意地の悪いことを言ったことは謝ります。最善の結果を出すためにも、最善の道を選んでもらえませんか、マクスウェルさん」

 これが、リノ・エン・クルデスに受け入れられなかったターニャと、マクスウェルに受け入れられたアグネスとの、最大の違いであったろう。
 現実をひたすらに指摘するだけでは、開ける道でも開けないことがある。
 リノ・エン・クルデスの失敗や、マクスウェルの凶行を指摘し、責任を追及することは、簡単なことだ。
 重要なのは、それがまだまだ覆すことができるのだ、ということを相手に理解させることであった。
 そのためには、ターニャのように、相手から一定の距離を置いて牽制打を打ち込んでいるだけではだめなのだ。
 ターニャは頭が良すぎ、何もかもを必要以上に客観視しすぎるきらいがあったが、時にはアグネスのように、相手の懐に飛び込んで、目的と心情とを共有することも必要だった。
 朝、ケネスとマクスウェルたちが激しいやり取りをしたときに、アグネスが一言も口を挟まなかったのも、少しでもマクスウェルたちの現状と心境とを理解したかったからである。
 神算鬼謀という言葉もあるが、人望というものは、その対象となる人物が齎す結果についてくるものではない。
 結果が重要な要素であることはたしかである。
 だが、結果を残せなくなった途端に、それまでの人望が嘘のように孤独に包まれる人物もいれば、どこまで落ちぶれても周囲を惹きつける人物もいる。
 本物の人望を生み出すものは、唯一、人格である。人格にこそ、人はついてくる。
 そして、そういう人物に認められることが軍師の生きがいであり、そのために策に血を通わせることができるかどうかが、軍師の腕の見せ所である。
 長くエレノアの元にいたアグネスは、そのことを知っていた。
 人情家のアグネスに求められるのはむしろ、そういった人と目的や心境を共有しながらも、軍師として一人冷静な視線を保ちえるかどうか、という忍耐心であったろう。

 マクスウェルは、難しい顔をしている。様々な思案が、その頭蓋骨の中身でうごめいているに違いない。
 アグネスも、ポーラたちも、つられるように表情が険しくなる。
 マクスウェルが、うなるような低い声で言った。

「エレノアの案が、ジュエルたちを助ける一番の早道。
 ……それは、本当なんだな。確かなんだな?」

 低い声と同様、視線も低い。
 立ち上がっているアグネスを見上げるそのブルーの視線には、救いを求めているようでもあり、決心を固めるための最後の一言を求めているようでもあり、複雑すぎる多くの思いがこもっていた。
 アグネスは、その思いの一端を叩きつけられて少しひるんだが、持ち直した。
 マクスウェルが二年前の彼ではないように、自分もエレノアの傍にいただけの二年前とは違うのだ。
 エレノアに一つの仕事を任されるようになった以上、自分がその責任に耐えうるということを証明しなければならない。
 アグネス自身も、歴史に試されていた。
 そのことを理解したうえで、アグネスはマクスウェルに頷いて見せた。

「私はそう信じています。
 そして、そのことを実証するために、全力を尽くすつもりです」

 数瞬の沈黙。
 にらみあうような真剣な視線を交わすマクスウェルとアグネス。
 その瞬間は、マクスウェルの長いため息によって終わりを告げた。

「分かった。エレノアの策に乗ろう。
 軍師アグネス、よろしくお願いするよ」

 オベルを攻撃した自分が、オベルの人を助けるために一勢力を率いる、ということへの皮肉や罪悪感がないわけではないが、ケネスに殴られ、アグネスに諭(さと)され、マクスウェルにもようやく現実を受け入れることができるようにはなっていた。
 目的がはっきりし、いくらか現実味のある筋道を提示されれば、彼には自分の思案に拘(こだわ)らず、最善の道を選択できるだけの能力も覇気もある。
 この柔軟さが、国王という立場に縛られたリノ・エン・クルデスでは発揮しきれない、マクスウェルの長所でもあった。
 疲れたような、だが何かを吹っ切った笑顔を浮かべたマクスウェルと、表情全体で安心した様子を現すアグネスが、固く握手をした。
 まだ足元はおぼつかないが、それでもマクスウェルは動き出した。
 歴史が彼と共にどのような動きを見せるのか、まだ予測できる人間はいない。






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最終更新日  2010.08.08 15:54:28
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